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記憶を記録するということ。

2011-03-22

みなさんは、川瀬巴水(はすい)という人をご存じだろうか?大正から昭和にかけて「新版画」で代表的存在だった絵師である。日本各地を旅して描いて残した作品は600点以上にも及ぶ。同時代には、美人画で知られる伊東深水がいる。

先日、日本橋の丸善にて、「大正百年 川瀬巴水 木版画展」を見に行った。貴重な初刷りの作品がズラリと並び、展示販売されていた。なかには、100万円以上の値がついていたものもあった。

保津川遊びが楽しい「春の嵐山」、真っすぐの杉の夏木立が清々しい「日光街道」、銀の春雨が印象的な護国寺の「春雨」、鄙びた光景に心和む松江の「湖畔の雨」、広重も同じ構図で描いたという「薩垂(さった)峠の富士」……。

大それた演出がないその素朴な作風は「昭和の(安藤)広重」といわれるゆえんだ。きっと日本人のDNAに響くものがあるのだろう、誰しもが懐かしいと思える。このところかなり強張っていた心、そして身体が溶けてゆくのを感じる。

私が足を止めたのは、春の宵に桃色の桜が映える「白河城址の桜」、そして暗くてさびしい光景だが、丸い月が発する光が温かな「陸奥三島川」。どちらも巴水が東北で出逢い、そして描きたいと真剣に向き合った風景だ。

今回の震災で多くのいのちが奪われた。そしてたくさんの美しい風景も奪われた。大きな自然の力を前に、小さな人間は太刀打ちできないことを思い知らされた。

だからこそ、記憶を記録することは、人間が生きるうえで大切なことだと思う。今回、川瀬巴水に、そして「週刊東洋文庫1000」で取り上げた古川古松軒に、身をもって、教えていただいた。

東北太平洋沖を旅したことがある方は、ぜひアルバムを、日記を、そして頭の中の記録を開いてみてはいかがでしょう。

川瀬巴水の作品(渡邊木版美術画舗HPより)

「週刊東洋文庫1000」の『東遊雑記 奥羽・松前巡見私記』

2011-03-22 written by かおるん
知恵のある奴は知恵を出せ。金のある奴は金を出せ。勇気のある奴は勇気を出せ。そして、何もない奴は元気を出せ。(松山千春)はい、元気出します! ちいさま、久しぶりに胸にしみます。かおるんでした。