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わが町の看板母さん

2011-05-17

お医者さんによると、無意識にこすっていたんじゃないか、だそうです。右の白目半分が多量の内出血。深夜、鏡に映る自分を見て、思わず叫んでしまった、顔面ホラー状態のかおるんです。

またまた話はガラッと変わって……。実家の近くに、小さな商店街があります。昨夏オープンした青い屋根がおしゃれな若夫婦が営むパン屋さん、おばちゃん一人で味を守り続けている惣菜屋さん、昭和4年から店を構えるおでん居酒屋さん、そしてかぼちゃやタケノコといったひと癖ある野菜を美味しいつけもんに変身させちゃう漬物屋さん、区内全域に毎朝牛乳を届ける大きな牛乳屋さん……看板はあるけどシャッターがずーっと閉まっている店や泣く泣く撤退していった店もありますが、近隣の大型スーパーにも負けず、毎日張り切って商売をしているお店がたくさんあります。

そこでひときわ目立つのが、角のタバコ屋さん。5台の自販機(!)には、日本、アメリカはもちろん、ロシアにドイツ、フランスにインド……タバコを吸わない私でも心がときめいてしまうほど、世界各国の銘柄が顔をそろえています。店に入れば、普通のタバコはもちろん置いてありますが、キセルや手巻き用のタバコ製品がズラリ。

この店の店主であるおばちゃんは、逆風吹き荒れるタバコ界だけど、タバコを愛してやまない、いわば“タバコ界のジャンヌ・ダルク”。初心者の若者たちにはとくに手取り足取り、タバコのいろはを伝えています。時には人生相談なんぞもしてくれます。そしてなんといっても彼女はこの町の生き字引。ここに引っ越すとまず住人は、この店を訪れ、おばちゃんから町の歴史を聞くのです。まさにこの町の看板娘であり、看板母さんなのです!

東日本大震災から1か月ほど経ったある日、おばちゃんから「大丈夫?」と手紙が届きました。東京に息子さんがいるので、一人暮らしのあなたのことも同時に気にかけているとのこと。もし次の休みに帰ってくるのであれば、一度顔を見せてほしいと書いてありました。余震やら原発やらで不安だった私は、おばちゃんの手紙を読んで泣きそうになりました。そしてこの連休、半年ぶりにおばちゃんを訪ねました。小さなおみやげを下げて。

おばちゃんは顔を見るなり、「元気でよかった!」と私の手を握ってくれました。店のタバコは品薄状態。あの震災で、全国のJTの6工場のうち、東日本の2工場が被災し、タバコの製造ができなくなったそうです。痛手は確かに大きいけど、もう一つの看板商品である手巻きタバコが好調だから、なんとか大丈夫とのこと。

「手巻きタバコは既成品より不便やけど、自分なりに工夫してじっくり作るっていう楽しみがある。それってほかのもんにも通じると思うんよね」とおばちゃん。不便をいとわず、工夫を楽しむ──そういう発想が、いまを生きる私たちには必要だとおばちゃんは言いました。

翌朝起きると、玄関の牛乳箱の上に紙袋がちょこんと置いてありました。「おみやげのお返しに露地物のイチゴです」とメモがはさんでありました。やっぱりご近所さんっていいなあ。くたびれた心が、ほっこりほどけていくのを感じました。

おばちゃんのタバコ屋さん

2011-05-17 written by かおるん
今日は満月です。しかしながら東京地方、いまは雨が降っています。見れるかなあ。「できるだけ早く希望のあかりが見れますように」月に願いを、かおるんでした。