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食べることと出すこと

2020-11-28

2020年夏、腸の具合がよくなかった。食事制限もあり、いろんなものが食べられなくなった。食べていいものをたくさん食べすぎて具合が悪くなったりもした。食べたいものが食べられなくなってとても落ち込んだ。腸があまりに痛くて、涙を流したことも何度かあった。

そんな中、出会った本だ。『食べることと出すこと』──医学書院の人気シリーズ「ケアをひらく」の中の一冊である。著者はカフカ研究者として知られる頭木弘樹氏。大学3年生のとき、難病の潰瘍性大腸炎を患った。この本はその闘病を描いたものである。

食事と排泄──人間にとって当たり前のことが、ある日できなくなってしまったら、どうなるのか? 食べないとどうなるのか? 病気の下痢とはいったいどういう状態なのか? 会食という食コミュニケーションができない、退院したとしても出すことが怖いから引きこもりになった、など孤独で絶望的な日々を綴ったものだが、軽妙かつクールな筆致で、どんどん読み進めることができる。

また個人的な経験談に少しでも多くの人に共感を持ってもらおうと引用された文章も興味深い。著者の運命の人、カフカはもちろん、ゲーテ、トルストイ、漱石、芥川、太宰など彼の闘病を支えた文学だけでなく、ベートーヴェンの名言、米朝の落語やアフリカのことわざなど、じつにさまざまな言葉を引用しながら展開していく。

最後の章、著者は中学時代、交通事故に遭ったエピソードを綴る。「自分には起きない」と思っていたことがある日起きてしまったら、「自分は大丈夫」と思えなくなる。そのうえ、難病にまでかかってしまったのだ。ダメージは大きい。怪獣映画では最初に踏まれて死んだ人が気になったり、木が揺れ小鳥が鳴いているだけで幸福を味わったり、努力は万能ではないことを思い知らされたりする。

「災害にしろ、病気にしろ、経験した人としない人とではものすごい差がある。一生懸命想像はするけれど、届かないものがあるということを忘れてはいけないと思う」(山田太一)──私のお腹の中で起こってることは誰にもわからないように、想像力だけでは及ばないことがたくさんある。相手を思いやるということはじつに難しいことなんだ、とあらためて思い知らされた。

2020-11-28 written by かおるん
さて昨日の東京、新型コロナの新規感染者数は570人と過去最多となりました。もうこんな段階に来たんだから、「自分には起きない」とは思うな。ほんとそれ、だと思います。