安倍晋三首相という人には「歴代総理にできなかったことをやって歴史に名を残したい」という願望が強いことは間違いないだろう。その一つが参議院でも強行採決して成立させた「安保法制」だが、間違いなく歴史に名を残した。「悪名」としてではあるが。

 『週刊ポスト』(9/25・10/2号、以下『ポスト』)によれば、どうしてもやりたい憲法改正はできそうもないので、次に安倍首相が企んでいるのは「デノミ」だというのである。

 デノミとは通貨単位を変更することだが、今の1ドル=約120円を1ドル=新1円にしようというのである。アベノミクスならぬアベノデノミを密かに考えていると『ポスト』の覆面官僚座談会で財務省A氏が明かし、その理由を経産省B氏がこう解説する。

 「明治初期の日本円は1ドル=約1円のレートだった。しかし、敗戦後の猛烈なインフレで円の価値が急落すると、GHQが占領政策で1ドル=360円に固定した。いわゆるドッジ・ラインの一つだ。当時、ドルとの交換レートが2桁の通貨は『二流国』、3桁だと『三流国』と見られており、米国は日本の通貨の価値を『三流国』扱いにした。為替レートが円安に固定されたから戦後の日本が輸出主導で高度成長を遂げることができたのは間違いないけれども、今や円はドル、ユーロとともに『3大国際決済通貨』になっている。(中略)『占領下でGHQに押しつけられた』という過程も現憲法とそっくりで戦後レジームそのものだ」

 戦後レジームからの脱却をテーマに掲げる安倍首相だから、憲法改正ができないならデノミでもやるかという短絡発想から出てきた思いつきのように見える。

 だが、デノミに関しては昭和40年代の鳩山威一郎大蔵事務次官のころから根強くあった。自自公連立の小渕恵三政権でもデノミを検討すると連立合意にあったし、福田康夫元総理は熱心なデノミ論者で、鳩山由紀夫・民主党政権でもデノミを検討するよう指示が出されていたそうである。

 なぜそれほどデノミをしたがるのか。先の経産省B氏がこう話す。

 「デノミで通貨単位を変える場合、混乱を招かないように新札発行後、一定期間を過ぎると旧札を使えなくしなければならない。そうなると、麻生財務相が『880兆円も眠っている』という国民のタンス預金が交換のために銀行に集まる。交換する際、マネーロンダリング防止のために戦後の新円切り換えの時のようにいったん口座に入金させるようにすれば、マイナンバーと合わせて個人のタンス預金まで把握できる。相続税など資産課税を強化している財務省にとって、デノミは課税のために非常に都合がいい。本当は財務省が総理にデノミを吹き込んでいるのでは」

 たしかにデノミは安倍首相の思いつきではなく、大蔵省時代から財務省がやりたくてしょうがない税収増加策ではある。それに長州の先輩・伊藤博文が明治4年にやった1ドル=1円の通貨改革と同様のことを平成でやることができれば、「通貨でも一流国になった」として、安倍首相も歴史に名が残せますと役人に吹き込まれたのであろう。

 だが、意外にも財務省A氏は、経済的な意味はあまりないと考えているというのである。その理由は、通貨を変更すればコンピュータのプログラムから看板、印刷物の書き換えなど膨大な手間と費用がかかり、法律も「100万円以下の罰金」を「1万円以下の罰金」と読み替えることになるから六法全書なども全部改訂しなければならないため、企業や政府が相当な投資を迫られるからだというのである。

 だがこれは本心ではあるまい。先に触れたように、眠っているタンス預金、なかでも高齢者たちの懐に手を突っ込んで、持っているカネを吐き出させることができれば、それぐらいの投資は財務省にとって痛くも痒くもないはずだ。

 麻生財務相は自著のなかで、年寄りの持っているカネを吐き出させる施策を考えろと書いていたし、山口組組長たちの隠し持っている上納金や相撲取りがタニマチからもらう「ごっつあん祝儀」なども一網打尽にできるのだから、オイシイはずである。

 『ポスト』は、デノミが実施されれば、やはり泣きを見るのは国民だと指摘している。これまで98円だった商品は端数切り上げで1円にされてしまう「便乗値上げ」ラッシュが起こる。だが、給料は同じように「切り上げ」されるかは、はなはだ疑問だという。

 心理的な面も大きいはずだ。1000万円あった貯金が10万円だといわれると、資産が減ってしまったと不安感が湧いてきて、消費が落ち込むことは間違いない。

 それにこれほど財政状況が悪いなかでデノミが実施されると、2009年に北朝鮮がデノミを行なったようになりかねないという声もある。北朝鮮では「新通貨の交換には上限を設ける」という条件がつき、それ以上の通貨を持っている人間からは強制的に国が没収してしまったのである。

 このやり方には先例がある。先ほど触れた昭和21(1946)年に日本で新円切り換えを実施したときに行なわれた手法を真似たのである。日本の場合は強制的に預金させ、それに対して最高90%の財産税をかけたのである。

 同じことが現代でも起こりうるかもしれない。“裸の王様”安倍首相が「安保法制」でできなかった「歴史に名を残す」野望の実現のためにデノミを考えていてごり押しするならば、後世、歴史家も国民もこう言うであろう。「恥の上塗り」だと。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 3人の老人が転落死した老人ホームの「事件」は他人事ではない。なけなしのカネをはたいて入ったホームで虐待されたり言葉の暴力でパワハラされた挙げ句、突き落とされたとしたら、死んでも死にきれまい。
 鬼怒川が豪雨で氾濫して多くの家が流されたが、そのなかで流されずに超然と踏みとどまっていたヘーベルハウスが話題である。堅牢な造りのようだが、ほかの〇〇ハウスより高価なのであろう。地獄の沙汰も金次第か。嫌な世の中だね~。

第1位 「川崎老人ホーム3人転落死『疑惑職員23歳』の素顔」(『週刊文春』9/24号)
第2位 「『首都水没』完全シミュレーション」(『週刊文春』9/24号)
第3位 「日本の移民地帯でEU難民問題を聞いてみると…」(『週刊文春』9/24号)「今週の遺言 大橋巨泉」(『週刊現代』9/26・10/3号)

 第3位。今、世界的に問題になっているのがシリアから逃れてくる難民問題である。この問題がクローズアップされたのは、シリア難民の3歳のアラン・クルディくんの遺体がトルコの海岸に打ち上げられた写真がネットに上げられ、瞬く間に世界中に難民たちの悲惨な実態が知られたことからだった。
 アランくんの一家はトルコに入国し、叔母のいるカナダへ移民申請をしたのだが拒否されてしまった。そのため仕方なく全長4.5メートルの小さな舟でギリシャを目指したが、高波を受けて転覆してしまったのだ。
 この問題を日本の週刊誌はほとんど取り扱わないが、『現代』で大橋巨泉氏が書いている。
 カナダは10月に総選挙を控えているが、なぜ移民を受け入れないのかが争点になり、「カナダはもっとシリアやイラクへの軍事介入を強めるべきだ」と主張するハーパー現首相の立場は苦しくなっているという。
 だがシリアを含めた中東・アフリカを逃れ欧州に流入する難民や不法移民は今年に入ってだけでも36万人以上といわれる。ドイツのメルケル首相は難民受け入れに寛容だが、ハンガリーなどは徒歩でハンガリーに入国できるほぼ唯一の通りをフェンスで閉鎖するなど、EUの中で難民の対応をめぐって不協和音が出ている。
 また「確実なのは、ドイツをはじめ西欧諸国に、移民や外国人を排斥する極右勢力が力を増す」と巨泉氏は予測し、EUの壮大な試みは失敗に近づいていると悲観的だ。
 ドイツへ越境しようとしているシリア難民の多くはクルド人だが、『文春』によれば埼玉県のJR蕨(わらび)駅周辺にクルド人が2000人近く住んでいる「ワラビスタン」と呼ばれる地域があるという。
 トルコ政府との対立を避けて90年代前半に渡航してきて5年ぐらいで倍増したが、「ほとんどが日本で難民申請を認められず、就労可能な『特定活動ビザ』や、数カ月毎に更新が必要な『仮放免』で不法就労をしながら滞在しています」(日本人支援者)。日本に来れば何とかなるという情報が流れ、数百人のシリア難民が日本を目指しているとも言われるそうだ。
 ちなみに26年度で日本に難民申請した人は5000人。認めたのはわずかに11人だけである。国際貢献を謳うのなら難民受け入れの枠をもっと広げるべきであろう。

 第2位。栃木や茨城で降った総雨量が600ミリを超えたといわれる。『文春』によれば、多くの自治体は大雨時の浸水ハザードマップを公開しているが、その多くは総雨量589ミリを記録した2000年の東海豪雨を基準に作成しているため、それを超えたら被害はどれくらいになるか計り知れないという。

 「鬼怒川の豪雨が首都圏で降れば被害はその比ではありません。利根川氾濫を対象とした政府の試算では、最大で死者六千三百人の被害が出ると予想されているのです」)(土木学会首都圏低平地災害防災検討会座長・土屋信行氏)

 私の住んでいるのは東京中野区、大久保通り沿い。武蔵野台地に位置する東京西部である。土屋氏は、武蔵野台地には神田川や善福寺川などの中小河川が数多くあり、台地を削って流れているため勾配が急だから、短時間で水位が上がると言っている。
 中野区のほかには練馬区、杉並区、三鷹市、武蔵野市がゲリラ豪雨に注意が必要だそうだ。私の家は青梅街道と早稲田通りの谷間にある。そのためだろう小学校は「谷戸小学校」という。
 子どものころは、台風が来るとすぐ近くの桃園川があふれ、床下浸水は何度も経験している。今はその川が暗渠になり歩道になっているからわからないが、ゲリラ豪雨があれば間違いなく氾濫するだろう。
 先日早朝、震度4の揺れの大きい地震があった。70年間、さほど大きな天変地異もなくきた東京だが、そろそろという予感がある。
 今度の世紀末を思わせる映像のなかで、唯一明るい話題になったのは、濁流の中でピクリとも動かず次々に流されてくる家々を受け止め、スックと立っていた一軒の白い家だった。 『文春』によればこれは旭化成のヘーベルハウスだそうである。鉄骨の枠組みの堅牢な造りで、阪神・淡路大震災のときも7棟あるヘーベルハウスは健全な姿で立ち続けていて、写真誌にもその姿が掲載されたそうだ。たしかにほかの〇〇ハウスより頑丈そうだが、高いのだろうね。

 第1位。ひどい老人ホームがあったものだ。『文春』と『新潮』(9/24号)がともに扱っている川崎市幸区(さいわいく)の介護付き有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」のことだ。
 昨年11月から12月の間に、そこに入居していた要介護の男女高齢者3人が相次いで「転落死」したのである。
 ベランダの手すりの高さは120センチあった。亡くなった女性2人の身長は140センチ台だというから、80代、90代の高齢者が乗り越えることは考えられないと、『文春』でベテラン介護士が話している。遺書もない。
 故意にやったとすれば重大で悪質この上ない犯罪である。神奈川県警が動き出した。そして、この事故が起きた「すべての夜に勤務していた」介護職員、23歳のAが捜査線上に浮かんできたという。
 Aは5月に施設内で窃盗事件を起こし逮捕(起訴されたが200万円で示談が成立)されていたこともあり、心証は真っ黒だと社会部記者が語っている。Aは5月に解雇されている。
 だが、逮捕されたときのために取材しているマスコミの囲み取材に対してAは、「疑われているのではないかと不安だ」と冷静に応じている。それというのも「事故死として処理したため司法解剖は行われず、遺体は火葬されてしまった。今さら検死のしようもありません。しかも、鑑識すらまともに行っていなかったふしがある」(社会部記者)そうだから、殺人として事件化できなければ警察のメンツに関わるというが、難しい捜査になるはずだ。
 このケース以外でもこの施設でひどいことが発覚している。6月のAの同僚たちによる85歳の女性入居者への虐待である。被害者の家族が母親の頬に血がついていたので施設長に抗議をしたが、反対に「お前らはうるさい」と怒鳴られてしまった。
 そこで母親の部屋に密かにカメラを設置した。4人の職員たちが母親に「死ね」と暴言を吐き、首を絞め頭を叩いているシーンを撮ることができた。それを証拠にして川崎市に訴え、4人は自宅謹慎の後解雇されているが、刑事罰にはならないようである。
 こんな施設でも入居者には人気だったという。なぜなら入居金はなしで月額利用料が全国平均の24万円より少し安い22万円だから、入居者が殺到した。だが「食事はひどいし、事故は多発するなど、業界では“フダ付き”のブラック老人ホームです」(介護コンサルタント)。こんな施設がほかにもまだまだあるはずだ。終の棲家がこんなのでは嫌だが、そうでない老人ホームは高いだろうし……。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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