「もみじ(紅葉)」といえば、紅く色づいた秋の楓(かえで)を思い浮かべるものだが、「青もみじ」とは、春の若葉からどんどん深みを増す、緑の若い楓のことをいう。日本には「楓」の品種が実に25種類以上もあり、そのうち「もみじ」と呼ばれているのは、紅い色づきが特に綺麗な品種だけだといわれている。そして、「もみじ」の名所は、初夏の「青もみじ」においても見事な姿を見せてくれるのである。

 透き通るような「青もみじ」とさらさら軽やかな竹林、地表には、満ち溢れた苔の深い緑が京都の初夏を包み込む。特に入梅の頃になると、独特のしっとり感に惚れ込んで、この季節ばかり訪ねてくる旅行者が少なくない。山際にある寺院は、どこも格別な自然の姿を見せてくれる。筆者が初夏によく散策に出かけるのは「長坂越え」である。

 「長坂越え」は、京の七口の一つである鷹峰(たかがみね、北区)の長坂口を基点とし、日本海側の若狭へと続いている古道である。鷹峯からしばらく「北山杉」の林を抜け、京都市内や「大文字送り火」の「舟形(西賀茂船山)」を一望できる「京見峠」を越える。さらに、丹波への分岐点となる杉坂へ進むと、「青もみじ」や「北山杉」の古木が素晴らしい道風(とうふう)神社(別称・武明(たけのみょう)神社)や地蔵院が現れる。道風神社は平安期の名書家の一人、小野道風を祀ったお社で、自然と一体になったような様子が心地よい所だ。

 この道は、かつて若狭の海産物や丹波の農産物が都まで運ばれてきた重要な物流ルートである。一方、『源平盛衰記』や『太平記』、中世の合戦記などにも、都へ向かう軍勢の要衝としてたびたび登場している。また、本阿弥光悦の芸術村として知られる鷹峰周辺は、古くは「栗栖野(くるすの)」と呼ばれ、天皇が鷹狩りなどを楽しんだ場所でもあるのだが、豊臣秀吉の時代には、洛外に位置づけられていたため、山賊や追い剥ぎなどが出没する危険な場所だったとか。近代には林業が盛んであり、山道の途中には、昔の貴重な杣道(そまみち)やキンマ道(木材搬出用の木道)の痕跡が残る。長い歴史をさまざまに映し出す京都の古道の代表である。


長坂越えでは、江戸時代から営業していたという京見峠茶屋が、数年前に閉店したことが残念でならない。朝、主人が釣った鮎を提供したり、つきたての餅で善哉を出したり。ご子息が再開を目指している、という噂を聞いた。ぜひ、がんばっていただきたい。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 自動車産業はそれほど先ではない時期に斜陽産業になる。そう私は思っている。

 だいぶ前になる。私は講談社という出版社に籍を置いていたが、50代半ばで自動車専門雑誌を出す子会社に出向させられたことがあった。

 社員全員を集めた初めての会議で私は、「クルマは人殺しの道具である。そんなものを、宣伝・広報する雑誌を私はやりたくない」と言って全員の大顰蹙を買ったことがあった。

 この無茶苦茶な暴言について少し説明する。クルマはもはやスタイルやスピードを競うのではなく(当時は自動車事故の死者が毎年1万人前後で推移していた)、安全性に一番カネをつぎ込むべきなのに、それをしない自動車産業は怠慢であり批判されるべきだ。このままいけば石炭産業や鉄鋼産業と同じ運命が待ち受けているに違いないというものだった。

 最近になってクルマ業界も安全性を声高に言うようになり、高級車には自動ブレーキなどを取り付けるようになったが、私に言わせれば遅きに失したと思う。

 CO2排出削減が叫ばれるようになり電気自動車(EV)への移行が始まってはいるが、私は、EVが普及する前に自動運転車が主流になり、既存の自動車メーカーはグーグルやインテルといったIT企業の下請けとして生きるしか道はないのではないかと考えている。

 今回は自動車産業の未来を云々することではないので、ここらあたりでやめておくが、クルマは国家なりという時代は遠い夢物語になりつつあるのだ。

 現時点だけでとらえれば、トヨタが日本を代表する企業であることは間違いない。だがここも、さして明るくない自社の未来をどう考えるのかということよりも、昔ながらの人事抗争に明け暮れていると『週刊現代』(5/6・13号、以下『現代』)が報じている。

 『現代』によれば、4月1日付で発表されたトヨタの役員人事が「懲罰人事」だと、社内ではこの話題で持ちきりだったというのだ。

 その人事とは、牟田弘文専務役員(61)が退任して子会社の日野自動車顧問に就任し、6月の株主総会で副社長に就くというものだが、これが「懲罰人事」だとされるのは、日野の新社長に牟田の下にいた下義生(しも・よしお)常務が抜擢されたからである。

 日野自動車社長は代々トヨタの専務経験者が就くポストだそうだから、系列企業の役員は「豊田章男(とよた・あきお)社長の逆鱗に触れた牟田氏に対する懲罰人事。自分に逆らえば、こういうことになることをトヨタグループ中に見せしめた」と解説している。

 では、何が社長の逆鱗に触れたのかというと、これがよくわからない。一つは15年8月に発生した中国・天津市の国際物流センターでの爆発事故の際、現場近くのトヨタの合弁工場の従業員50人近くが負傷したために生産が10日間近く止まってしまったのだ。

 そのとき、豊田社長は現地に入って陣頭指揮をとると言い出したのだが、牟田専務が現場は大混乱しているので、社長を受け入れる余裕がないと引き留めたというのである。部下としては当然の意見具申ではないのかと思うが、豊田社長は立腹したそうである。

 続いて16年4月にトヨタが導入したカンパニー制にも「トヨタの強みが失われる」と主張して最後まで反対したという。

 カンパニー制にすると、自動車会社として大事なブランドイメージなどがバラバラになるリスクがあるという危惧からのようだ。

 だが、そうしたことに腹を立てた豊田社長が、牟田氏が率いる、工場の建設からロボットやプレス機器など各種機械を導入して製造ラインの設計・構築を担当するトヨタの中枢である生産技術部門全体を「抵抗勢力」とみなし、関係者を放逐し始めたという声まであがっているそうだ。

 実際、牟田氏の有力後継者とみなされていた花井幹雄常務理事まで退任となり、「まるでどこかの国の粛清人事を見ているようだ」(中堅幹部)という不満もある。

 実際、牟田氏の送別会では、「こんな会社はやってられないので辞めてやる」という不満と愚痴がさく裂したそうだ。

 その一方で、社長と仲良しの人間たちを厚遇する人事を始めたというから、社内から不満の声が起こるのは致し方ないのかもしれない。

 その象徴は同じ4月1日付で、トヨタOBでデンソー副会長の小林耕士氏を本社相談役に就けた人事だという。

 トヨタの相談役は副社長以上経験者が就くケースがほとんどだが、小林氏はトヨタで執行役員にも就いていない。なぜその彼が相談役に就けたのか。

 彼はトヨタグループの中では知る人ぞ知るという人物で、一部では「トヨタの陰の会長」と呼ばれており、豊田社長の相談に乗り、役員・幹部の人事にも影響力を持つといわれる存在だそうだ。また、社長側近の一人である永田理専務が副社長に昇格し門外漢のCFO(最高財務責任者)に就いたことも「仲良し人事」と見られているそうである。

 また、常務から専務へ昇格する上田達郎総務・人事本部長も豊田社長の信頼が厚く、社内で「トヨタの柳沢吉保」と呼ばれるほど、社長の意向を忖度する能力には長けているといわれているそうだ。

 「選任された社内取締役を見ると、『いい人』『自分の意見を強く言わない人』という評判の人ばかり。結局、豊田社長は本質的な議論ができない取締役会を作ったのであり、それは自分が意見を言われるのが嫌いだからと見られても仕方がないでしょう」(中堅幹部)

 これをレポートしているジャーナリスト・井上久男は朝日新聞出身。彼はこのままでは、トヨタは激しい競争から劣後しかねないという危機感を覚えると書いている。

 「かつてのトヨタ担当記者は健全な批判を書くことで一目置かれたが、現在は批判記事を書こうものなら即刻出入り禁止処分を受けることがある。しかし、筆者はあえて書く」(井上)

 最近、安全管理に厳しいはずのトヨタで火事が起こっている。工場管理の基本は5S(整理・整頓・清掃、清潔・躾)にあるが、今のトヨタにはそれさえできていないのではないかという。

 また、トヨタの系列企業の団体に「協豊会」というのがあり、年に一回の総会が4月10日に開催されたが、豊田社長はフランスで行なわれた世界ラリー選手権の視察に行っており、下請け企業からは「俺たちよりもレースのほうが大切なのか」という嘆きが出たという。

 このところ独壇場だった国内販売でもほころびが出ている。3月の新車販売で日産『ノート』が1位を獲得しているが、この新型ノートは昨年11月の発売以来3か月もトップを取っているそうである。

 それに比べてトヨタの『プリウス』は新車発売1年余りで陰りが出ており、当初の計画通りには売れていないそうだ。

 ノートが評価されたのは、EVに近い新しいハイブリッドシステムを搭載したことにもあり、国内市場でもEVへの評価が高まりつつあることの現れと見る販売店は多いという。

 だがトヨタはEVをまだ販売しておらず、16年12月1日付でトヨタ社長直轄のEV事業企画室を新設したばかりなのだ。

 EVへの取り組みが遅れたのは、社内で意見を言うと社長に悪く思われはしないかという「忖度」が働いたからだという。

 世界的にみれば自動車業界は合従連衡の渦の中にいる。昨秋、米クアルコムは車載用に強いオランダの半導体会社を約5兆円で買収。今年3月には米インテルが自動運転の画像処理に強いイスラエルのモービルアイを約1兆7000億円で買収することに合意し、このインテルやモービルアイ、独BMWは自動運転での提携を発表している。

 井上はこう結んでいる。

 「ダイナミックな世界の動きに比べて、トヨタでは明確かつ大胆な戦略が見えてこない。自動車産業は勝者と敗者の入れ替わりが激しい業界だけに、このままではトヨタが負け組に転落する日が来てもおかしくないと感じてしまうのである」

 盛者必衰。トヨタも永遠ではない。安倍首相と同じように、トランプ大統領の言うことに付き従っていれば「安泰」だとトップが考えているとすれば、トヨタには明日がないかもしれない。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 トランプのアメリカは北朝鮮への圧力を強めている。いつ不測の事態が起きても不思議ではなく、韓国はもとより中国、ロシアも緊張感をもって推移を見守っている。だが、日本は、と見てみれば、政府もメディアも、国民までもがコトの重大さに気づいていないようである。安倍首相は、北からミサイルが飛んで来たら地下や柱の陰に隠れろと指示したそうだ。笑い話では済まされない。今やらなければいけないのは、米空母などを朝鮮半島から遠ざけ、北が話し合いに応じるよう中国に働きかけることであるはずだ。少なくとも「米艦防護」などやるべきではない。そう思うが、この国のメディアの声はかぼそくて聞こえない。

第1位 「安倍晋三首相が頼る『運勢』のお告げ」(『週刊文春』5/4・11号)
第2位 「安倍昭恵『別居生活』と『偽装ツーショット』の修羅現場」(『アサヒ芸能』5/4・11号)
第3位 「トランプの天敵ワシントン・ポスト砲の“凄腕スナイパー”」(『週刊文春』5/4・11号)

 第3位。安倍政権は放言、暴言続出で崩壊寸前のようだ。こういう時こそ新聞、週刊誌など紙メディアの出番だが、日本には『ワシントン・ポスト』のマーティン・バロン(62)のような「凄腕スナイパー」のいないことが残念だ。

 バロンは『ボストン・グローブ』紙編集局長のとき、映画にもなったカトリック教会神父らによる性的虐待をスクープしている。4月に『ワシントン・ポスト』紙は、トランプのやっていた慈善活動を調べ上げ、財団を私物化していた実態を明らかにした。彼は嗅覚が鋭く、疑惑があれば、決してターゲット(トランプ)から目を離さない。バロンはスピーチでこう述べていると『文春』が報じている。

 「トランプ政権は機会さえあれば、我々を脅かすのか? 何をするにも妨害に遭うのか? もしそうなるとしたら、我々はどうしたらいいのか?」

 そしてこう続けた。「答えは簡単だと私は思う。我々は我々の仕事をするだけだ
 国際NGOの国境なき記者団が26日、2017年の「報道の自由度ランキング」を発表した。アメリカは「トランプ大統領がメディアを民衆の敵だと位置付け、いくつかのメディアのホワイトハウスへのアクセス制限を試みた」として、41位から43位に下げた。日本は順位こそ変わらないものの主要7か国(G7)中最下位の72位。日本のメディアが汚名返上するには今しかないはずだが。

 第2位。『アサヒ芸能』は、義母の洋子が怖くて家に帰れないと、安倍の妻・昭恵がこぼしていると報じている。
 それに最近の森友学園問題で、2人は別居状態にあるというのだ。官邸関係者がこう語る。

 「4月1、2日の両日、秘書官同席ながら、別荘がある山梨県の飲食店で食事をする様子が報じられました。ところがこれはある意味、ヤラセでした。安倍総理は3月31日午後に山梨入りしましたが、昭恵夫人が来たのは翌日の午後、食事の直前なんです。メディアにツーショット写真を撮らせる食事時だけ夫妻は一緒でしたが、その他の行動は別々。2日の昼食後も別々の車で帰京しています」

 それも安倍は自宅へ戻ったが、昭恵は千葉県の寺院に向かったという。最近は千葉の知人のもとに身を寄せているというのだ。
 そうしたことがあって、安倍首相の持病のほうもよくないそうだ。2月のトランプ就任後初の首脳会談でも、安倍はアイスティーを飲んでいたという。
 また、運動不足解消と称して、港区内の会員制高級フィットネススパに通っているのも、「ここの個室にかかりつけの医者を待機させ、極秘裏に診察を受けていると言われています」(政治ジャーナリスト)
 わがままなトランプと妻がいては、健常人でもおかしくなるだろう。その点は安倍首相にちょっぴり同情したくなる。

 第1位。安倍内閣の緊張感のなさは今の週刊誌と五十歩百歩であるが、安倍首相が物事を決める時や人事の際、頼っているのは「占い」だと『文春』が報じている。
 『文春』によれば、トランプを安倍が信用するのも、「中原さんが『トランプとは相性がぴったり』というメールをくれた」からだそうだ。
 国の命運を左右することを占いに頼るのは、安倍に確固たる信念がない証だが、中原なる人物は何者なのか
 元日本銀行審議委員の中原伸之氏(82)で、安倍の経済ブレーンとして知られるという。大学を出て父親が社長だった東亜燃料工業(現・JXTGエネルギー)に入社し、自身も8年間にわたって社長を務めている。
 安倍を囲む財界人の勉強会「晋如会」を主宰していた。総選挙で圧勝して返り咲くと、中原氏のペーパーを下敷きにして早速、アベノミクスの第一の矢「異次元の金融緩和」を打ち出した。
 安倍が中原氏を信じるようになったのは、12年の総裁選に出れば「総裁選は一位にはなれないが、二位、三位連合で絶対勝ち抜ける」と推したからだったという。
 以来、ことあるごとに中原氏の運勢占いに信頼を置くようになった。だが安倍側近の1人はこう危惧する。

 「韓国の朴槿恵(パク・クネ)前大統領と崔順実(チェ・スンシル)の関係と同列に論じることはできませんが、首相が重要な政治判断を、非科学的な運勢占いに頼っていいのか。政局や人事はもちろん、『トランプと相性が良い』という占いの結果を根拠に、米国に肩入れし過ぎるとすれば、安全保障上も大きなリスクです。こうした政権運営の裏側を国民は知らされていません」

 今、安倍が一番占ってほしいのは米朝戦争のことではなく、妻・昭恵と離婚すべきかどうかではないか。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 公益財団法人の日本城郭協会といえば、よく旅雑誌などで紹介される「日本100名城」の選定で有名だ。2017年で設立から50周年を迎え、その記念事業として新たに「続日本100名城」を発表した。前回は選ばれなかった城からということで、そのマニアックさが予見され、城マニアにとって垂涎(すいぜん)の企画となった。

 はたして選ばれた100名城は、徳川家康が若き日を過ごした「出世城」こと浜松城(静岡県)、羽柴秀吉の水攻めで名高い備中高松城(岡山県)、幕末に砲台として築かれた品川台場(東京都)など、一般的にも知名度があるものから、知る人ぞ知る貴重な遺構まで幅広い。

 近年、ドラマや映画などで話題を集めた城郭も目立つ。和田竜の小説『のぼうの城』の舞台になった、埼玉県行田市の忍(おし)城(埼玉県)、NHK大河ドラマ『真田丸』にも登場した群馬県の沼田城や岩櫃(いわびつ)城などは、その代表的なものといえるだろう。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 五日市憲法草案は、明治時代に民間人が有志で作った私擬憲法のひとつで、多摩地方の平民出身の自由民権家たちによって起草された。

 起草のきっかけとなったのが、1880(明治13)年11月10日の第2回国会期成同盟大会だ。ここで憲法の起草が議論されて、翌年の大会に憲法草案を持ち寄ることが決定。全国各地で私擬憲法が作られた。しかし、翌1881年10月に国会開設の詔勅が出され、同盟大会が流れてしまったため、私擬憲法の審議は中止され、五日市憲法草案も陽の目を見ることはなかった。

 長くその存在は知られることがなかったが、1968(昭和43)年に東京都西多摩郡五日市町(現あきる野市)の民家の土蔵で「日本帝国憲法」と題された私擬憲法が発見された。それが、五日市憲法草案だ。

 全204条で構成された私擬憲法で、そのうちの150条ほどが国民の権利に関する規定だ。とくに第二編の「公法 第一章 国民権利」では、36条にわたって基本的人権を保障する項目が並んでいる。

 たとえば、四五条では「日本国民ハ各自ノ権利自由ヲ達ス可シ他ヨリ妨害ス可ラス且国法之ヲ保護ス可シ」と、国民の権利と自由を法をもって保障することがうたわれている。

 また、七一条では「国事犯ノ為ニ死刑ヲ宣告サルヽコトナカル可シ」と、政治犯への死刑の禁止を宣言している。

 このように五日市憲法草案は、同時期に作られた私擬憲法とは異なり、国家のなかで生きていくうえで、個人がもっとも大切にされるべき基本的人権の尊重に重きをおく内容となっている。ほかにも、教育の自由の保障や教育を受けさせる義務、法の下の平等など民主的な項目も記されており、自由で平等な社会を目指していた庶民の熱い思いをくみ取ることができる。

 起草に携わったのは、千葉卓三郎など20代から40代までの多摩地方の民権家だ。農民や小学校の教員など平民出身者が議論を尽くした末に作られたもので、この点でも当時としては画期的なことだった。

 この五日市憲法草案が、再び注目されるきっかけになったのが美智子皇后のお言葉だ。

 2013年10月20日、79歳の誕生日を迎えた美智子皇后は、宮内記者会からの質問に寄せて五日市憲法草案について触れられたのだ。

 前年の1月に天皇陛下と東京都あきる野市の五日市郷土館を訪れた美智子皇后は、展示されていた草案の原本をご覧になられた。そして、基本的人権尊重を手厚く保障する五日市憲法草案を「世界でも珍しい文化遺産」と評し、記者会への回答で感銘の意を表したのだ。

 宮内記者会の質問は「この1年、印象に残った出来事やご感想をお聞かせください」というものだ。それに対して、あえて1年以上前の視察について語られたのはなぜなのか。

 当時は、政権交代が行なわれて自公が与党に返り咲き、憲法に対する議論が激しさを増していた頃だ。憲法改正を目指す自民党の憲法草案には、基本的人権や平和主義を否定する内容が含まれている。

 こうした流れに憂慮の念を抱いて、美智子皇后があえて1年以上前の出来事を語ったと考えるのはうがった見方だろうか。

 近年、国民の知る権利を制限する特定秘密保護法、集団的自衛権の行使を可能にした安全保障関連法など、国民の権利を狭め、平和主義を否定するような法律が自公政権のもとで次々と成立している。今国会で成立の可能性が強い共謀罪もしかりだ。

 こうした法律は、現行憲法に照らし合わせて、果たして「合憲」といえるのだろうか。憲法は、国民の権利と自由を守るために、国家権力にしばりをかけるものだ。その憲法が、権力の前でなし崩し的になっている現状を、五日市憲法草案作りに携わった人々はどう思うのだろうか。

 現在の私たちの自由は、明治から脈々と続く民衆思想のなかから勝ち取ってきたものだ。5月3日は、「国民主権・基本的人権の尊重・平和主義」という三大原則をもつ現行憲法が施行された記念日だ。

 明治の荒波のなかで、自由と平等な社会を目指した若き民権家たちに思いをはせるとともに、今ある自由と権利について今一度考えてみたい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 ふだん将棋を自分でさすことはほとんどない。ルール程度は把握しているが、定石や勝負のアヤまでは理解しているわけではない。にもかかわらず、プロ棋士の対局を観戦するのは好きである。こんなファンのことを、最近は「観る将」と呼んでいる。

 その背景には、ニコニコ生放送で視聴される「電王戦」など、動画サイトで将棋を楽しむスタイルが定着してきたことが挙げられるだろう。電王戦はコンピュータとの戦いで、基本的には機械vs人間の叡智という構図により興味を誘うものだ。しかし、こうした企画を通して、棋士たちの豊かなキャラクター性を知った者たちがファンとなるわけだ。かつてと比べて女性の観る将も増え、棋士のイベントなどによく現れるようになったとか。

 将棋漫画『3月のライオン』の映画化や、ベテラン棋士・加藤一二三(かとう・ひふみ)のタレントとしてのブレイク、また若手女性棋士のビジュアル面など、良くも悪くもミーハー的な話題が多い昨今の将棋界。観る将は、将棋ファンの中でますます存在感を増すはずである。すでに業界では、観る将に向けたビジネス的な戦略も考えられつつあるらしい。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 政府は、新たな国立公文書館の建設を進めている。現在の国立公文書館・本館(東京・北の丸公園)が手狭で、分館(茨城県つくば市)とあわせても2019年度には収納スペースが満杯となるからだ。

 政府の有識者会議がまとめた調査報告書によると、新国立公文書館の建設場所は、東京・永田町の憲政記念館のある敷地(5万5000平方メートル)。国会議事堂の東側に位置し、総理官邸や霞が関の官庁街にも近い。保存書庫は現在の6600平方メートルから最大2万2850平方メートル(約3.5倍)に拡大。延べ床面積も同様に1万1550平方メートルから4万2000平方メートル~5万平方メートルに増やすことを求めている。建設費用は約790~850億円を見込む。実現すれば、公文書を毎年4万~5万冊、約50年間にわたり受け入れることが可能だという。文書をデジタル化し、ネットで結び検索・閲覧することも検討している。地方からわざわざ足を運ぶ必要がなく、アクセスしやすくなる。

 政府は前述の有識者会議の調査報告書を受け、2017年度中にも基本計画をまとめる方針だ。

 学校法人「森友学園」を巡る問題では、財務省が土地売却の交渉記録を廃棄していたことがわかった。公文書について、その管理・保存をどうするのか、そのあり方が問われた形だ。

 公文書は役所のものでもなく、国民の共通財産であり、民主主義国家の礎となるものだ。国の発展の過程、その歴史を後世に長く伝えるためにも、国民が閲覧しやすい環境を整えてほしい。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 この春、流行しているファッショントレンドで「袖コンシャス」を略したもの。「合コン」やら「街コン」やら「鉄コン(鉄道合コンの略)」やらの「コンパ」を略したものではない。

 「コンシャス」とは日本語に直訳すれば「意識的な」という意味。したがって、袖コンは「袖を意識した=袖にデザイン性のあるトップス」のことを指す。

 袖口がキュッと締まっているのに腕部分はたっぷりしていたり、袖部分のみに違う素材を使ってみたり……と、いろんな「袖を意識する」パターンがあるようだが、もっとも定番なのは、袖口が大きく広がっている「ベルスリーブ」タイプ。女性らしいやわらかいシルエットが人気の秘密であるらしい。

 ただし、このベルスリーブ、たとえば食事のときなどに取り分けの際、袖口に汚れが付きやすいのが最大の弱点……なんだとか。したがって、デートの日にせっかくの勝負服(ベルスリーブ)でキメてきてくださった女性と対面する場合、男性側としては「極力、取り分けを女性にはさせない」「ケチャップやトマト系の料理を注文するのはなるべく避ける」「可能ならば予約したデートスポットを寿司屋とか比較的袖口デンジャラス度の低い店に変更する」……あたりの“さり気ない配慮”が必要だ。

 間違っても「その袖、食事中は巻くっておいたほうがよくない?」なんて無粋なセリフを吐いてはいけない。貴男のために入れてくれた女性側の“気合い”に対しては、惜しみないリスペクトを捧げるのが“モテ男”としての「当然のマナー」なのではなかろうか?
   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


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