甲虫目ハンミョウ科に属する昆虫で、学名をシシンデラ・ジャポニカCicindela japonicaという。体長が20ミリメートルほどで、光沢を帯びた体色は上品で美しい。緑色や臙脂(えんじ)色などの斑点が、上ばねの黒紫色と綺麗にぼやけあっている。山道や河原にいて日中活動する。
夏から秋にかけ、京都の市街地を囲む山々へ出かけると、行く先を案内するように、人間の前へ前へと飛ぶ虫に気づく。軽くすうっと飛び上がり、しばし飛んで着地すると、また飛び上がる。斑猫である。この習性から道案内、道おしえ、道しるべ、山巡査などと、数々の愛称で呼ばれている。京都を囲む山中には無数の峠道があり、宿場跡も多く、古くから人と物資の往来が盛んだった。斑猫は都へ行き来する人の道案内を買って出ては、昔からいろんな名前を付けられていたことだろう。
斑猫の幼虫のことをニラムシというそうである。これは巣穴にニラの葉を入れると食いつくからだ。また「毒がある」という言い伝えも残っている。幼虫も、成虫も、大きく鋭い異様なあごで、ハエやアリを大胆に捕食するからだろうか。夏の間に幼虫から羽化し、成虫のまま土に潜って越冬するのが普通だが、幼虫は食い足りなければ、そのまま2年も3年も捕食を続けるという貪欲(どんよく)な食欲の持ち主。しかし、ハンミョウ科は世界各地に2500種あまりも分布し、日本産も23種ほどがいるものの、生息環境の悪化によって絶滅危惧種(レッドデータ)に登録される種類が年々増えている。