煤や埃(ほこり)を払ってきれいに大掃除し、神棚を祓(はら)い清めるという年中行事である。「煤掃き」や「煤取り」、「煤納め」などともいう。
 日本でもつい数十年前まで、火はかまどやいろりで薪炭(しんたん)を焚(た)いていたので、普段の掃除では行き届かないところに煤や灰が溜(た)まっていた。煤払いには、家内に溜まった煤と一緒に1年間の厄を祓い、年用意(としようい;正月準備)をはじめるという意味が含まれていた。
 宇治市の黄檗山萬福寺(おうばくざんまんぷくじ)では、12月13日朝に寺院の魚▼ばん▼(かいばん;大きな魚をかたどった木板)、鐘、太鼓をそろって打ち鳴らし、煤払いがはじまる。この日のうちに伽藍(がらん)の隅々まで掃除を終え、その後僧侶がそろい、「謝茶」(じゃちゃ)という、黄檗宗独特の食事をする。
 江戸時代までは、煤払いは旧暦12月13日と決まっていた。この日を「事始(ことはじ)め」や「正月事始め」という。門松や松飾りにするため、木を山から刈り出してくる「松迎え」をしたり、お歳暮を届けたり、餅(もち)や料理の準備をしたりと、年用意がいちどきにはじまり、家内は大わらわ。指折り数えるまもなく大晦日(おおみそか)を迎えることになるのである。

   

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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