日本には、アジアやアフリカなどの途上国で作られた食料品や雑貨品、洋服などが輸入されている。これらの商品が日本に届くまでには、たくさんの労働力とエネルギーが使われたはずなのに、その価格の安さに驚かされることがしばしばだ。
 輸入品を安く買えることは日本の消費者にとってはおトクなことだが、その安さは生産者の犠牲のうえに成り立っていることが多い。代表例が、チョコレートの原材料であるカカオ豆にまつわる物語だ。
 カカオ豆の取引価格は、相場の変動リスクにさらされているだけではなく、立場の強い先進国の都合で不当に安い価格で買い叩かれている。生産コストを下回る価格になることも多く、生産者はまじめに働いても貧困から抜け出せず、子どもへの教育もままならない。また、ガーナやコートジボワールなどの大規模なカカオ農園では、小さな子どもを低賃金で働かせる児童労働が横行しており、中には人身売買で連れてこられた子どももいて、国際労働機関(ILO)も問題視している。
 このような貿易のあり方を見直して、途上国と先進国の人々が対等な取引を目指すのがフェアトレード(公正貿易)だ。先進国から物やお金を一方的に施すチャリティーではなく、途上国で仕事を作り出し、その商品を適正な価格で継続的に取り引きすることで、貧困に陥っている途上国の人々の自立を応援する。フェアトレードでは児童労働や強制労働は禁止されており、品質向上のための技術指導も行なわれる。農産物の多くは有機認証を得た環境に配慮されたもので、品質も高い。
 チョコレートも、フェアトレードのカカオ豆を使った製品があり、日本ではピープル・ツリーや第3世界ショップといった団体が製造販売を行なっている。フェアトレードのチョコレートは、乳化剤を使わずに時間をかけて練り上げることで滑らかな口どけとカカオの香りを引き出すのが特徴だ。添加物も使わないので安全性が高いのはもちろんだが、味のよさからファンも多い。
 日本ではお金さえ払えば手に入らないものはないが、手元に届くまでの流通ルートは複雑でトレーサビリティの定かではないものも出回っている。フェアトレードは中間業者を通さず、生産者と直接やりとりすることで、大量生産にはない顔の見える関係を築いている。途上国支援という意味に加えて、私たちが安心・安全なものを手に入れるための重要な貿易だ。
 フェアトレードのチョコレートは、専門の小売店や輸入雑貨店などでも購入できる。明日は2月14日。バレンタインデーだ。フェアトレードのチョコレートを食べながら、地球の裏側の人々に思いをはせてみるのも悪くない。

 

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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