1944年福岡県大牟田市生まれ。68歳。前アジア開発銀行総裁。
下馬評では元財務省次官の武藤敏郎氏が有力視され、2月15日、英国のロイター通信が「日銀総裁は最終局面人事、武藤氏を中心に絞り込み進む」というニュースを配信した。
だが「財政規律を重視する実力派の財務省OBが総裁になればアベノミクスを骨抜きにしてしまうかも知れない」(『週刊新潮』2/28号)という危惧が囁(ささや)かれたため、岩田一政日本経済研究センター理事長、岩田規久男学習院大学教授、伊藤隆敏東大大学院教授、竹中平蔵元金融担当相らの名前もあがっていた。
安倍晋三総理の意中の人は黒田氏だったようだが、財務官僚出身という点と、過去に黒田氏の息子にスキャンダルがあったことがネックになるのではないかと週刊誌が報じた。
財務官僚といっても主流ではない主税局畑で次官にもなっていないことと、スキャンダルは息子が成人していたから黒田氏本人には何ら問題がないと、安倍総理が決断したといわれる。
年明けから『週刊現代』(以下『現代』)はアベノミクスで円安と株の値上がりがすごいと囃(はや)し立てているが、アベノミクスと黒田日銀総裁のタッグ「アベクロ」がバブルを起こして土地も値上がりし「日経平均は2万円」(『現代』3/16号)もあり得ると予測している。
『現代』によると黒田氏は、東京教育大学(現・筑波大学)附属駒場中学、高校を経て東京大学法学部に進学、東大卒業時の成績は2番で、在学中に司法試験に合格し、国家公務員試験の成績も2番だったという。
経済学の勉強もしていて、オックスフォード大学経済学研究科修士課程も修了し、主税局課長補佐時代から通貨問題など何冊も本を書いている。
地味な人という評判もあるが、非常に頑固でタフだから世界の金融を牛耳っている「金融マフィア」と互角に渡り合えるのではないか。それが安倍総理が白羽の矢を立てた理由だと、財務省OBが語っている。
黒田氏はだいぶ前から、デフレ潰しに本腰を入れない日銀の消極的姿勢に対して公然と批判をくり返してきた。財務省時代も「財政規律・バランス重視で極めて保守的な通常の財務官僚たちとは一線を画し、黒田氏は積極攻勢派。金融緩和についても、『結果的にムダになってもやってみる、そういう姿勢を見せることに意味がある』というタイプ」(全国紙経済部デスク)だったそうである。
「世界の金融市場で、各国の最高司令官たちに並んで見劣りしない頭脳の持ち主」と『現代』は評価している。
『現代』は3/23号で安倍総理のブレーン、浜田宏一・イェール大学名誉教授&国際金融担当内閣参与にインタビューし、浜田氏は黒田氏を「人格、見識ともに素晴らしい方だ」と評し、今後の株高、円安についてはこう述べている。
「学者として言えば、1ドル100円前後が穏当。長期的に110円に落ちつくと、競争力から考えて少し行き過ぎでしょう。もっとも名目為替レートや株価は、よく反転などが起こるものですが。日銀が適正な政策に転ずれば株価は、まだまだ上昇する予兆があります」
これからが「アベクロ」バブル本番。自動車大手や重機の一部では一時金の満額回答が相次ぐという明るいニュースもあるが、私が心配するのは「モラトリアム法(中小企業金融円滑化法)」が3月末で切れることである。中小企業の延命策だったこの法律がなくなることで、倒産は10万社に及ぶという予測もある。バブルで浮かれているのはごく一部の企業と金持ちだけではないのか。実態のともなわない好景気報道に踊らされないようにすることこそが肝心であろう。