大阪・吹田市にある国立循環器病研究センター(国循)が、2012年12月に出版した『国循の美味しい!かるしおレシピ』(セブン&アイ出版)が話題になっている。
国循では、2005年から1日の塩分摂取量が合計6g未満(1食2g未満)の減塩食を入院患者に提供している。減塩食といえば「味が薄くて物足りない」というイメージがあるが、国循で出される入院食は「減塩なのに、一般的な食事と同等にしっかり味がついていておいしい」と患者にも評判だ。
国循の調理師長は京都の割烹で修業経験があり、伝統的な京料理の手法を病院食作りに生かしている。秘訣はだしの使い方にあり、基本だし(かつおだし)と八方だし(かつおだし・砂糖・塩・薄口しょうゆ)の2種類のだしを使うことで素材の旨味を引き出し、結果的に塩を控えてもおいしい食事が作れるのだという。
こうした調理ノウハウを詰め込んだのが前出のレシピ本で、高血圧対策として考えられた病院食のうち73品目が取り上げられている。
健康保険を使って入院する場合、病院で提供される食事にはさまざまな制約があり、原則的に1食あたり640円(このうち患者負担は260円)と決められている。最近は、こうした制約を外して患者に自己負担を求めて、有名レストランのシェフがプロデュースする食事やカフェテリア形式を採用する病院もある。しかし、国循では国民が安心して利用できる健康保険の制約の中で、価格や栄養価を守りながら、1日3食、30日間異なるメニューを提供している点も評価に値する。
国循では、レシピ本の発売のほかにも、料理教室の開催、給食事業者との提携による減塩食弁当の開発、デジタルレシピの配信なども行なっている。病院がこうした事業を行なう背景には、国の制度改革の一環として行なわれた独立行政法人化も無関係ではないだろう。独法化によって、国循のような国立高度専門医療研究センターといえども、いまや独立採算性が求められる時代だ。国循のレシピ紹介も、病院内で培ってきた知的資産を活用する事業の一環として始められたものだ。人気のレシピ本発売の陰には、病院が置かれた経営事情も見え隠れする。