妊婦の血液で胎児の障害がわかる新型の出生前診断がスタートしてから1か月が経過した。
新型の出生前診断は、妊婦の血液にわずかにまざる胎児のDNAを分析することで、ダウン症などの染色体異常を高い確率で判定できる。従来の羊水検査は妊婦のおなかに針を刺す必要があるため、まれに流産する危険があったが、新型の検査は血液の採取だけでよいので母体にも胎児にもリスクはない。
ただし、安易に出生前診断を受けることは、生命の選別にもつながりかねない。日本産科婦人科学会の指針では、新型の検査を受けられるのは主に下記の条件に当てはまる人に限定している。
・高齢妊娠
・以前に染色体異常の子どもを妊娠したことがある
・超音波検査で胎児の染色体異常が疑われる
実施できる施設は、日本医学会が「十分な遺伝カウンセリングができる」などと判断した全国21か所(5月7日現在)の医療機関のみとなっている。健康保険は適用されていないので、全額自己負担で1回あたり20万円の費用がかかる。
出生前診断を受ける人の多くは葛藤し、検査を受けることに罪悪感を覚える人もいる。実際、陽性反応が出た場合は、産む・産まないという選択も迫られる。せっかく授かったわが子の命を、親が選別するという残酷な現実も待ち受けている。
それでも、出生前診断を受ける人がいる背景には、わが子には元気であってほしいという親としての切実な思いとともに、障害をもつ人々への社会の無理解もあるのではないだろうか。
もしも障害のある子どもが生まれたとしても、それにまつわる困難を親や家族だけが背負うのではなく、本当は国民全体で担うという共通の認識のもとに福祉制度を充実させるのが筋なのだと思う。だが、現実はまだまだその理想に追いついてはいない。
障害があろうとなかろうと、生まれてきた子どもは等しく尊い存在のはずだ。そうであるならば、出生前診断を受けなくても、誰もが安心して子ども産み、育て、肩身の狭い思いをしないで生きていければいいのにと思う。きれいごとかもしれないが、そんな社会を目指したい。