葛切りとは、葛の根の澱粉(でんぷん)からとった葛粉に砂糖と水を加え、塊がなくなるまでこねたら、それを湯煎(ゆせん)しながら流し固めてうどんのように細目に切ったものである。料理にも使われる。和菓子の場合は、氷で冷やしながら、黒蜜か白蜜をかけて食べる。
暑い盛りである。さすがの甘党もかき氷か葛切りくらいしか、のどを通らなくなってくる。京都で葛粉といえば、和菓子のまんじゅうや料理の葛引きの餡(あん)などに、常日ごろから欠かせない食材である。まして葛切りは、いまでこそ高級和菓子として知られるが、昔はどの家庭でも手づくりしていた手軽なおやつだった。葛切りで名高い祇園の鍵善(かぎぜん)では、日本一といわれる大和吉野の晒し葛(さらしくず)を使った葛切りを、螺鈿(らでん)をはめこんだ漆地の器に入れて出している。これは出前に用いた幕末の岡持(おかもち)で培った趣向ということである。最近は葛粉の生産地であった吉野でも、おいしい葛切りが食べられるようになっている。暑い盛りだからこそ、水を口に含むかのように、するりするりとしたなめらかすぎるほどののど越しが、いつも以上においしく感じられるのである。
室町中期の教科書の一種である『尺素往来』(せきそおうらい)の点心の一つに「砕蟾糟」とあり、これは現代の葛切りに似た食べ物ではなかったかと考えられている。また、水繊(すいせん)と呼ばれる夏の食べ物もあった。こちらは葛切りのようなものを、酒、醤油(しょうゆ)、酢、鰹節(かつおぶし)、塩などを煮詰めた調味料につけながら食べていたそうである。