アマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏(49)が2億5000万ドルでアメリカの名門新聞ワシントン・ポスト紙を買収したニュースが、日本の新聞界に衝撃を与えている。
アメリカの日刊紙発行部数は1980年代まで6200万部を保っていたが、ネット登場後の2011年には4442万部へと激減し、ポスト紙も最盛期の半分の40万部にまで落ち込んでいた。
『週刊ポスト』(8/30号、以下『ポスト』)は、アマゾンが日本の新聞の買収まで目論むのではないかという特集を組んでいる。
今回はベゾス氏個人の買収だが、彼は何を考えてポスト紙を買収したのか。東洋経済オンライン編集長の佐々木紀彦氏はこう語る。
「アマゾンにとって、世界中の人々の購買データが最大の財産。新聞社を持てればアマゾンの持つ顧客データがさらに拡充される。読者がどんな記事を選び何に興味があるのかを把握すればeコマース(電子商取引)はさらに進化する」
顧客データだけではなく、アマゾンのコンテンツの充実を考えていると話すのは在米ジャーナリスト北丸雄二氏。
「アマゾンはキンドルに配信するコンテンツの一つ、キンドル・シングルズ(短編電子書籍)に力を入れている。これは新聞や雑誌の記事としては長く、かといって単行本としては短い、1万語~5万語未満の作品を、5ドル未満で販売するというもの。ベゾスはワシントン・ポストの記者にもシングルズで作品を発表させて、この流れを加速させたいのではないか」
米国の印税は通常25%未満(日本は10%)だが、シングルズは70%にもなるそうである。
ポスト紙が電子化に乗り遅れたことも凋落に拍車をかけた。ウォールストリート・ジャーナル紙は全購読者208万人のうち約4割の89万人が電子版の読者だし、ニューヨーク・タイムズ紙は190万人の購読者のうち110万人が電子版購読者である。いずれも購読料は月約20ドル(約2000円)で、日本の半値。
8月2日のasahi.comは「ニューヨーク・タイムズが1日発表した2013年4~6月期決算は、純損益が2013万ドル(約20億円)の黒字となり、前年同期の8762万ドル(約87億円)の赤字から黒字に転換した」と報じている。
では日本の新聞界はどうか。アメリカよりもさらに悲劇的で、部数減に喘ぎ、電子版購読者の数は増えていない。
『ポスト』によれば、朝日新聞の公称部数は760万部だが、いずれ来る500万部時代を想定して地方支局縮小に向けて動いているという。
朝日は電子版を2年前から導入した。表向き10万人突破といっているが、ほとんどが新聞との抱き合わせの読者で、電子版だけを購読しているのは1割に満たないようである。
「今年5月、アメリカのネット大手AOL傘下のハフィントン・ポスト・メディアグループと合弁会社をつくり、ハフィントン・ポスト日本版を開始。ニュースやブログをベースに、ユーザーが意見を交換する参加型コミュニティーという触れ込みだったが、期待を大きく裏切った。
『なかなかページビュー(PV)が上がらず早くも“ハフィントン・ポストへの出資は大失敗”という声が上がっている』(ジャーナリストの山田順氏)
朝日は紙にかわる新たなプラットフォーム作りを模索するがいずれも失敗。もちろん厳しい状況にあるのは他社も同じだ」
だが、日本の新聞社は1951年に施行された「日刊新聞法」に守られ、株式譲渡に制限が加えられているため、買収されにくくなっているから、アマゾンとて手は出しにくい。
そこで結局、日本の新聞はこうなるのではないかと朝日新聞関係者が語っている。
「発行部数を維持できなくなり、電子版も伸びない新聞社が、アマゾンに記事を配信する“下請け”と化す。これはアマゾンが直接、日本の新聞社を買収するよりも現実的かもしれない」
もはや権力チェックの役割を自ら捨てつつある大新聞は、アマゾンのコンテンツサプライヤーになるしか生き延びる道はないのかもしれない。これは出版も同じである。日本のメディアに明日はない!