北海道旅客鉄道株式会社。1987年4月1日に日本国有鉄道(国鉄)から鉄道事業を引き継ぎ、北海道全域と青森県のごく一部をエリアとしている。2013年3月期の連結決算では、営業収益約1650億円に対して営業利益ベースで約241億円もの大幅赤字となっている。
全14路線のうち、2008年度の路線別営業係数が黒字なのはわずか3路線(千歳線、海峡線、石勝線)のみで、留萌(るもい)本線、日高本線、釧網(せんもう)本線はJRグループ約200路線のワースト3である。
そのJR北海道で列車火災に脱線事故、267か所にも及ぶレール異常の放置、スーパー北斗が徐行区間で35キロ超過運転、特急の非常ブレーキが利かない作業ミスが見つかるなど不祥事が頻発している。
また「(7月に起きた=筆者注)JR北海道の運転士による覚醒剤使用事件で、国土交通省北海道運輸局が同社へ再発防止策として全運転士の薬物検査を提案したところ、同社が断っていたことが分かった」と朝日新聞(10月7日付)が報じている。
野島誠社長自らが「社内の規律も守られていなかった」「社員の情報共有に乏しかった」と認めている。乗客を不安にしている不祥事や社員の規律の緩みの原因はどこにあるのか。『週刊文春』(10/10号、以下『文春』)でJR北海道の現役中堅社員が、この“異常”な企業体質の背景の一つに労使関係があると語っている。
「一例をあげれば、安全に関わることでも、労組の合意なしには義務化できなかったアル検(アルコール検査)問題があります。
二〇〇八年、会社はアルコール検知器を導入し、全乗務員(運転士・車掌)に乗務前に各自で検査するよう呼びかけた。ところが組合は『アル検は強制ではない』として組織的に検査を拒否。〇九年には国交省の立ち入り検査で、札幌車掌所の十二人の車掌が導入時から一貫してアル検を拒否していることが発覚しました。そして、その全員が北鉄労の組合員でした」
北鉄労(北海道旅客鉄道労働組合)とは全社員約7000人のうち管理職を除く84%が加入するJR北海道の第一組合である。
2011年の5月にはこんなことが起きていたという。
「JR北海道は石勝線で特急列車が脱線した後、火災が発生、乗客三十九人が病院に搬送される事故を起こしている。その後も、居眠り運転など不祥事が相次ぎ、国交省から事業改善命令を受けたにもかかわらず、アル検は拒否されていたのだ。そして事故の四ヵ月後には、中島尚俊社長(当時=筆者注)が『「お客様の安全を最優先にする」ということを常に考える社員になっていただきたい』と遺書を残して自殺する」(『文春』)
たしかに北鉄労が所属するJR総連は、国会での警察庁警備局長答弁や政府答弁書などで、極左暴力集団である革マル派との関係が指摘されている。
だが、これだけがJR北海道に不祥事が頻発する理由のすべてではなかろう。
『週刊新潮』(10/10号)では、赤字体質がトラブルの理由だと、関西大学社会安全学部の安部誠治教授が指摘している。
赤字を埋めるために「社員数を削減したり、保線や機材の交換をケチったりという苦し紛れの方策で帳尻を合わせてきました」。だが、JR北海道は車体が重くてレールを傷めやすいディーゼル機関車の割合が多く、メンテナンス費用が嵩(かさ)む悪条件が揃っているという。
また現役運転士は、民営化当時は約1万3000人いた社員が現在は約7000人にまで減ったが、運行本数は増えていて、そのため「時折、ローカル線では、老朽化した枕木に白いペンキが塗られているのを見かけますけど、これは要交換のマーキング。それがいつまで経っても交換されない」と言う。
意思疎通を欠く労使問題、赤字体質からどう脱却するかなど、難問は山積し、解決の糸口さえ見つからないようである。このままでは重大事故につながりかねない。道民が安心して乗ることができる公共交通機関にするためにどうするか、早急に労使双方が話し合うべきであること、言を俟たない。