大路小路で京都を東西南北に区切ったブロックシステムは、平安京のころから形づくられてきた。西陣(上京区)や朱雀(下京区)などの古い町で、名称のある通りから細い横道へ迷い込むと、そこには無数の複雑そうな小径があり、その周辺には小さな長屋がたくさん建ち並んでいる。このような奥へ通じる小径には、二つの呼称がある。

 一つは「ろうじ」。ひらがなを使うのが一般的だが、漢字ならば「路地」や「路次」と書く。これは道の行き先がドンツキ(突き当たり)の、いわゆる袋小路になった道のことである。もう一つは「ずし」。「辻子」や「図子」と書く。こちらはカクカクと曲がった道や意外に太い道までにも使われ、大路と小路、小路と小路をつなぎ、通り抜けることができる通り道をいう名称である。

 「ろうじ」の原点は、豊臣秀吉が聚楽第(じゅらくだい)を営んだ16世紀ごろから見られるようになったといわれ、もともとは、表通りに面した建物の裏地に行くためにつくられた私的な通路であったという。当時、大路小路に面して店舗兼用の住宅が建ち並んでおり、その裏地は空き地同然で、近所で共用された憩いの場であった。徐々にこの裏地を各家が裏庭として囲い込み、そこに離れ家や借家をつくるようになっていった。表通りからそこへ直接入れるようにしたのが、「ろうじ」の始まりなのである。一方、「ずし」は大路小路を連絡するために設けられた名前のない道のこと。例えば、西陣地域では、南北に走る大路小路を連絡する東西を結ぶ「ずし」がたくさんある。この理由は、昔の西陣が南北の通りを基準にして町家が建ち並んでいたためで、東西に橋渡しをする目的で、小径「ずし」が後から設けられたのである。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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