発端は今年5月、東京ディズニーリゾート(TDR)内のホテルで、車海老と表記しながら、実際は値段の安いブラックタイガーを使用していたことが発覚、TDRの3つのホテルで計5つの食材偽装があり、ホテルの運営会社が当該料理を食べた人に1000円を返金すると発表したことからである。
これを機に、阪急阪神ホテルズ、ホテルオークラ、ザ・リッツ・カールトン大阪などの有名ホテルや三越伊勢丹、高島屋、松屋といった老舗デパートなどが食材偽装を公表して、消費者のブランド信仰を裏切る悪質な“だましの手口”の実態が明るみに出た。
トビウオの魚卵をレッドキャビア、牛脂を注入した成型肉をビーフステーキとして販売していたのに「偽装ではなくあくまでも誤表示」だと言い張っていた阪急阪神ホテルズ・出崎弘社長だが、返金希望者が殺到し、11月8日時点で支払額は3100万円を超え、総額は1億円以上になるといわれている。
結局、出崎社長は辞任し、消費者庁は同社やザ・リッツ・カールトン大阪に景品表示法違反で立ち入り検査に入った。
これで消費者はメニューの表示を信じて食事ができるようになるかというと、そうではないようだ。『週刊ポスト』(11/22号、以下『ポスト』)によると、景品表示法違反に問われたとしても行政法で措置命令が出されるだけで、刑事罰が下される不正競争防止法が適用される可能性はないという。
食品表示を規定したJAS法がメニュー表記を対象にしていないため、ほとぼりが冷めればまたやり始める可能性は高い。では、だまされないためにどうしたらいいのか。『週刊新潮』(11/14号)では、和牛と成型肉を識別する方法を精肉店がこう教えてくれている。
「10年ほど前から、農水省は国産牛に個体識別制度を導入しました。畜産農家で牛が生まれると、生後すぐに1頭ずつナンバーが割り振られ、DNAが検体ごとに採取される。そして肉屋もレストランも、和牛を使うメニューを提供する以上、この識別番号を店頭に掲げないと商売ができなくなった」
したがって個体識別番号を店に明示しているかどうか、店側に尋ねればいいというのだ。
しかし『ポスト』で書いているように「鮮魚」という表示は冷凍保存したものも含まれる。半年以上前に冷凍保存していても「旬のカキフライ」と謳ってJAS法にはひっかからない。「朝採れレタスのサラダ」と書いてあっても「今朝」と明記してなければ、何日も前に採れたものでも不当表示にならないようである。
これでは何を信じていいのかわからなくなる。『ポスト』によれば伊勢エビは食材きっての“変装の達人”で、味の濃いソースをかけられたり、伊勢エビの殻の上にロブスターの身を入れられると素人では判断がつかないという。
毛ガニと称して価格が10分の1程度のクリガニが代用品として流通している。ズワイガニも高級なのはオスのほうで、安価で味の劣るメスを酢の物や茶碗蒸しにして出すところも多いそうだ。
フカヒレは、春雨などで安価につくられた“人工フカヒレ”が流通しているという。私が好きなフォアグラも悪質な別ものが流通していると、食品添加物評論家の安部司氏が語っている。
「フォアグラは本来ガチョウや鴨の肝臓を肥大させたものですが、ニワトリのレバーペーストと脂を固めて作った偽物が出回っています。本物を何度も食べたことがない人には判別できないレベルです」
結局、今回の騒動が炙り出したのは、日本人がブランドに弱く、本物と偽物を見分ける舌を持ち合わせていないという皮肉な“事実”である。よくいわれるように、目隠しをして高いワインと安ワインを飲ませたり、高級ステーキ屋とスーパーの肉を食べ比べさせると、多くの場合、安いほうが旨いという結果が出る。
日本人の多くは味にカネを払っているのではなく、ブランドや雰囲気にカネを払っているのである。私のように、肴何でも250円均一の居酒屋で呑んでいれば、国産の食材が出てくることなどないから、舌は肥えないが本物かどうかに気をつかわなくていい。懐にもやさしいからトコトン酔える。でも、たまには本物のフォアグラが食べたいけどね。