米粉に薯蕷(じょうよ)を混ぜてつくる上用饅頭や、小麦粉とふくらし粉を混ぜた薬饅頭に、火焔宝珠(かえんほうじゅ)の焼き印を押したものである。京都では、11月を中心に行なわれる火祭を御火焚(おひたき)といい、神社では、神前で火を焚き上げて祝詞(のりと)や神楽(かぐら)を奏し、御火焚饅頭や新米でつくった三角のおこし、蜜柑などを供え、神様のこころをお慰めする行事が行なわれる。京都弁では御火焚を「おしたき」と発音し、蜜柑を神事の残り火で焼いて食べると、ひと冬風邪を引かないという言い伝えがある。この時期には、鍛冶屋や料理屋など火を使う人の火の祭りとして「ふいご祭」も行なわれるが、現代ではこれらは一つの祭りとして習合されつつある。
京都は秋から冬にかけ、火にちなんだ数え切れないほどの祭りが行なわれる。御火焚の起源ははっきりとしていない。皇室で秋の収穫を祝う新嘗祭(にいなめさい)は御火焚の一つといわれている。また、昔の人が太陽の力の弱まっていくこの時期に、火を焚くことで大地を暖め、新春の息吹を呼び起こそうとしたという説もあり、火の力に対し、人が寄せてきた信頼や信仰を表すものであるとも伝えられている。
火焔宝珠の焼き印を押した薬饅頭タイプの御火焚饅頭。