元内閣総理大臣。71歳。総理大臣時代には「自民党をぶっ壊す」「私の政策を批判する者はすべて抵抗勢力」などの過激な発言が大衆の支持を得て「小泉旋風」と呼ばれた。

 だが、新自由主義を信奉し構造改革を推し進めた結果、非正規雇用を大量に排出する「格差社会」を生み出し、ブッシュ大統領のイラク侵攻を盲目的に支持するなど、為政者としての評価には疑問符がつく。

 2008年に政界引退を表明し、次男の進次郎が後継として立候補し当選している。

 引退後は趣味に勤(いそ)しみ静かだった小泉氏だが、このところの「脱原発」発言で俄(にわか)に注目を浴びている。きっかけは今年8月にフィンランドの核廃棄物最終処分場「オンカロ」を視察したことだが、11月12日の講演で「安倍総理はいますぐ原発ゼロという決断を」と迫ったことで、すわ安倍対小泉戦争勃発か、反原発派を結集した政党をつくるのではないかとメディアは喧(かまびす)しい。

 小泉氏の真意を探る前に『週刊ポスト』(11/29号)の「小泉『原発ゼロ』全発言」をもとに、彼の発言の主旨を見てみよう。

 「原発ゼロという方針を政治が出せば、必ず知恵のある人がいい案をつくってくれるというのが、私の考えなんです」

 「これから日本において、核のゴミの最終処分場のメドをつけられると思うほうが楽観的で、無責任すぎると思いますよ」

 「ここでもし安倍総理が原発ゼロにして、自然を資源にする国家をつくろうと方針を決めれば、反対派はもうできませんよ、反対は」

 「(核燃料サイクルも含めてやめろということか、という質問に対して)もちろん。核燃料サイクルも含めてです。それも早いほうがいいでしょう。進んでいってやめろというよりも、どうせ将来やめるんだったら、今やめたほうがいいでしょう」

 安倍総理に、即刻政治決断をと迫っている。朝日新聞の世論調査によれば、この小泉発言を支持する人は60%になるという。

 小泉氏は「国民の声というものは総理も聞かざるを得ない時期が来ると思います」(『ポスト』)と言い切っている。ならば政治的な恩師でもある小泉氏の意見を取り入れ、安倍総理が原発ゼロに踏み切る可能性はあるのだろうか。

 私はその可能性はゼロに近いと思わざるをえない。なぜなら安倍総理は自ら進んで原発のセールスマンとして、インドやトルコをはじめとする国々へ日本の原発を売り込みに歩いているからである。

 他国へ売っておいて、自国は危ないからゼロにしましたでは商談がまとまるわけはない。東京五輪招致のプレゼンで「汚染水は完全にコントロールされている」といった責任も問われるはずである。

 では、安倍総理が決断できっこないことを承知で無理難題を吹っかけた小泉氏の真意は奈辺にあるのか。『週刊朝日』(11/29号)のコラムで田原総一朗氏は、この発言は安倍政権への挑発だと書いている。「まともに反撃すれば、党内から『脱原発』の議員たちが現れて混乱に陥る危険性が高いからだ」というのだが、真意はわからないとしている。

 穿った見方としては、小泉氏の裏には石油メジャーがいて、石油をもっと日本に買わせる謀略だと書いた週刊誌もあった。

 『週刊新潮』(11/21号、以下『新潮』)は小泉氏の「オンカロ」視察には三菱重工、日立、東芝などの原発メーカーが同行していたと報じている。

 小泉氏が引退後、経団連の奥田碵(ひろし)元会長が呼びかけ、トヨタやキヤノン、東電などが出資して「国際公共政策研究センター」をつくり、小泉氏を顧問に据えているのだが、先の3社はそのメンバーである。

 原発メーカーにカネを出してもらっているのに脱原発とはいかがなものかと『新潮』は言いたいのだろうが、たとえそうしたところからカネが出ていたとしても、私は小泉氏の原発ゼロを支持したいと思う。

 田原氏が「直感力の天才」だと讃える小泉劇場の第二幕はこれからどういう結末を迎えるのか。単なる打ち上げ花火で終わってしまうのか。目が離せない。

 

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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