この秋、阪急阪神ホテルズが運営する8ホテルで発覚した誤表示を皮切りに、全国のホテルやデパート、レストランなどに広がっていった食品偽装問題。
価格の安いバナメイエビを芝エビと表示したり、市販のストレートジュースをフレッシュジュースと偽って客に提供していたなど、次々と偽装が明らかになる中で出てきたのが成型牛肉の問題だ。肉質の固い赤身の外国産牛肉などを加工して、霜降り和牛などと偽って提供していたのだ。
人工的に霜降り牛肉を作る方法はいくつかあるが、そのひとつがインジェクション加工処理だ。太い注射針を束ねた機械で、乳化剤を使って液体状にした牛脂を注入していくと、赤身の肉があっという間に霜降り牛肉と見まがうものに変身する。この方法だと筋肉に沿って牛脂が入るため、本物の霜降り牛そっくりの見た目にできあがるのだ。
この時に使われる牛脂は、香りと旨味の強い和牛のものなので、多くの人が「和牛の霜降り肉」だと思い込むのも無理はない。また、肉質を柔らかくし、旨味を引き出すために、同時に軟化剤も注入されるので、実際に脂肪注入肉を食べた人に感想を聞くと、「柔らかくて、美味しい」と感じたという。
霜降り牛肉を加工するための牛脂、乳化剤、軟化剤などは食べても身体に害を及ぼすものではなく、JAS法に基づいた使用が認められているが、問題は加工を施していることを消費者に伝えないまま外食産業などで使われるケース。
たんに「ステーキ」「霜降りステーキ」などと表示するのは違法で、「成型肉使用」と明記することが求められている。また、「やわらかビーフ」「やわらか加工」など曖昧な記載は、消費者に誤解を与える可能性があるため、景品表示法上認められていない。
食品偽装問題をなくすには、業者が正しい表示を行なうのはもちろん必要なことだが、表示を徹底すれば問題が解決するわけではないだろう。
食品偽装がはびこる背景には、食の生産現場とそれを食べる消費者との間があまりにも離れすぎて、顔の見える関係を築いてこなかったことがあるのではないだろうか。私たちはもっと、自分が口にするものについて、「いつ」「どこで」「誰」によって作られたものなのかというトレーサビリティに関心を払う必要がある。