出版社を通さずに作った雑誌、というと「同人誌」や「ミニコミ」が有名だが、最近は「リトルプレス」と呼ばれている。よく唱えられる利点は、広告の出稿元におもねることなく、自由で豊かな表現ができるということ。ただ、言うほど「企業の外圧」は本作りに影響するものではない。筆者はかつて出版社にいたのだが、売れ線でない企画が通らなかったり、ごく一般人のクレームの怖さに負けて記事を自主規制する、といった「内圧」は日常茶飯事だ。本当は、そうした組織のしがらみのないことがいちばんのメリットという気はする。
カフェ、雑貨屋などでも扱われるリトルプレスは、これまでのミニコミよりも製本などにこだわり、商業出版よりよほど出来ばえに優れている場合がある。プロがデザインを請け負うだけでなく、自分のパソコンで文字組みから写真のレイアウトまですべてこなす猛者も多い。個人でも少し奮発すればプロ仕様のソフトを購入できる時代ならでは。利益を得るよりも、ものづくりの衝動から作られるリトルプレスには、本が本来持つ作り手の個性が表出している。
なお、同様の表現に「zine」がある。「magazine」から来ており、本よりも小冊子に近いもの。印刷はコピー、綴じはホッチキスという体裁も多いが、センスのある人が作ると十二分にアート性があるのがおもしろいところ。