こざっぱりとした大手の居酒屋チェーンは、現代サラリーマンのガス抜きになくてはならないものだ。だが一方では、昔ながらの「大衆酒場」という文化もある。親父たちの喧噪と煙草の煙。本来は「気軽さ」がウリであったはずだが、いつしか若い世代や女性には「敷居が高い」ものとなり、大手チェーンにおされていった。いま、この業態が「復権」を果たしている。いわゆる「ネオ大衆酒場」である。
なんといってもその安さが魅力。酒場としては困るのかもしれないが、ビールとイチ押しメニューだけでも満足感があるだろう。食材にこだわる店も多い(もとより大衆酒場の心意気とはそういうもの)。飲み会の場としては、チェーン店に欠けた親しみ深さが支持されている。地域密着型の店舗が多いこともあって、客層も多様。女性が「お茶」をする場や、家族連れの団らんの場になっている(子ども向けメニューがある店も)。ネオ大衆酒場と呼ばれるいまどきの酒場の雰囲気は、ファミリーレストランに近づいているといえる。
飲食業において「安くてうまい」は、理想ではあるが難しい。経営者は利益率の低さに愕然とするものである。そこで、しゃれた雰囲気などのテクニックで演出したくなる。「大衆酒場」は昔から、そうした経営側のホンネよりも、よりお客に寄り添った業態だ。「まともな商売」によって固定客が離れないメリットは、ネオ大衆酒場の強みである。