2008年6月8日、日曜日の混雑する秋葉原で、白昼、2トントラックで人混みに突っ込み、さらにダガーナイフを使って7名もの命を奪い10人を負傷させた秋葉原連続通り魔事件を覚えている方は多いと思う。

 犯人の加藤智大(ともひろ)(31)は逮捕され、一審、二審ともに死刑判決を受け、最高裁に上告している。

 こうした事件が起こると必ずといっていいほど「親が出てきて謝れ」という声が巻き起こり、メディアがそれを増幅する。

 身内に犯罪者が出た一家は、世間の批判に耐えきれずに仕事を辞めて転居したり、離婚、離散してしまうケースが多い。連続幼女誘拐殺人事件(1988~89年)では犯人の父親が自殺したことでメディアスクラム(集団的過熱取材)の問題がクローズアップされた。

 だが、なかには大久保清(1971年に8人を連続殺人)元死刑囚の両親のように、息子が逮捕されているのに温泉に遊びに行き、探し当てた私の取材に対して「おまえのような奴に答える義務はない」と言い放ったのもいるが、例外であろう。

 この事件でも、母親は精神的におかしくなり、信用金庫の要職にあった父親も職場にいづらくなって辞め、妻とも離婚してひっそりと暮らしている。

 可哀想なのは加藤被告の実弟・加藤優次(仮名)である。兄が起こした事件によって職を失い、家も転々とするが、マスコミは彼のことを放っておいてはくれなかった。

 「加藤の弟」という“称号”を与えられた彼は、そのことで悩み自問自答し、事件から6年後に250枚もの手記を残して自殺してしまうのだ。享年28歳。

  『週刊現代』(4/26号、以下『現代』)で、その優次と接触し、彼と心を通じ合った齋藤剛記者が、優次から託された手記を引用しながら彼の悩みの深さを記事にしている。

 「あれから6年近くの月日が経ち、自分はやっぱり犯人の弟なんだと思い知りました。加害者の家族というのは、幸せになっちゃいけないんです。それが現実。僕は生きることをあきらめようと決めました。
 死ぬ理由に勝る、生きる理由がないんです。どう考えても浮かばない。何かありますか。あるなら教えてください」

 こう筆者に語った1週間後に優次は自らの命を断った。

 そんな彼の暮らしの中で一条の希望の光が射したときもあったという。事件から1年余りが過ぎた頃、筆者が彼のアパートを訪ねようとしたとき、たまたま、女性と一緒に歩く姿を目撃したのだそうだ。

 優次は彼女に、兄の事件のこともすべて話していたという。

 「正体を打ち明けるのは勇気のいる作業でしたが、普段飲まない酒の力を借りて、自分のあれこれを話して聞かせました。一度喋り出したら、あとは堰を切ったように言葉が流れ出ました。
 彼女の反応は『あなたはあなただから関係ない』というものでした」

 ようやく心を開いて話ができる異性との出会いと彼女と一緒に暮らすという“夢”は、彼に生きる力を与えてくれたようだ。

 しかし、優次の“夢”は叶うことはなかった。事情を知りつつ交際には反対しなかった女性の親が、結婚と聞いたとたんに猛反対したというのだ。

 二人の関係が危うくなり、彼女も悩んでイライラしていたのだろうか、彼女から決定的なひと言が口をついて出たという。

 「一番こたえたのは『一家揃って異常なんだよ、あなたの家族は』と宣告されたことです。これは正直、きつかった。彼女のおかげで、一瞬でも事件の辛さを忘れることができました。閉ざされた自分の未来が明るく照らされたように思えました。しかしそれは一瞬であり、自分の孤独、孤立感を薄めるには至らなかった。
 結果論ですが、いまとなっては逆効果でした。持ち上げられてから落とされた感じです。もう他人と深く関わるのはやめようと、僕は半ば無意識のうちに決意してしまったのです。
(中略)僕は、社会との接触も極力避ける方針を打ち立てました」

 優次は手記に繰り返しこう書いていたという。

 「兄は自分をコピーだと言う。その原本は母親である。その法則に従うと、弟もまたコピーとなる」

 そして「突きつめれば、人を殺すか自殺するか、どっちかしかないと思うことがある」そんな言葉を筆者に漏らすようになっていった。

 優次は手記で、加害者家族も苦しんでいることを知ってほしいと、このように書いている。

 「被害者家族は言うまでもないが、加害者家族もまた苦しんでいます。でも、被害者家族の味わう苦しみに比べれば、加害者家族のそれは、遙かに軽く、取るに足りないものでしょう。(中略)
 ただそのうえで、当事者として言っておきたいことが一つだけあります。
 そもそも、『苦しみ』とは比較できるものなのでしょうか。被害者家族と加害者家族の苦しさはまったく違う種類のものであり、どっちのほうが苦しい、と比べることはできないと、僕は思うのです。
 だからこそ、僕は発言します。加害者家族側の心情ももっと発信するべきだと思うからです。
 それによって攻撃されるのは覚悟の上です。犯罪者の家族でありながら、自分が攻撃される筋合いはない、というような考えは、絶対に間違っている。(中略)
 こういう行動が、将来的に何か有意義な結果につながってくれたら、最低限、僕が生きている意味があったと思うことができる」

 優次は兄と面会したいと願っていた。50通を優に超える手紙を書いたというが一度として兄から返事が来たことはなかった。

 罪を犯した自分より早く逝ってしまった弟のことを知らされたとき、加藤智大被告は何を思ったのだろう。

 加害者家族の悩みや苦しみをこれほど真摯に綴った手記がこれまであっただろうか。罪を犯した当人は法で裁かれるが、加害者の家族は「犯罪者一家」という烙印を押され、一生世間の冷たい視線に晒されながら生きていかなくてはならない。または優次のように死を選ぶ者さえいるのである。

 被害者遺族の心のケアが必要なのは言を俟たないが、これからは加害者家族の心のケアも考えるべきであろう。週刊誌には珍しい重く読み応えのある記事である。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 今週は「カラダ」に関する記事を3本選んでみた。春は気候の変動が激しく身体を壊しやすい季節。くれぐれも油断めさるな。

第1位 「最新兵器『ED衝撃波』であなたがこんなに固く、強くなる」(『週刊現代』5/3号)
第2位 「『血圧147は健康』で『病人1800万人減』のカラクリ」(『週刊ポスト』5/2号)
第3位 「NHK『籾井会長』の危ない『まだらボケ』」(『週刊新潮』4/24号)

 第3位。『新潮』によればNHK会長氏は言動だけではなく体調のほうにも心配があるという。「新しい部下の名前を忘れる。日程を勘違いする。スピーチが頭に入らない。日常的な小さなつまずきは、突如、巨大な記憶の欠落に変わり、トイレから会長室まで、たった20メートルの方向感覚を失わせたという。21階の役員フロアで迷子になった『NHK新会長』に何が起こっているのか」

 誰だ! 早くボケてもらったほうがいいなんていうのは。

 第2位。『ポスト』によれば、これまでは(収縮期血圧)が130以上、下(拡張期血圧)が85以上なら「血圧が高い」と診断されてきたが、今回公表された新基準値では大幅に緩和され、上は147まで、下は94までは正常値であると変更されるという。
 最も従来の数字とかけ離れているのは、いわゆる「悪玉コレステロール」とされてきたLDLコレステロールで、現基準では120未満が正常とされたが、新基準では男性の上限が178、高齢女性ではなんと190まで拡大されたそうだ。
 この調査は日本人間ドック学会と健康保険組合連合会(健保連)が立ち上げた共同研究事業で、約150万人に及ぶ人間ドック検診受診者の血液検査データを使って、健康基準を導き出したそうである。
 そうなると、新基準で高血圧とされる148以上の人は約8%だから、異常と診断される人は約22%減ることになる。現在の30~80歳男女の人口から考えると、高血圧の「病人」は2474万人から660万近くへと1800万人も減る計算になるそうだ。
 また、悪玉コレステロールは、新基準は男女別になっているため、30~80歳の男性で考えると、従来の120以上の基準に引っかかるのは全体の約52%だが、新基準の179以上の人はたったの約4%しかいないので、ほとんどの人が引っかからないことになる。
 現在男性だけでおよそ2361万人もいる「悪玉コレステロール値が高すぎる人」が、新基準では182万人しかいないことになるのだ。

 これは医療費を圧縮したい厚労省が考えた“淺知恵”だそうだが、役人の都合で病人にされたり健康ですといわれたりでは、納得できるはずはない。

 第1位は『現代』の「死ぬまでSEX」のバリエーション企画、「ED衝撃波」で固くなる、強くなるという最新情報である。
 用いるのは、体外衝撃波治療機器・ED1000。日本ではわずか10か所ほどのクリニックが1~2年前から導入し始めたばかりの治療法だという。
 順天堂大学や広島大学を中心に、より詳しい研究が行なわれている真っ最中だ。
 ED1000を日本に輸入している代理店「メディテックファーイースト」の担当者によれば、ヨーロッパでは2010年に販売が開始されたばかり、アメリカではFDA (アメリカ食品医療品局)の認可を今年中に取得して、販売が一気に開始される見込みだという。これまで全世界でED 1000による治療を受けた人はまだ4000名ほどだそうだ。
 この治療をやっている上野中央クリニックの石井進昭(のぶあき)氏によれば、実に99%の人の勃起力が改善しているという。
 『現代』の記者氏が体験している。実物は1メートル四方ほどの予想以上にコンパクトなもの。そこから伸びたパイプの先端には、マイクのような形状の器具が付いているそうだ。 記者氏のパンツを下ろし、ペニスにたっぷりとゼリーを塗る。
 陰茎の根元の左右、中央と、陰茎の真ん中あたり、それに亀頭付近の5か所にそれぞれ300発ほど打ち込むのだという。
 一回20分ほどで計1500発。これを3週間で6回行ない、3週間何もせずに休んだ後、再び3週間で6回行なう。
 2か月ほどの治療期間となるが痛みも副作用もないし、飲み薬を服用する必要もない。 衝撃波を打つと、ペニスを走る血管が拡張しやすくなり、血液の充満が起こりやすくなるどころか、ペニスの毛細血管が新しく伸びる「血管新生」が起きてくるそうだ。
 衝撃波によって、血管を増やす因子が出てくると、ペニスの中にある海綿体に数多くの血管が生まれてきて、血流が滞った血管の周りに、毛細血管のバイパスが張り巡らされて血流がよくなり、ペニスも固く育つというのだ。

 だが問題は治療費の高さである。上野中央クリニックでは37万8000円、ABCクリニック東京新宿院では43万2000円である。効き目は5年ほどだというが、あなたならどうしますか?
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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