2014年3月31日から始まったNHKの朝の連続テレビ小説。9月27日最終回(予定)。村岡恵理の『アンのゆりかご 村岡花子の生涯』(新潮文庫、以下『アンのゆりかご』)をもとに、カナダのプリンス・エドワード島を舞台にしたモンゴメリーの小説『赤毛のアン』(原題はアン・オブ・グリーン・ゲイブルズ)を翻訳した村岡花子(恵理の祖母)の生涯を描く。

 安東花子(村岡花子)に吉高由里子、花子と修和女学校(モデルは東洋英和女学院)で友情をはぐくむ8歳年上の葉山蓮子(同、柳原白蓮(びゃくれん))に仲間由紀恵、ナレーターに美輪明宏を配し、『週刊現代』(5/31号、以下『現代』)によれば「平均視聴率は20%を超え、5月9日には24・8%と最高視聴率を更新」したという。

 山梨県甲府市の貧しい小作農家の長女として生まれたはなは、父親にもらった絵本に興味を持ち始める。彼女の聡明さに気づいた開明的な父親は、東京の女学校へ彼女を入れようとするが、家族や周囲から反対をされる。

 だが、はなの本を愛する気持ちが母親たちを動かし、3年後に女学校への転校が実現する。

 この学校はカナダ人宣教師によって創設されたミッションスクールで、父親と創設者がキリスト教信仰上のつながりがあり、はなは「給費生」(奨学生)として特別編入してもらうのだ。

 学校に通う華族や富豪の娘たちの見下した態度や、校長のブラックバーン(モデルはブラックモア校長)はじめ教師たちの厳しい教育や厳格な躾け、なかでも苦手な英語に手こずり、はなは何度も退学の危機に直面する。

 だが、次第に英語に興味を持ち始め図書館にある原書を片っ端から読み、本科へ進学した頃には英語で学年一になり、校長の通訳や翻訳をこなすようにまでなる。

 卒業式の校長の感動的な祝辞も通訳しているが、『アンのゆりかご』からその部分を引用してみよう。卒業生総代が挨拶で、この学校時代ほど楽しい時代は二度と来ないと思うといったことに校長は、あなたがたがそう思うのなら、この学校の教育が失敗だったといわなければならないとして、こう続ける。

 「人生は進歩です。若い時代は準備の時であり、最上なものは過去にあるのではなく、将来にあります。旅路の最後まで希望と理想を持ち続け、進んでいく者でありますように」

 卒業後、いったん山梨へ帰り山梨英和女学校(劇中では母校の小学校)の教師をするが、再び東京へ戻り、数々の原書を翻訳し翻訳家として名を上げていく。

 『アンのゆりかご』によれば、村岡花子は社会運動にも関わりながら、外交官志望の青年との初恋と別れを経験。その後、有名な印刷屋の後継者との道ならぬ恋を貫き結ばれる。だが、関東大震災で印刷所も崩壊してしまい、6歳間近の息子を疫痢で失う。

  花子は本を書き、翻訳することで一家を支える。友人のカナダ人宣教師が帰国する際、彼女に託された『赤毛のアン』の翻訳を戦争中も続け、1952(昭和27)年に三笠書房から出版する。かけそば一杯13円の時代に250円の定価をつけたが、日本中の女性たちの心をつかみたちまちベストセラーになった。

 その後も赤毛のアン・シリースなどモンゴメリーの作品を日本に紹介したが、花子が憧れた赤毛のアンの育った島・プリンス・エドワードを見ることなく、1968年、75歳で亡くなった。

 このドラマを盛り上げているもう一人の女性は、花子の生涯の友で仲間が扮する華族のお嬢様・葉山蓮子である。蓮子のモデルは「情熱の歌人」と謳われた柳原白蓮。

 『現代』によれば白蓮の父は明治天皇の側室として宮中に上がり大正天皇を生んだ柳原愛子(なるこ)の兄・柳原前光(さきみつ)伯爵だが、白蓮は妾腹の子で9歳の時養女に出され、14歳で一度結婚している。

 だが婚家の扱いがひどく離婚するが、女学校を卒業すると遙かに年上の福岡の石炭王と結婚させられてしまう。カネはあるが何人もの妾を持つ夫との仲は冷え込み、白蓮は以前からやっていた歌に打ち込む。

 1920(大正9)年、白蓮が書いたものを読んで訪ねてきた東京帝大の学生・宮崎龍介と恋に落ちる。白蓮35歳、龍介27歳の時である。

 「姦通罪」のあった時代だったため白蓮は獄につながれる恐れもあったが、龍介が友人たちと策を練り、大阪朝日新聞に白蓮の夫の不実を訴える「絶縁状」を掲載し、世論を巻き込み大きな騒ぎになった。世にいう「白蓮事件」である。

 背景には自由を謳歌する大正デモクラシーがあり、白蓮がカネで買われて嫁いだことが広く知られていたため、この絶縁状が功を奏したと、歴史地理学者の千田稔氏が語っている。

 英語を学び外国の本を翻訳して日本人に新しい文化と触れる機会をつくった花子と、新しい時代の女性の生き方を世に知らしめた白蓮の友情は終生変わることがなかった。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 春はスポーツのシーズン。そこで今週はスポーツにまつわる話題を3本取り上げた。

第1位 「釜本邦茂『“裸の王様”本田圭佑なら日本は負ける』」(『週刊ポスト』5/30号)
第2位 「土俵外なら横綱より格上 遠藤バブルはいつまで続くか?」(『週刊新潮』5/22号)
第3位 「このままじゃ、松山英樹が潰される」(『週刊現代』5/31号)

 第3位。今や実力・人気ともに石川遼を追い越した松山だが、どうもプレー中のマナーに批判が集まっている。
 5月10日の米ツアー・プレイヤーズ選手権の3日目。同じ組で回っているプレーヤーから「カップ寄りにボールを動かした」と猛抗議されたのだ。結局これは誤解だったとお咎めはなかったのだが、このところスロープレー(不当な遅延)で注意されたり、グリーン上でマークした場所からずれていると同伴者からアピールされたりした。
 3月の試合では、パットを外した悔しさからパターをグリーンに叩きつけて謝罪することも。ゴルフは紳士のスポーツ。マナーが悪くては紳士の仲間入りはできない。くれぐれも注意するように、松山クン。

 お次は『新潮』の遠藤の記事。「夏場所初日が『満員札止め』になるのは、“若貴時代”以来17年ぶりだという。人気の理由は、“13年ぶりの3横綱”もあるだろうが、やはりこのイケメン力士の“初髷”見たさだろう」と書いている。
 日本相撲協会関係者が。初日の取組にかけられた懸賞は鶴竜らを凌ぐ14本と、過去最多だった先場所の145本を上回る勢いだと話している。
 チケットも近年にない売れ行きで、場所前に初日、7日、8日、14日、千秋楽の前売りが完売になったそうだ。

 「“遠藤バブルに乗れ”とばかりに、協会も必死です。両国国技館には“お姫様抱っこ”の撮影ができる写真パネルが設置され、グッズも旧来の“ザンバラ髪”バージョンと新“髷”バージョンの2パターンが売られる特別待遇。売行きは、さすがに大横綱白鵬には及ばないまでも、鶴竜、日馬富士を大きく引き離す“超横綱級”です」(同)

 遠藤のすごいところは、これだけ騒がれても相撲できっちり結果を残していることである。4日目の鶴竜戦では金星を上げた。ようやく角界にもスター誕生のようである。めでたいめでたい。

 今週の1位は『ポスト』の釜本邦茂氏インタビュー。サッカーのW杯はもうすぐ開幕だが、日本サッカーを応援するファンに冷水を浴びせる「“裸の王様”本田圭佑なら日本は負ける」発言の真意はどこに。

 「世界的にはまだまだ力の劣る日本が、強い相手から勝ち点を奪うには、しっかり守ってカウンターで得点を狙う堅守速攻の道しかない。
 だが、DF陣が明らかに手薄である。(中略)
 そのためFW1トップの動きがさらに重要になってくる。問題はこのFWの位置に、誰を据えるか。私はあえて、本田圭佑を推したいと思う。(中略)
 本田の持つ最大の長所は、『外国人DFに当り負けしないボールキープ力』、『体勢を崩しても枠内にシュートを打てる技術』だ。本田を起点にして相手を牽制しつつ、2列目の岡崎や柿谷、そして香川といった選手が、相手DFの裏側に出て『3番目の動き』をすれば、日本の攻撃に幅も生まれるだろう。
 ただ本田には注文がある。もっと謙虚にならなければならない。自分のスタイルを前面に出すのはいいが、それは周囲の者が理解してこそだ。それに私は、他の選手たちにも責任があると思う。チームが本田の言い分を素直に受け入れすぎているように見えるのだ。本田に対して『それは違う』と反論する者が、現在の代表にはいないのではないか。
 彼は紛れもない日本の中心選手だ。しかしだからこそ、彼を『裸の王様』にするようなことがあっては、日本は崩壊してしまう。それは中田英寿の時に、痛いほど経験したはずだ」

 ブラジルで待つのは敵のチームばかりではない。「工期の遅れ」「反W杯への高まり」など、多くの難問が待ち構えている。ベスト8まで行くのは至難だろうが、楽しい試合を期待したい。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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