日本のアパレルメーカー。吉原信之氏が1942(昭和17)年に創業。社名の由来は「三井」「三菱」など有力財閥の「三」と、吉原の父の「陽」に因んでつけられたといわれる。1946年からレインコートの製造販売を開始。

 1953年にはダスターコートを発売。1959年にはフランスの人気女優ジャクリーヌ・ササールが着ていたコートを「ササールコート」と命名して売り出し大ヒットしたことで、レインコートの製造販売から総合アパレルメーカーへと成長を遂げた。

 この名門会社が創業以来最大の試練を迎えていると『週刊現代』(6/14号、以下『現代』)が報じている。1965年から輸入販売を始めた英国の高級ブランド「バーバリー」との契約が2015年6月で終了するというのである。「三陽商会」は知らなくても「バーバリー」の名は広く知られている。同社が発表したところによると、若者向けの派生ブランド「バーバリー・ブラックレーベル」「バーバーリー・ブルーレーベル」のライセンス契約は継続しマイクロチェック柄は使用できるが、「バーバリー」の名称は外さなくてはいけないという。

 大手アパレル幹部によれば「年間売上1000億円のうち、最悪500億円が吹き飛ぶ可能性がある」というのだ。

 日本でも事業の直営化を進めたい「バーバリー」側が一方的に契約打ち切りを宣告した形だが、こういう「裏切りの契約」はこれまでにもあったと『現代』は書いている。

 たとえば、スポーツ用品大手の「デサント」が98年に独「アディダス」から一方的に契約解消を突きつけられたことがある。

 「当時のデサントは売上高約1000億円のうち400億円ほどをアディダス事業で稼いでいたため、業績は急降下。社員の約3割にあたる希望退職者を募集したが、アディダス以外の事業の育成を怠ってきたため赤字が止まらず、『あと3年で倒産する』という危機にまで陥ったのだ」(大手証券会社日本株担当アナリスト)

 どうにか倒産危機は乗り切ったものの、デサントが提携前の業績水準まで回復できたのは約15年後の今年になってからだった。

 97年には「鐘紡」が仏クリスチャン・ディオールとの契約を解消され、約700億円あった売上のうち300億円を失ってしまった。

 「三陽商会」現役社員は、契約打ち切りがわかっていたのに本気で対策を打ってこなかった経営陣を批判し、「この会社に未来はない。私もバーバリーみたいに会社から逃げ出すつもりです」と憤る。

 だが経営陣は「責任をとらされると思って、『リストラをするつもりはない』」といっているそうだ。ではどうやってこの苦境を乗り越えようと考えているのか。

 同社が発表した「中期5カ年経営計画」にはこうある。「バーバリー・ロンドン」の後継として英の老舗ブランド「マッキントッシュ」社と契約。現在の「ポール・スチュアート」事業と、オリジナルブランドの「エポカ」事業との3事業を拡大していく。ブラック、ブルーレーベルはeコマースの新規展開で事業を拡大する。

 胸算用では2018年度には現在と同じ売上高まで“力強く”回復するつもりだという。

 だがこの発表の翌日「三菱UFJモルガン・スタンレー証券」が「さようならバーバリー」というレポートを発表し、楽観的で未達になる可能性が高いと酷評したのだ。

 3ブランド合計で250億円程度。ブルー、ブラックレーベルもおのおの30億円程度の減収は不可避。よって3期連続の営業赤字になるとして、目標株価を320円から185円にまで引き下げてしまったのだ。

 私と三陽とのつき合いは長い。大学時代の親友が入社していたことから、東京・四谷の本社にはよく遊びに行ったものだ。彼から「買ってくれ」といわれた三陽バーバリーのトレンチコートが私の冬の定番スタイルになった。襟を立て、食事をするときも酒を飲むときもトレンチを着たままだから、あちこちにシミが付き、刑事コロンボよりもひどく汚い格好だった。

 好いていた女に「野良犬のようだ」といわれたこともある。だが、どんなに汚れても愛着があり捨てられなかった。私の週刊誌編集者時代のほとんどはこのコートとともにあったといってもいい。

 私にとって青春時代からの思い出の染みついた会社だから、何とかこの危機を乗り切ってほしいと思うのだが。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 ついにW杯が開幕した。日本代表は6月15日(日本時間)のコートジボワール戦から出陣だが、第1次を突破できるかどうか。そこで今週はサッカーにまつわる記事を3本選んでみた。

第1位 「W 杯目前に緊急手術発覚!本田圭佑 本誌が報じていた『深刻な病名』」(『週刊文春』6/12号)
第2位 「『実は1次リーグで敗退濃厚』のブルーな現実」(『週刊新潮』6/12号)
第3位 「W杯『SEX得点王』は誰だ」(『週刊ポスト』6/20号)

 第3位。『ポスト』によれば、レアル・マドリードの絶対的エース、クリスチアーノ・ロナウド(29)は女性のほうでも絶対王者だというが、おもしろいのはコンドームメーカー・デュレックス社が発表している「セックス頻度国別ランキング」だ。日本が予選で当たるギリシャが06年は1位に輝いた。だが財政難の影響か11年には11位に後退。しかし、その11年ランキングで堂々1位になったのがやはり予選で当たるコロンビアだというのだ。日本が戦う相手は「強豪」ならぬ「性豪」揃い。さてどうする?

 第2位。『新潮』は日本代表のメディアでの前評判はいいが「実は一次リーグで敗退濃厚」だとお祭り騒ぎに冷水を浴びせている。

 「5月8日に発表された最新のFIFAランキングによれば、日本は47位。これに対し、1次リーグ対戦相手の3カ国はそれぞれ、コートジボワール21位、ギリシャ10位、コロンビア5位と、すべて“格上”だ。それどころか出場32カ国中、日本は豪州、韓国、カメルーンに次いで4番目に低い序列にあるのだ」(『新潮』)

 スポーツ誌サッカー担当記者がこう解説する。
 「FIFAランキングの算出法は99年、それまでの試合を重ねると順位が上がっていくシステムが改正され、06年には地域間の不公平も是正されたことで、より実力に近い順位が出されるようになりました。“3連勝で1位通過”といった報道もありますが、普通に考えれば3連敗しても不思議ではなく、日本が一次リーグを突破するだけでも驚きといえるのです」

 そう甘くはないことは確かであろう。

 1位は『文春』の記事。6月2日発売の日刊スポーツがサッカー日本代表の本田圭祐(27)が手術をしていたと報じたが、『文春』によれば、以前同誌が報じたバセドウ病の手術だったというのだ。

 帝京大学医学部名誉教授の高見博氏はこういっている。
 「この手術痕であれば、バセドウ病と考えて間違いないでしょう。傷が正中にあるので、腫瘍とかそういう類ではありません。(中略)
 バセドウ病になると、本来は激しい運動は控えないといけない。(中略)本田選手の様なアスリートの場合は運動を前提にしている。メルカゾールなどの抗甲状腺剤を服用してプレーしていたのでしょうが、本当に大変だったと思います」

 チームの大黒柱だけに気になる情報ではある。本田頑張れ! ニッポンチャチャチャ!
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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