京都の数ある神社の中に、一風変わった三種類の鳥居が設けられているところがある。これらの鳥居に直接の関連性はないものの、その珍しさから三珍鳥居、あるいは京都三鳥居と総称されている。どれも古く希少なもので、美術的な価値も評価されているのだが、珍しいゆえに謎が多く、発祥や制作意図についてもはっきりしていない。

 一つは木嶋坐天照御魂神社(このしまにますあまてるみたまじんじゃ、右京区太秦(うずまさ))。蚕の社(かいこのやしろ)といったほうが通りがよいだろう。同社は『続日本紀』(701年)を確実な史料とする古い社で、古墳時代に朝鮮半島から渡来した秦氏ゆかりの織物の祖神・蚕飼(こかい)神社があることから蚕の社と呼ばれている。境内の元糺(もとただす)の池の中央部には、石製三柱鳥居(みはしらとりい)が建っている。この鳥居は池の中心の位置に、柱三本が三角形になるように立てられ、その三本柱をもとに三方を正面とする不思議な鳥居が組まれている。現在の鳥居は1831年(天保2)に再興されたもので、京都にはこの三柱鳥居と同じ形状の鳥居が、南禅寺(左京区)の塔頭(たっちゅう)の一つ、大寧軒の庭園にも存在する。

 二つ目は京都御苑の厳島神社にある神前の鳥居だ。ここは平清盛の母、祇園女御が合祀されている社で、鳥居は平清盛が建立したと伝承されている。1938(昭和13)年に準国宝級美術品として位置づけられる重要美術品に指定された。この鳥居の特徴は唐破風(からはふ)という、鳥居のいちばん上の横木の形状にある。ここは笠木と島木といい、普通は両端に向かって反り返るような形をしているものだが、この鳥居は波風(なみかぜ)を模して中央がせり上がっている。かつては徳川家康に古風で雅やかな姿が愛玩されていたという。

 さて、最後は北野天満宮の末社、菅原道真の母君を祭神に祀る伴氏社(ともうじしゃ)である。この神前の石鳥居は鎌倉時代につくられたもので、前述の唐破風鳥居と同じく、国の重要美術品に指定されている。鳥居全体を観察すると、なんとなく不思議な感じ……。その理由は鳥居の柱の根元にある台座(亀腹(かめばら))で、ここは普通、台座がないか、簡素な円筒形の台座が設けられているにすぎない。しかし、この鳥居は台座に蓮弁のような美しい模様が彫られている。また、鳥居上部の額束(がくづか)という部分の組み方が珍しい構造になっている。

 いくらでもお詣りするところが京都にはあるが、たまには、少し風変わりな鳥居や狛犬などを巡り歩くと、これが新鮮な歴史や故事へいざなってくれるところがまた面白い。


蚕の社の石製三柱鳥居。



京都御苑・嚴島神社の破風形の鳥居。


京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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