1887(明治20)年に創設された「日本麦酒醸造会社」をルーツにもつ老舗ビール会社。1890 (明治23) 年に「恵比寿ビール」を発売している。

 「ミュンヘン・サッポロ・ミルウォーキー」とは1958(昭和33)年にサッポロビールが打った広告だが、語呂のよさと、いずれも北緯45度付近にあるいいホップを栽培できる三都市を結んだ着想のよさで流行語になった。

 1970(昭和45)年には“世界”の三船敏郎の「男は黙ってサッポロビール」のテレビCMも大ヒットした。

 私にはビールといえばサッポロというイメージがあるのだが、現在の国内シェアはアサヒ、キリン、サントリーに続いて第4位(大手4社中の最下位)。

 だいぶ影の薄いサッポロだったが、ここへ来てがぜん注目が集まっている。それは泣く子も黙る「国税庁」と全面戦争に入ったからだ。

 『週刊現代』(2/21号、以下『現代』)によれば、発端は昨年1月。サッポロが発売していた第3のビールの大ヒット商品『極(ごく)ZERO』が第3のビールに当たらないのではないかと国税から指摘され、サッポロ側が自主的に『極ZERO』の発売を中止し、第3のビールとして過去に収めた税額と、発泡酒として計算し直した税額との差額115億円を納付し、同時に延滞額として1億円を払った。

 ここで第3のビールと発泡酒の違いと税額について簡単に触れておく。

 普通のビールの酒税は350ml缶で77円。発泡酒は、麦または麦芽を使用した発泡性の酒類で、ビールと違って副原料に何を使ってもいい。酒税はいくつかに分かれ、麦芽比率50%以上のものはビールと同じ。50%未満~25%以上のものは350ml缶で62.4円。25%未満のものは350ml缶で46.9円。

 発泡酒は節税目的でつくられたため、ほとんどが麦芽比率25%未満のものである。

 第3のビールは(メーカーは新ジャンルといっている)、さらに節税するために、ビールや発泡酒とは別の原料と製法で作られたビール風味の発泡アルコール飲料。

 麦芽を使わずに大豆ペプチド、大豆タンパク、とうもろこしなどを原料にするため、ビール独特の苦味がなく、すっきりして飲みやすいと若者や女性に人気がある。350ml缶で酒税は28円。ビールとは49円、発泡酒と比べても18.9円安くなる。

 『現代』によれば、国税の指摘を受けてサッポロは、登録を発泡酒に切り替えて昨年7月に『極ZERO』を再発売した。

 人気商品が「終売」となれば社の経営に響くという苦渋の決断は功を奏して売上は落ちなかったという。だが、サッポロが国税に全面降伏したかのような騒動は、サッポロに大打撃を与えた。「しかし、実態はそうではなかった。サッポロビールは反撃の時を虎視眈々と狙っていたのだ」(『現代』)。「開発、製造部の人間は『俺たちは間違っていない』」(同)と調査を継続し、第3のビールであることに間違いないとの結論に至ったのだ。

 なぜ115億円を納付したのかという問いに、幹部社員はこう話す。

 「もしウチに問題があることが分かってから納付すれば、それまでの期間で膨れ上がった延滞税も払わなければいけなくなるからです」

 そしてサッポロは国税に対して前代未聞の「返還要求」を起こしたのである。尾賀真城(おが・まさき)社長がこう語る。

 「国税庁から指摘を受けた当初から、『極ZERO』は第3のビールで間違いないと考えてきました。我々としては、それに則って返還を要請しただけです。
 この要求が受け入れられるか否かは、国税が判断することですから、我々はその判断を待つだけ」

 国税は酒類の製造免許発行という、メーカーにはそら恐ろしい切り札をもっている。なのになぜ下克上とも取れる反旗を翻したのか。

 「今、酒造業界には、国税の言いなりになっても、得にならないのではないかという疑念が湧きはじめているのかもしれません」(元財務相のキャリアで税務訴訟専門の弁護士・志賀櫻(さくら)氏)

 このところ企業が国税を相手に起こした裁判で、国税が負けていることも追い風になったのではないかと志賀氏は言っている。

 裁判所は以前は、国税のやることに間違いはないだろうという前提に立っていたのだが、数年前にある国税庁長官が、こう言い放ったという。

 「現場で迷ったら、課税するように。もし裁判になったら、私たちがひきとるから」

 国税OBの大津學税理士が指摘している。

 「一連の裁判が示しているように、今、国税全体の調査レベルが低下している。(中略)
 その根本には、『とりあえず取れそうだから課税をしてしまえ、どうせ酒造メーカーは自分たちに刃向かえないんだから』という意識があったのでしょう」

 さらにサッポロには、国税が進める酒税改定にクギを刺す狙いがあったと専門誌記者は解説する。つまりビールは減税するが、売れ行き好調な発泡酒や第3のビールは増税しようという、取れるところからむしり取るというあからさまな国税や財務省のやり方に、「これ以上国の思い通りにはさせないという決意のあらわれ」だというのだ。

 この問題は、国税がすんなりサッポロ側の主張を認めて返還に応じるとは考えられない。訴訟に発展することは間違いないようだ。サントリーにまで抜かれたサッポロが社運を賭けた大一番。ビールでも飲みながらお手並み拝見といきますかな。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 週刊誌のおもしろさは、時代の「風俗」をどう切り取るのかというところにあると、私は思っている。10年、20年後、あのときはどんな時代だったかを思い返すためには、新聞よりも週刊誌のほうが一日の長がある。それで選んだのが『週刊ポスト』の記事である。『週刊現代』との違いを読みとっていただければ幸甚です。

第1位 「仰天! 飛田新地の『ちょんの間』に“普通の女子大生”が殺到している」(『週刊ポスト』2/27号)
第2位 「中谷美紀と渡部篤郎が15年愛に決着をつけた長い夜」(『フライデー』2/27号)
第3位 「秋吉久美子の長男『転落死』」(『週刊文春』2/19号)

 第3位。有名人の子どもの転落死が多い。俳優の草刈正雄(62)の長男(23)が2月14日夜、東京・渋谷区のマンションから転落死したという。
 女優・秋吉久美子の長男も不審な転落死をしていたと『文春』が報じている。痛ましいことだ。
 36年前、「太陽がくれた季節」を大ヒットさせた青い三角定規の岩久茂(いわく・しげる)氏との結婚報告会見で、あの有名な「卵で産みたい」と発言し、その後産まれたのがこの長男だったそうだ。
 だが10年で結婚生活に終止符が打たれるが、それ以前からこの長男は、秋吉の実家がある福島県いわき市に預けられていたという。
 離婚後も男関係は衰えず、秋吉は年下の男性と恋愛沙汰を繰り返す。その間、件の長男がどのように暮らしていたのかは不明のようだ。
 そして1月13日の未明、港区の病院の地下に続く非常階段下に転落して死んでいるのを発見された。
 携帯の履歴から彼の知人と思われる人間に連絡したところ、しばらくしてから秋吉が現れたという。
 なぜ彼が、そんな時間にそのようなところにいたのか。この長男はどういう生活を送ってきたのか、謎は多い。
 世間の大きな関心を集めた子どもの36年後の孤独な死を、還暦になった秋吉はどう偲んでいるのだろうか。

 第2位。先夜、フジテレビのドラマ「ゴーストライター」を見た。天才小説家として世間から注目を集めていた遠野リサ(中谷美紀・39)が、行き詰まりを感じて、小説家を目指しているアシスタントに作品を代筆させる。そこから様々なドラマが起こるというストーリーだ。
 佐村河内守(さむらごうち・まもる)騒動にヒントを得たのかもしれないが、出版界にはよくある話だ。今では大作家になってエッセイも常に評判になる某氏には、昔から「ゴーストライター」がいるという噂が絶えない。
 中谷という女優の私生活は知らなかったが、『フライデー』は彼女が俳優の渡部篤郎(46)と「15年愛に決着をつけた長い夜」という張り込みネタをやっている。
 長い交際の末に別れたのかと思ったら、そうではない。ドラマで知り合って理無(わりな)い仲になった二人には大きな障害があったといっては失礼だが、渡部はその当時「RIKACO(当時は村上里佳子)」と結婚していて、子どももおり、豪邸を建てることになっていた。
 しかも妻と中谷は友人だったから、泥沼不倫といわれていたようだ。だが05年に離婚が成立。二人は結婚すると周囲では思われていたのだが、中谷は二人の子どもたちを傷つけまいとマスコミの目を避け、入籍も求めないで大人の恋愛関係を続けてきたそうだ。
 昨年、長男が成人し、次男も16歳になったのを機に、中谷も決意を固め、近々入籍するというのだ。
 この日の二人の姿は「長かった15年間の道のりを確かめるかのように」仲むつまじかったと『フライデー』は書いている。なかなかいい話じゃないか。

 第1位。飛田新地といえば今でもディープな売春窟というイメージが浮かぶが、『ポスト』が飛田新地に普通の女子大生が殺到していると報じている。ほんとかね?
 飛田の元料亭経営者で、現在もスカウトマンとして活動する杉坂圭介氏がこう言う。

 「“料亭”が作る組合のしっかりした管理により、暴力団排除から性感染症の防止策まで徹底している。昔の『怖い』、『怪しい』、『暗い』というイメージは薄れてきている」

 どうやらほんとらしい。インターネット上に洒落た求人ページを作って女性を勧誘していることも、女子大生の応募が増えている理由だそうだ。
 都内の名門大学に通う4年生の聡美さん(仮名)もインターネットの求人広告を通じて応募したという。
 ある求人ページには「大阪出稼ぎツアー 目指せ1週間で100万円」という見出しで、7日間で114万円を稼ぐシミュレーションまで載っているそうである。
 そのため働くのも大変なんだそうだ。ある店舗経営者がこう話す。

 「一般の人は驚くかもしれませんが、応募は殺到しています。ハッキリいって今は買い手市場。書類審査で半分ぐらい落とします。その後、500人ほど面接しても受かるのは70~80人だから採用率は2割に満たない」

 別の都内に通う女子大生がこう証言する。

 「私は六本木の高級キャバクラでも働いたことがありますが、女の子のレベルは飛田新地のほうが上だと断言できます」

 なぜ人気か? ここで働いてもバレないという安心感が結構引きになっているそうだ。その女子大生がこう言う。

 「飛田新地は女の子を紹介するホームページもないし、街全体が写真撮影を禁止している。面接でも“絶対バレないようにするから”とお店の人にいってもらった。バレるリスクが少ないのは最大の安心です」

 先の聡美さんは1週間で80万円稼いだテクニックをこう明かす。

 「講習の時に、稼ぐためには“気持ちいいを相手にいっぱい伝えよう”と教えられます。フェラチオの時は上目遣い、唾液を溜めて音を立てると喜んでくれます。喘ぎ声も大きめに、感じる表情も豊かに。そうすると早くイッてくれます。そこがポイントなんです」

 100万円を稼ぐには、飛田新地で主流の20分コースで1日20人の相手をする必要があるという。したがって稼ぐには人数をこなさなければならない。聡美さんは客が早く果ててくれるよう工夫を怠らなかった。
 客層も変化しているようだ。最近は円安やビザ緩和の影響で中国人観光客が急増して、京都や奈良の観光ツアーの中に飛田新地が組み込まれたものもあるという。
 風俗記事としては出色である。それは『現代』(2/28号)の「AVで顔出し本番」という記事と比べるとわかる。こちらはAVの解説記事だから、生々しさがない
 だが、こういう箇所には驚かされる。ひと月に発売されるAVは2000タイトルを超える。仮に毎年1万2000人がAVデビューしているとすると、その数は10年で12万人になる。最新の国勢調査によれば18~49歳の女性は約2500万人だから、「適齢期」女性の約200人に1人がAVに出演した経験があることになるそうだ。イヤーすごい。あなたの彼女もAV出演の過去があるかもね。
 AVに出る動機も変わってきたそうだ。8年前に行なわれた100人のAV女優に対する調査によると、1番の理由は「お金が欲しい」と「好奇心・興味」がほぼ同じで約4割ずつ。「有名になりたい」が0.5割だったそうだが、最近は「有名になりたい」が5割になるという。
 だが1作品で100万円以上稼ぐ女優はほんの一握りで、大半は1日15~20万円。本番なしでフェラチオだけの出演となると、わずか3万~5万円の出演料しか出ない。
 それでも出るのは、AVをきっかけに有名になれるかもという願望からのようだ。
 元AV女優で日経新聞記者となり、そこを退職して社会学者となった鈴木涼美(すずみ)さんは、こう解説する。

 「私たちが育った時代は、家族の輪や大学や企業に続く道から逸脱せずに、『性の商品化』の現場に加担できる仕組みが整っていました。自らの性を商品化する理由は特別に求められてはこなかった。強いて言えば、しない理由がなかったんです。
 AV女優たちに『いやいや仕事をやっている』といった態度はほとんど感じられません。現場には自分たちの業務を楽しんでいる雰囲気があります。そんな業務の中で溌溂と饒舌に自分を語り、新しいキャラクターに変わってゆくことが、彼女たちには快感なのかもしれません」

 なるほどな~とは思うが、飛田に女子大生が殺到しているという記事と比べると、どちらが風俗記事としておもしろいか、一目瞭然であろう。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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