今年に入り、自民党は以前にも増して憲法改正の意欲を見せている。その最優先項目に掲げているのが、現行の日本国憲法にはない「緊急事態条項」の新設だ。
たとえば、1月19日の参議院予算委員会で、安倍晋三首相は、大規模な災害を例に出し、「緊急時において国民の安全を守るため、国家そして国民自らがどのような役割を果たしていくべきかを憲法にどのように位置づけるかは極めて重く、大切な課題」と答えている。
文字通り受け取れば、もっともな内容だが、自民党が2012年に発表した憲法改正草案の「緊急事態の宣言」は、非常に危険な内容となっている。万一、これが実現したあかつきには、国民の基本的人権は著しく侵害され、独裁国家へと導かれる可能性が高いのだ。
自民党の改憲草案では、第98条に「緊急事態の宣言」を新設しており、他国からの武力攻撃や大災害などが起きたときには、首相が閣議で「緊急事態」を宣言すると、法律と同じ効力を持つ政令の制定が可能になり、国民には国の指示に従う義務が生じるというもの。
緊急事態宣言の発動要件は曖昧で、国会承認は「事後」でもよいとされている。内閣、つまり首相が「緊急事態宣言が必要だ」と思えば、かなり恣意的に発動させることができてしまうのだ。さらに、緊急事態宣言の最中は、国民の基本的人権は必ずしも保障されず、尊重に留まる。内閣が必要だと判断すれば、ふだんは行なわれないような強引な逮捕、財産権を侵害するような土地・財産の接収などが行なわれる可能性もある。
諸外国には、緊急事態条項と同様の憲法を持つ国もあるが、憲法裁判所の介入、第三者機関による責任追及の仕組みを同時に設けており、おいそれと緊急事態条項は発動できない。
それに対して、自民党の改憲草案による「緊急事態の宣言」は、内閣が暴走したときの歯止めがないので、為政者にフリーハンドを与えることになる。また、「宣言が100日を超える場合は国会の承認が必要」としているが、民主主義国家で長期間、人権制限を続ける規定を持つ国はない。
そのため、憲法学者の木村草太(そうた)氏は「緊急事態条項というより、内閣独裁権条項と呼んだほうが正しい」(朝日新聞WEBRONZAより)と解説している。今、国会周辺で話題となっている「緊急事態条項」は、そんな危険な憲法条項なのだ。
昨日、5月3日は、戦前の反省を踏まえ、永久に戦争を放棄することを誓った日本国憲法が施行された日だ。同時に、私たち日本国民は、この憲法のもとで、自由で平等で、基本的人権が保障された暮らしを営んできた。
その憲法を簡単に手放していいのか。ふと気がついたら、「茶色の朝」を迎えていたということのないように、立ち止まって日本国憲法について考える必要があるだろう。
(編集部注:「茶色の朝」はフランスの心理学者フランク・パブロフによるファシズムに警鐘を鳴らした寓話)
《参考》
自由民主党 日本国憲法改正草案
第98条(緊急事態の宣言)
1 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
4 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。
第99条(緊急事態の宣言の効果)
1 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
2 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。
たとえば、1月19日の参議院予算委員会で、安倍晋三首相は、大規模な災害を例に出し、「緊急時において国民の安全を守るため、国家そして国民自らがどのような役割を果たしていくべきかを憲法にどのように位置づけるかは極めて重く、大切な課題」と答えている。
文字通り受け取れば、もっともな内容だが、自民党が2012年に発表した憲法改正草案の「緊急事態の宣言」は、非常に危険な内容となっている。万一、これが実現したあかつきには、国民の基本的人権は著しく侵害され、独裁国家へと導かれる可能性が高いのだ。
自民党の改憲草案では、第98条に「緊急事態の宣言」を新設しており、他国からの武力攻撃や大災害などが起きたときには、首相が閣議で「緊急事態」を宣言すると、法律と同じ効力を持つ政令の制定が可能になり、国民には国の指示に従う義務が生じるというもの。
緊急事態宣言の発動要件は曖昧で、国会承認は「事後」でもよいとされている。内閣、つまり首相が「緊急事態宣言が必要だ」と思えば、かなり恣意的に発動させることができてしまうのだ。さらに、緊急事態宣言の最中は、国民の基本的人権は必ずしも保障されず、尊重に留まる。内閣が必要だと判断すれば、ふだんは行なわれないような強引な逮捕、財産権を侵害するような土地・財産の接収などが行なわれる可能性もある。
諸外国には、緊急事態条項と同様の憲法を持つ国もあるが、憲法裁判所の介入、第三者機関による責任追及の仕組みを同時に設けており、おいそれと緊急事態条項は発動できない。
それに対して、自民党の改憲草案による「緊急事態の宣言」は、内閣が暴走したときの歯止めがないので、為政者にフリーハンドを与えることになる。また、「宣言が100日を超える場合は国会の承認が必要」としているが、民主主義国家で長期間、人権制限を続ける規定を持つ国はない。
そのため、憲法学者の木村草太(そうた)氏は「緊急事態条項というより、内閣独裁権条項と呼んだほうが正しい」(朝日新聞WEBRONZAより)と解説している。今、国会周辺で話題となっている「緊急事態条項」は、そんな危険な憲法条項なのだ。
昨日、5月3日は、戦前の反省を踏まえ、永久に戦争を放棄することを誓った日本国憲法が施行された日だ。同時に、私たち日本国民は、この憲法のもとで、自由で平等で、基本的人権が保障された暮らしを営んできた。
その憲法を簡単に手放していいのか。ふと気がついたら、「茶色の朝」を迎えていたということのないように、立ち止まって日本国憲法について考える必要があるだろう。
(編集部注:「茶色の朝」はフランスの心理学者フランク・パブロフによるファシズムに警鐘を鳴らした寓話)
《参考》
自由民主党 日本国憲法改正草案
第98条(緊急事態の宣言)
1 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
4 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。
第99条(緊急事態の宣言の効果)
1 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
2 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。