真鱈やスケトウダラの卵巣を「たらのこ」という。今日では「鱈子(たらこ)」という呼称が一般的かもしれないが、京都では昭和期まで「たらのこ」と呼ぶのが当たり前だったので、今もなんの疑問もなく、そのまま呼ばれているのだろう。

 「たらのこ」は、年間を通じて塩漬けの外国産が出回っているが、寒くなってから春までの旬の時期は、日本で水揚げされた真鱈の生が手に入る。この真鱈のものは、実に大きく異様な見た目をしているが、独特の旨味が強く、酒の肴にも、あつあつのご飯のお供にしても、たいへんおいしく食べられる。

 初春の定番料理といえば、春らしい野菜との炊き合わせで食べるとおいしい。まず、ウドなどの春野菜や椎茸を用意し、だしで炊いておく。「たらのこ」は卵巣の形が崩れないように丸ごと薄い布などで包み、鍋でゆがいて芯まで火を通す。鍋から取り出し、水気をとって冷ましたら、好みの太さに輪切りにする。これをおだしに入れ、酒塩(さかしお)、砂糖、醤油のうす味で、ぐつぐつ煮る。できれば、この状態で一度冷ましながら味を染み入らせ、最後に、別に炊いておいた春野菜などと合わせ、もう一度温めながら味の微調整をすれば完成である。

 京料理では、鱈、鯛、鱧(はも)、ウナギ、カワハギ、フグなどの腹子や胆をよく食べるけれど、なかでも真鱈の「たらのこ」はいろんな食べ方のできる、重宝する食材である。昔は「もみじこ」と呼ばれるものがよく見られ、赤く着色したものを軽く炙り、お弁当のおかずやおにぎりの中身にも使った。最近は薄塩でナチュラルな色合いのほうが好まれ、生食用もある。小料理屋などでは、たらのこの袋を裂いて中身を取り出し、イカのお刺身や糸こんにゃくなどと一緒に和えて醤油をかけたものがお通しとしてよく出てくる。もっと簡単に、卵に鰹節を多めに振って、味醂と醤油をかけるだけでもおいしく食べられる。


存在感のある「たらのこ」。



鍋料理などで絶品「たらの白子」。


京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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