二十四節気をさらに細分化した七十二候中の第二十一候「たけのこしょうず(竹笋生)」の意味は、「竹の子が生える頃」。この言葉は、5月後半の春と夏の境の季節をさしている。「竹の子」は、京都の人がもっとも愛する食材の一つといえるが、京都の旬はもっとずっと早く、3月下旬から4月下旬にかけての時期である。3月に入ると、九州産から出回り始め、産地が徐々に北上してくる。そして、毎年4月に最盛期を迎える京都産の孟宗竹の「竹の子」は、日本でもっともうまいといわれてきた折紙付きの「竹の子」である。肉質は白く、独特の旨味と歯切れの良さがあり、ほのかな香りがある。孟宗竹にやや遅れて出回る淡竹(はちく)の「竹の子」を好む人も少なくないが、淡泊な優しい味わいで、「竹の子」好きにはやや物足りないような気がする。

 4月のある日、竹の子の頂きものが山のように手に入るのも京都住まいの役得である。竹林を所有する知人が一人か二人ぐらいはいるもので、一気に掘り出して今年の分け前を持ってきてくれるのだ。採りたての「竹の子」は風に当てるほど固くなるので、皮に包丁を入れながら手早く剥(む)き、米のとぎ汁か、糠を入れた水で一気に下茹でする。一番固い根元に串が刺さるようになったら、そのまま冷めるまで「うまして」おく。京都では「蒸らしておく」ことを「うます」という。

 下茹でが済んだら、最初の料理は若竹煮が一番だろう。昆布と干し椎茸でとった精進だしで、分厚く切った「竹の子」を炊き、であいもんの若布と一緒に食べる。しょっきりとした歯ごたえに、口に残るえぐみもまた、春ならではの風味を堪能できる。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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