芸能界は魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界である。私が雑誌の世界へ入った70年代は渡辺プロダクション(通称ナベプロ)の全盛時代であった。

 ハナ肇とクレージーキャッツ、ザ・ピーナッツ、中尾ミエ、伊東ゆかり、園まり、ザ・ドリフターズ、沢田研二、布施明、森進一、小柳ルミ子、天地真理、キャンディーズなどの大スターを抱えて「ナベプロ帝国」といわれた。

 今ある芸能プロが全部集まってもかなわない絶大な力を持ち、ナベプロなしでは歌番組もバラエティもできないといわれていた。裏では山口組と近い人間を擁して凄みをきかせていたといわれる。

 たしか私が講談社に入った70年、芸能プロダクションとしては初めて大学卒を採用したと記憶している。1年前ならナベプロを受けたのにと悔しがった思い出がある。

 なかには伊東ゆかりや森進一、小柳ルミ子のように独立する者もいたが、ナベプロが圧力をかけ、一時彼らは、民放には一切出られなくなってしまった。

 あまりのナベプロの横暴に危機感を抱き叛旗を翻したのは日本テレビだった。テレビからスターを出そうと始めたのが公開オーディション番組『スター誕生!』である。

 ここから山口百恵、桜田淳子、新沼謙治、石野真子、森昌子、岩崎宏美、ピンク・レディ、中森明菜などが生まれ、新興芸能プロに供給したため、ナベプロは凋落していったのである。

 事務所移籍で大きな騒動になったのは郷ひろみの時だった。72年にデビューした郷は、アイドルとして一気に人気者になった。

 その郷がジャニーズ事務所から独立してバーニングプロダクションへ移籍してしまったのである。

 当時は両プロダクションとも中堅であったが、一番の稼ぎ手が他に移ってしまうというのは死活問題だから、相当もめるのではないかと注目された。バーニングの周防郁雄(すおう・いくお)の強面が功を奏した、相当な金銭がやり取りされた、などの噂は流れたが、それほどもめずに表面上は決着した。

 郷の移籍を機にバーニング・周防は現在のような「芸能界のドン」にまで駆け上がったといわれる。

 最近では、やはりジャニーズ事務所のSMAPの独立騒動が話題になった。結局、5人のうち木村拓哉と中居正広が残り、あとの3人はこの9月事務所を離れる。

 これを解決するために周防や、もう一人のドン、田辺エージェンシーの田邊昭知(しょうち)社長がからんだのではないかといわれている。

 また、NHKの朝ドラ『あまちゃん』で人気の出た能年玲奈(のうねん・れな)が事務所から独立する際、事務所側から「能年玲奈」を使用するなといわれ、「のん」と改名したことが話題になった。

 能年は彼女の本名であり、それを使用するなというレプロエンタテインメント側の理不尽なやり方には大きな批判の声が出た。

 独立後「のん」は、「創作あーちすと」と名乗り、アニメ映画『この世界の片隅に』の声優として活躍している。

 能年のケースでもわかるように、昔も今も芸能プロダクションの実態はブラック企業といってもいいだろう。

 秋元康がつくったAKB商法も、数々の不祥事やファンによる傷害事件が起きて、批判を浴びている。

 だが、内部から告発するケースがあまりないのは、何としてもスターになりたいという子どもたちの「欲望」が、嫌々でも現状を追認させてしまうからであろう。

 『週刊文春』(8/17・24号、以下『文春』)が、人気モデルのローラ(27)が事務所に「10年奴隷契約」を結ばされたと報じている。

 私はローラという女性が好きだ。バングラデシュ人の父親が時々世間を騒がせたりするが、彼女の美しさ(とくに目がいい)、歌のうまさ、料理のうまさは瞠目に値すると思っている。

 ハリウッドで『バイオハザード:ザ・ファイナル』に出演して女優デビューも果たし、アメリカでも注目されているという。

 そのローラに異変が起きていた。6月17日、フォロワー400万人を超すツイッターに彼女が、「ローラ最近裏切られたことがあって心から悲しくて沈んでいるんだけど、わたしは人には絶対にしない」「いま誰のことも信じられないない(原文ママ)くらい怖いんだ」と投稿した。

 さらにその後も「黒い心を持った人とは絶対に一緒にいたくない。10年の信頼をかえしてください」とつぶやき、事務所とのトラブルで独立するのではと騒ぎになっているというのだ。

 『文春』によると事態はそうとう深刻なようで、CMは10本以上あるのに、あれだけバラエティ番組に出ていたテレビのレギュラーはゼロになってしまったそうだ。

 ローラが所属する事務所はモデル事務所『LIBERA』。創業者で代表取締役は羽布津康史(39)。ボディビルダーなどをテレビ番組に出す小さな芸能プロダクションだった。

 だが、羽布津は2007年、高校3年だったローラを渋谷でスカウトし、ファッション誌『Popteen』でデビューさせ、翌年は『ViVi』の専属モデルになった。10年にゲスト出演した日テレ系の『しゃべくり007』で、誰に対してもタメ口で話し、舌を出したり頬を膨らませるコミカルなしぐさが受け、バラエティ番組からのオファーが殺到した。

 12年にはフジテレビ系の『笑っていいとも』のレギュラーに抜擢されるなど、この時期テレビ番組への出演回数が200回を超えたという。

 民間調査会社の調べによると、同社の売上高は推定8億円で、そのうちローラの稼ぎが約9割というから、彼女は事務所にとっての命綱である。

 ローラを溺愛する羽布津は、独立されては大変と考えたのであろう、ローラの私生活を徹底的に管理し始めたという。

 深夜のローラの長電話に付き合い、彼女が会う人間を全て報告するようマネジャーに義務付け、共演者との連絡も羽布津の許可を取るようにしたそうである。

 ある男性クリエイターがローラを食事に誘ったことに激怒し、携帯電話から家族以外のデータを削除させてしまった。これではプライバシーゼロではないか。

 さらにエスカレートして、羽布津はローラの自宅へ乗り込み、ボディビルの経験もある彼が部屋で暴れ、壁に穴を開けた末、契約書にサインせよと迫ったというのだ。

 恐さで震えあがったローラは、契約書に何が書かれているのか理解できないまま泣きながらサインしてしまったそうだ。

 この契約書がとんでもない内容だった。ローラとの契約有効期間は異例に長い10年。しかも契約満了を迎えても自動的に10年契約が更新される。ローラ側が契約更新しないといっても、事務所サイドの了承がなければ解除できない。たとえ契約解除できたとしても、その後2年間は芸能活動できないというから、事実上、独立や移籍は不可能だ。これは現在問題になっている不平等な「奴隷契約」そのものではないのか。

 後になってローラの両親が契約書の内容を知って激怒したが、サインした以上、打つ手はなかったという。

 これほどのブラック契約を解除できないのだろうか。都民総合法律事務所の中村剛弁護士によると、特に契約終了後2年間活動できないというルールは、憲法22条の「職業選択の自由」に照らして拘束力を有しないという判例があるというのだが、要領を得ないコメントではある。

 さらに、契約書にサインしたにもかかわらず、彼女のギャラは10分の1に下げられたという。そもそも事務所にいくら入っているのかさえ、ローラは知らされてなかったというのだから、こんな契約はまったく無効のはずだが。

 今年初め、当時20歳になったばかりの頃に彼女が交わした契約書が手元になく、羽布津に契約書を確認したいと言うと、「辞めるつもりなら、暴露本を出してやる」「日本だけでなくアメリカでも活動できなくするぞ」と恫喝されたそうだ。

 まるで程度の低いチンピラのようなやり方である。

 ついには心労のためだろう、ローラは5月下旬、撮影のために訪れていたロサンゼルスで倒れてしまう。6月に医者に行くと「これ以上、症状が進行するとうつ病です」といわれたそうだ。

 このところ先に触れたSMAP、能年玲奈など事務所側とのトラブルでタレント側が泣くケースが目立つため、今年7月、公正取引委員会が調査に乗り出し、大手芸能プロなどで独占禁止法に抵触する不公正な契約が結ばれていないか調べ、年内には何らかの結果が公表されるといわれているようだ。

 昨年11月には厚労省が「日本音楽事業者協会」などの芸能関連団体に「芸能人も労働者として扱い、雇用契約と見なすこともあり得る」という文書を配布したという。

 『文春』からこの間の事情を聞かれたローラは沈黙を通したそうだが、最後に芸能活動を続けるのかと聞かれ、

 「心配してくれてありがとう。うん、私、頑張る。これからもみんなをハッピーにするから待っててね」

とけなげに言ったそうだ。

 私も行って優しく抱きしめてやりたい。それはともかく、こうした「奴隷契約」が芸能界でまかり通っていることは事実であろう。なぜ改善されないのか? 大金をつぎ込んで育てたタレントに独立されては困るというプロダクション側の理屈もある。

 だが私が思うに、タレントやその家族、友人が窮状を訴えようとメディアに駆け込んでも、役人、政治家が動かないからだ。

 なぜなら、彼らは自分の息子や娘、有力支援者に頼まれ、「嵐のチケットを」「EXILE(エグザイル)のチケットを頼む」とプロダクション側に依頼し、莫大な借りをつくっているからである。

 なかにはプロダクション側から「枕営業」を受けている輩もいるのではないか。そうした“深い闇”を芸能界と官・政界は共有しているのである。

 ローラの闇は幸いまだそう深くはない。救い出す手はあるはずだし、その第一弾が『文春』のこの記事だと思う。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 今週も寝不足である。松山英樹が優勝争いをした全米プロ選手権を4日間見ていたからである。もちろん世界陸上の男子100m、400mリレーも見た。ボルトが見事に負けたシーンは、どんなに強いランナーにも終わりが来るということを見せてもらった。松山は惜しかった。メジャー制覇に手が届いた瞬間が確かにあった。16番ホール1.5mのパットが決まっていれば。結婚おめでとう。来年はメジャーを手にして妻と子どもと抱き合って泣こうではないか。

第1位 「『錦織圭』を迷わすモデル恋人の告白」(『週刊新潮』8/17・24号)
第2位 「『乙武クン』と愛人を『糟糠の妻』が訴えた!!」(『週刊新潮』8/17・24号)
第3位 「『東洋経済オンライン』衝撃の内部告発」(『週刊文春』8/17・24号)

 第3位。「東洋経済オンライン」という経済雑誌の老舗・東洋経済新報社がやっているネットメディアがある。
 1か月当たりのサイトのPV(ページビュー)は2億超といわれる。売り上げも年間10億円を大きく超えるというから、たいしたものである。
 お堅い経済のサイトがこれだけ稼ぐというのは、確かにニュースであろう。
 だが、『文春』が東洋経済新報社の中堅社員に聞くと、うちは硬派なメディアと公言しているが、「その内実はサイトを少し覗くとわかるように、下ネタ記事、貧困ネタの記事のオンパレードなのです」というではないか。
 『文春』が入手した内部資料によると、週間TOP20ランキングには、1<妻からも見放された34歳男性派遣社員の辛酸>、2<独身女性が48歳でAV女優デビューした理由>、3<「親が貧しい子」は勉強でどれだけ不利なのか>
 TOP20の中に経済記事といえるのは4、5本だという。『文春』は編集長を直撃して、PV至上主義で、本来の経済記事がおろそかになっているのではないかと指摘する。
 編集長は、そうではないと言いながら、東洋経済の雑誌のほうはプレミアムな雑誌を目指し、オンラインのほうは大衆的なところを引き継げばいいと話している。
 私は長くそうしたことに関わってきたから、ネットがPV至上主義になるのは致し方ないと思う。
 ネットでカネを稼ぐには、刺激的なタイトルと煽情的な内容にしなければならず、そうして稼いだPVがおカネになるのを見ていると、いくら御大層な寝言を言っていても転向せざるを得ないのである。
 だいぶ前になるが毎日新聞が外国向けに出している英文サイトのコラム「WaiWai」で、日本からの情報として、性的なものや品性を欠く情報を載せ大きな問題になった。
 結局、毎日はこれを認め、謝罪し、このサイトを閉めた。なぜこんなことを天下の毎日新聞がやったかといえば、人集めであった。
 PVを増やし、話題になれば何でもいい。どうせネットなんだから。
 「東洋経済オンライン」はそうならない、否、そうなっているのではないか。だが、結局、そうしたやり方は、次のもっとえげつないネットにとって代わられるのだ。
 今は東洋経済の看板があるから、読者は、俺はこんな下品な記事を読みたくて来ているんじゃない、来たついでに読んでいるだけだと思いたいのだ。
 だがやがて、そういう読者が主流になり、良質な読者は逃げていくはずだ。どうせやるなら開き直って御託はならべないことだ。
 何が何でもPVで日本一になってやる。稼ぎまくってやる。そのためには手段など選ばない。そう覚悟を決めなくては、どこかで挫折する。

 第2位。昨年大騒ぎになった「5人不倫」の乙武洋匡(おとたけ・ひろただ)のその後。彼は離婚して子どもとも別れ、一人暮らしを続けているらしいが、昨年11月にフジテレビの『ワイドナショー』に久しぶりに出演した。
 だが、ここでの発言が、別れた妻の心を逆なでしたと『新潮』が報じている。

 「私がしでかしたこと自体は、妻はずっと前から知っていたことなので、それ自体っていうのは特にふたり(夫人と)の間で揉め事になることはなかった」

 口は禍の元である。別れる際、二人の間で、そうした経緯については一切口外しないという「守秘義務契約」を結んでいたそうだから、約束違反である。その上、妻も知っていたというのは「虚偽」で、自分をカッコよく見せようとして、妻や子どもたちを傷つけても構わないという乙武の態度に憤慨したという。
 そこで、妻側は、契約違反の違約金と、ウソを垂れ流した不法行為による精神的損害の賠償、それに不倫相手の一人も提訴したのである。
 少し前まで「日本一いい人」と持て囃された男は離婚された上に、軽率な発言で妻の怒りを再び買ってしまったようだ。

 第1位は新潮砲。『文春』や『新潮』は、『現代』、『ポスト』と違って、表紙に売り物企画を載せない雑誌だが、今週、『新潮』は「錦織圭を迷わすモデル恋人の告白」というのを一本載せている。
 よほど自信のある記事なのだろう。グラビアにはワシントンD.C.で錦織(27)と恋人の観月あこ(25)が、仲良く寿司屋で食事をしている写真が掲載されている。
 錦織の年収は、6月に発売されたアメリカの経済誌『フォーブス』によると、世界スポーツ選手の長者番付で日本人最高の26位で、約37億円。
 だが、『新潮』によると、観月と付き合ってから錦織の成績は低迷し、世界ランクも5位から9位にまで落ちてしまった。
 ファンから観月は「さげまん」といわれているそうだ。だがそんな評にお構いなく、2人は蜜月のようだが、多くの障害があるそうだ。
 その最大のものが島根県松江市に住む錦織の父親の清志だ。彼は『新潮』にこう語っている。

 「(結婚については)うーん……わからねぇなぁ。そんなもん全然想像したくもない。彼女(観月)が悪いっていうのはいっぱい聞くし。周りからね。まあ、悪いことしか聞かないからね」

 一刀両断である。観月が元々モデルとして芸能界で仕事をしていたことも気に入らないらしい。

 「もう、嫌い。芸能人って。ウチは本当にリアルな世界だけん。芸能人だとスキャンダラスなこともプラスになるけど、我々の世界はそうじゃないけん」

 観月はモデルとしては鳴かず飛ばずだったが、ジャニーズ事務所の玉森裕太や、杉良太郎とのスキャンダルで名をはせてきた
 今回『新潮』は、観月への直撃にチョッピリ“成功”している。ネットや雑誌で悪く書かれていることについて、彼女は、見てない、興味がないと答えている。
 ワシントンD.C.で開かれているシティ・オープン期間中、「夜の営みはしているか」という失礼な質問にも、「やってないですよ(笑)」と受け流す。
 結婚については、「結婚はしたい(ですが)、彼に任せています」と、ボールが錦織サイドにあることを示唆したという。
 グラビアで錦織の表情を見る限り、彼も観月を憎からず思っているようだし、結婚は親が決めるものではない。
 もう一度世界ランクの上位に返り咲き、周囲を黙らせて結婚すればいい。いい大人同士なのだから。
 (編集部注:錦織は練習中に右手首を痛め、今季の残り全試合を断念すると発表した。(8月17日付、スポーツニッポン))
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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