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芸術の秋だ!

2011-10-12

東京藝術大学というと、なんだかアートの総本山的な、ちょっと近寄り難い雰囲気を醸し出している、と勝手に想像していた。そんな藝大にある奏楽堂で「藝大プロジェクト2011-元禄~そのとき、世界は?」というものを観てきた。

「その時代の芸術状況を浮き彫りにする」プロジェクトらしく、全5回シリーズ。観てきたのは、その第3回「西と東~もしも鎖国がなかったら」。前半は「レクチャー:鎖国政策の真実」、そして後半は「コンサート:空想音楽会『1687年 江戸城二の丸コンサート』」である。事前情報は以上。

正直、二の足を踏んだ。「もしも鎖国がなかったら?」と「レクチャー」は、なんとなく想像がつく。が、「空想音楽会」となると、なんとなくわかるけど、それってどうなの?と思ったのである。しかし実際に観てみると……、食わず嫌いでスミマセン、藝大さま!

公演全体のテーマは「もしも江戸時代に鎖国がなかったら、もっと多くの西洋文化、たとえば西洋音楽が江戸にやってきたら、こんなことになっているかも!」ということだった。レクチャーは、東大史料編纂室の江戸時代スペシャリスト、山本博文先生。鎖国というと、とかくすべての交流を断絶したと思いがちだが、その本質はキリスト教の排除にあり、決してすべての交流を断っていたわけではない、というお話。興味深かったのは、当時の日本が、本場西洋のキリスト教信者にとって殉教に適した場であったということ。「日本に行けば、もっとも尊い行為とされる殉教が容易に実現できる」という認識があったらしいのだ。

なんて話を交えつつ、1時間ほど江戸の鎖国政策についてレクチャーを受けた。そして第2部。

「空想音楽会」とは「もしも江戸元禄時代の徳川5代将軍綱吉に、音楽家リュリが謁見にやってきたら」というもの。リュリとは「ジャン=バチスト リュリ:フランス歌劇の伝統を確立した作曲家。1646年イタリアからパリに出てやがてルイ14世に仕え……、以下省略」(集英社世界文学大事典より)という人物で、要は当時の人気音楽家である。その人物が御前演奏を催すというオペラのような舞台。そこでは音楽だけでなく、クラシックバレエやオペラの一節など西洋音楽を次々と披露。そんな西軍に挑発されるや、東軍は三味線で応酬。そしてそして、将軍綱吉自らも能「草紙洗」を演じる。そんな音楽バトルをやり合ううちに、すっかり意気投合した東西両軍は、リュリのラ・フォリアで一緒に踊り、めでたしめでたしとなるのだ。

バロック音楽、クラシックバレエ、オペラ、三味線、能。ひとつの舞台でこれだけつまみ食いできるものは、滅多にないのではないか。そして、それぞれのファンの方には怒られそうだが、どれひとつたいした知識を持ち合わせていない素人としては、このつまみ食いがちょうどいい。2000円で楽しめる歴史とアート。第4回は10/15、そして最終第5回は10/30の予定。

2011-10-12 written by テツマザキ
ダンサーやリュリ役が観客に応えるカーテンコール。そこに混じって能を演じた綱吉役や地謡方らがぞろぞろと現れる。劇中では西洋に負けじと演じていたのだが、西洋式ご挨拶の場となると、なんとなく落ち着かない、締まらない空気が流れる。そういえば江戸時代に<拍手>という習慣はあったのだろうか?