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2022年の神保町

2022-01-18

神保町にはじめて訪れたのは、●年前のことである(●はご想像にお任せします)。新幹線に揺られ、憧れの映画雑誌の編集者になりたいと意気込んでやってきたのだ。神保町A6出口をあがって最初に目にしたのは岩波ホールの入口だった。「ああ、こんなところにあったんだな」──当時の私は東京に一度しか来たことがなく、神保町に岩波ホールがあることを知らなかった。

グループ面接で東京の大学に通う女の子と意気投合。地下にある洒落た喫茶店に誘われ、大学生のお財布には高価すぎるコーヒーを飲んだ。美味しかった。この町で社会人一年生になれればなあと思ったけれど、結局その出版社には縁がなく、地元で就職した。

それから数年後に上京。何度か転職をし、神保町にたどり着いた。そしてもうかなりの年月、この町にお世話になっている(つまりはこの会社に、ですね!)。

東京の街はどんどん変わっている。丸の内や大手町のオフィス街だけでなく、高い建物があまりなかった渋谷はいまや高層ビルが建ち並び、下北にはきれいな駅ビルができたそうだ(まだ行けてない)。

一方神保町はというと、確かにちょこちょこ変わっているものの、高層な建物はあまりないし、まだまだ町の匂いのする店は残っている。就活のときに行った地下にある喫茶店も健在だ。

しかし先週火曜日、衝撃的なニュースが流れた。あの岩波ホールが今夏、閉館するという。

会社帰りにフラッと岩波ホールに立ち寄って映画観るぞ、なんて神保町に通い始めたころは思っていたけれど、結局年に数回行けたらいいほうだった。そしてこのコロナ禍である。最後に行ったのはアニエス・ヴァルダ傑作セレクションの『落穂拾い』。なんと2020年の夏のことだ。「岩波ホールに救世主、現れてくれ~」ってFacebookに投稿したけれど、まずは私が全然行ってなかった。

神保町が変わらない町だって? 忙しいだのコロナだのなんだの言い訳して、町を全然見ていなかっただけだ。朝、豆乳が飲みたくなるとたまに寄っていた会社の向かいの豆腐屋さんは昨年の12月に閉店していた。姉妹でやっていたポルトガル料理の可愛いお店(ここはお茶の水エリアだが)も昨年11月に閉店した。そういえばすずらん通りの餃子店、スヰートポーヅもコロナ禍になっていち早く閉まったじゃないか。

神保町1丁目1番地の三省堂書店神保町本店は老朽化で5月8日で営業終了、建て替え工事に入る。竣工は2025~2026年予定だ。岩波ホールが閉まり、三省堂が留守になる2022年の神保町。憧れの人、岩波ホールの支配人・高野悦子さんに思いを馳せながら、永遠に続くものなんてないんだよ、って自分に言い聞かせた。

2022-01-18 written by かおるん
渋谷の東急百貨店本店も来年、いったん閉店。老朽化で建物を解体するらしい。Bunkamuraも長期休館だそうだ。本当にこのお知らせも胸が痛い。