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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 496

『徳川盛世録』(市岡正一著、久留島浩、宮崎勝美解説)

2012/09/06
アイコン画像    これで時代小説がもっと楽しくなる?
江戸ファン必携の幻のイラスト本。

 恒例になりつつある「江戸検」(江戸文化歴史検定/申し込み受付は10月14日まで)。今秋7回目を迎えるそうだが、江戸検受検者と時代小説ファンは、随分重なると思うのだがどうだろうか?

 そのどちらにとっても興味深いテキストが東洋文庫にある。『徳川盛世録』だ。タイトルからは想像つかないかもしれないが、コレ、江戸幕府の儀礼を絵入りで解説した本なのである。

 例えば江戸城の席次なんかも詳細に記しているのだが(「諸侯以下席次」)、これがなんと17ページにおよぶ。このはっきりとしたヒエラルキー! 時代小説に登場する藩士や御家人を、現代社会のサラリーマンと重ね合わせて読む人も多いというが、それも納得。だって、この席次は見ているだけで悲しくなる。門のイラスト(174~180ページ)も載っているのだが、家の格で門のカタチまで決まっていたことが、目ではっきりわかる。他にも行列の様子や、江戸城の間取りなどの図、衣装のイラストもあり、読まずとも見ているだけで、江戸に近づくこと請け合いだ。

 「幻の書」と言われる本書が最初に出版されたのは、明治22(1889)年。筆者は言う。


 〈諸侯参勤交替し、政府の典礼・儀式、諸家の法度・作法、神社仏閣の祭式、匠工商賈の定規より、演劇・遊廓の成例に至るまで、百般の秩序歳を追って定まり、従って江戸の繁昌を増進し、その盛を極めたりしが、今は全く往夢に属せり〉


 つまり江戸繁栄の理由は、〈秩序〉にあったというのだ。

 「五位以下大広間出礼」のイラスト(62~63ページ)を見ると、大名たちが将軍に向かって一斉に頭を下げているのだが、これぞ秩序というのだろう。江戸ファンは、こうした秩序の美しさに共感しているのかもしれない。

 そう考えてみると、最近はまったく〈秩序〉からかけ離れた社会である。だからこそ、またぞろ、教育勅語の復活などを口にする輩も出てくるのだろうが、困ったことだと思う(勅語もまた、ひとつの秩序。だが教育勅語の復活を口にする政治家にかぎって、他者に対して無礼なのはなぜだろう?)。

 『徳川盛世録』をつらつら眺めていて思いましたよ。江戸は、すでにファンタジーの世界なのだ。ゆえに数多の時代小説も生み出されるし、人を惹き付ける。私自身は江戸から学ぶというよりも、むしろ素直に楽しみたい。

本を読む

『徳川盛世録』(市岡正一著、久留島浩、宮崎勝美解説)
今週のカルテ
ジャンル政治・経済/記録
時代 ・ 舞台1800年代の江戸
読後に一言私自身の時代小説の読み方が変わりました。
効用目でも楽しめる。
印象深い一節

名言
もし今日その事蹟(江戸の繁昌)を編述する者なければ、後世必ずその実を失うに至らん(「例言」)
類書武家社会のしきたりの集大成、有職故実の古典『貞丈雑記(全4巻)』(東洋文庫444ほか)
江戸300年の詳細な記録『増訂武江年表(全2巻)』(東洋文庫116、118)
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