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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと約700冊! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『中国民衆叛乱史3 明末~清Ⅰ』(谷川道雄・森正夫編)

2017/12/14
   『水滸伝』の影響で叛乱が起きた!?
中国の民衆が立ち上がるわけ(3)

 このコラムでもたびたび、「明治維新が嫌い」と書き連ねていますが、なぜ忌み嫌うかといえば、結局、武士階級の政権委譲でしかなかったからです。当時の人は、明治維新と言わず「御一新(ごいっしん)」と呼びましたが、これは〈お上の命令によって世の中が新しくなるという意味〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」)です。維新政府も、「御一新」という言葉を使うことで、〈天皇による上からの「御一新」を強調〉(同「国史大辞典」)しました。「御」をつけることで、お上と下々の立場を明確にしたのです。この意識は根強く、今でもキャスターと称する人々が「お上がなんとかしてくれないと……」と口にするのですから、施政者には好都合でしょう。

 そういう意味で、大河ドラマで繰り返される幕末物や司馬遼太郎の“影響”は大きいと言わざるを得ません。

 どの時代、どの国でも、“影響”は侮れません。

 李自成(1606~45)という〈明末の農民反乱指導者〉(同「世界大百科事典」)がいます。大飢饉を期に農民の反乱がおこると、やがて李自成は首領となり、明軍と戦います。〈〈殺人せず,愛財せず,姦淫せず,略奪せず〉といった厳しい軍律をとなえて民衆の支持をえた〉(同前)と言います。『中国民衆叛乱史3』にその乱が詳述されているのですが、読んでいると、おやっという箇所にぶつかりました。李自成は「闖将」と号し、仲間と集結するのですが、その際の記述。


 〈……老回回、曹操、八金剛、掃地王(そうちおう)、射塌天(しゃとうてん)、閻正虎(えんせいこ)、満天星、破甲錐(はこうすい)、邢紅狼(けいこうろう)、上天龍、蝎子塊(かつしかい)、過天星、混世王ら、および〔高〕迎祥、〔張〕献忠ら、あわせて三十六営、総勢二十余万の群賊と連合して、山西に集結した〉


 この感じ、『水滸伝』風というか……。すると「注」にありました。〈『水滸伝』の中の人物のニックネームに基づくもの〉が非常に多く、〈中国民衆の精神生活に、『水滸伝』が大きな影響力をもっていたことがうかがえる〉。『中国民衆叛乱史』という本が成立してしまうほど、中国は叛乱の歴史に彩られていますが、そこには少なからず、『水滸伝』などの“影響”があったのです。

 司馬遼太郎自身は、軍国主義やナショナリズムを明確に否定していました。生前、日露戦争を描いた『坂の上の雲』の映像化を「危険だ」と許さなかったといいます。ちなみにこの『坂の上の雲』、わが国のトップはことあるごとに引用します。影響を受けているんでしょうね。



今週のカルテ

ジャンル歴史
時代 ・ 舞台中国/明末~清
読後に一言映画『シン・ゴジラ』(2016年)もお上が解決する話でした。一個人が立ち上がり、国を救う物語は、日本には生まれないのでしょうか。
効用宗教結社「白蓮教」の乱についても多くのページを割いていますが、宗教と叛乱というテーマでも楽しめます。
印象深い一節

名言
一人が十人を連ね、十人が百人を連ね、百人が千人を連ね、千人が集りて万人と成る(「嘉慶白蓮教の叛乱」)
類書明末清初に成立した続編物語『水滸後伝(全3巻)』(東洋文庫58ほか)
清代の皇帝の生活『康煕帝伝』(東洋文庫155)
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