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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと約700冊! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『戦国策 1』(劉向編 常石茂訳)

2018/01/25
   〝百里を行くものは九十に半す〟
故事成語で予想する2018年(1)

 占いを信じているわけではありませんが、新年ともなると、「2018年の運勢」に目を通している自分がいます。で、なぜか共通していたのが、「良い年だが、油断大敵」という記述。初詣で引いたおみくじにも「気を緩めるな」とあり、「なるほど、今年は気を引き締めろってことだな」とひとり納得した次第。

 そんな時には、吸い寄せられるように、そういう言葉に巡り合います。本書『戦国策 1』を読んでいたら、こんな故事成語を見つけました。


 〈百里を行くものは、九十に半(なかば)す〉


 秦の武王に、ある遊説家が献策するんですね。〈初めはうまくやれたのに、終わりをうまくやれなかった〉過去の例をつらつらと並べ、「王さまもそうなんじゃないですか?」と突きつけるわけです。で、〈いま、王さまには、いつの場合にも、驕色がおありでいらっしゃる〉と、とどめのひと言。

 遊説家いわく、〈有終の美〉を飾るのは難しい。つまり、百里の道も九十までくれば、ゴールも同前だが実際はそうではない。〈九分どおりまで来てやっと半分と心得、最後まで気をゆるめるな〉(ジャパンナレッジ「デジタル大辞泉」)ということなのです。「よっしゃ、終わり!」という寸前に、「まだ半分ある」と言い聞かせる。なかなかできることじゃありませんが、散々「油断大敵」と占いで出ている私にとっては、戒めの言葉となりました。

 『戦国策』とは、〈古代中国の遊説家の弁論集〉です。〈前漢の劉向(りゅうきょう)〉が編纂したもので、〈周の安王から秦の始皇帝の中国統一までの約250年におよぶ,戦国時代の弁士の言説など480条を, 12国別に収録〉(同「世界大百科事典」)しています。〈読者(より古くは聴衆)は,巧妙な論理のすりかえや,比喩(ひゆ)や寓話(ぐうわ)や,誇張された表現などを楽しんだ〉(同「世界文学大事典」)のだそうです。〈その弁論はしばしば詭弁(きべん)に近いものであり,現実の政治のリアリズムからははなはだ遠い〉(同前)という評価もあるようですが、読み物としては抜群に面白い! ここから多くの故事成語が誕生していったのも頷けます。

 というわけで、私は正月休みを使って、故事成語の宝庫である『戦国策』を読みふけったのですが、本書に倣って今年は、「狡兎三窟」(用心深いこと)で行きたいものです。あ、これは「蛇足」でした。



今週のカルテ

ジャンル歴史/政経
時代 ・ 舞台紀元前400年代~200年代の中国
読後に一言遊説家たちの弁説に、唸らされっぱなしでした。非常に高いディベート能力です。
効用「狡兎三窟」も「蛇足」も、本書にその説話が収録されています。
印象深い一節

名言
株を削り根を掘り、禍と隣るなかれ(株を削り根を掘る/災いの原因などを、残すところなくすべて取り除くこと)(50 知りて言はざるは不忠)
類書同時代の思想書『墨子』(東洋文庫599)
道家の思想書『列子(全2巻)』(東洋文庫533、534)
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