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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 447

『和漢三才図会 1』(寺島良安著 島田勇雄・竹島淳夫・樋口元巳訳注)

2018/04/26
アイコン画像    30余年かけて完成させた労作
日本初の図入り百科事典とは

 東洋文庫には『今昔物語集』や『アラビアン・ナイト』、一連の『甲子夜話』など、10数巻におよぶシリーズが収録されています。その中でも、18巻におよぶ大著が『和漢三才図会』です。

 端的にいうと同書は、〈江戸時代の図入り百科事典〉で、全部で〈105巻81冊〉。〈大坂の医師寺島良安〉が〈30余年の歳月〉(ジャパンナレッジ「世界大百科事典」)をかけて完成させました。〈その明解、正確さによって発行から約200年間、明治時代に至るまで広く実用された〉(同「ニッポニカ」)といいますから、事典として初のベストセラーかもしれません。

 事典を書評されても……と思いますよね? 私もそう思ってずっと手つかずだったのですが、意を決して紐解いてみたところ……あらら? これが読み物としても面白い。すっかり読みふけってしまいました。

 たとえば、「巻第一」の冒頭の「天」の説明。


 〈天は理であり、気である。遠くから視(み)れば蒼蒼(あおあお)としているので、蒼天という。(中略)宇宙の根元の一太極が分離して、清く軽いものはのぼって天となった〉


 中国の五行の考え方から「天」を規定しつつ、清代の天文学書『天経或問』――西洋天文学の知識も収録する当時最新の天文学書──も引用するなど、さまざまな資料を駆使しながら、丁寧な説明を心掛けています。何が面白いって、1700年代初頭の知識人のものの見方、捉え方が、ここに見事に出ているのです。


 あるいは「風」の説明。


 〈天地の気は、吐き出すと雲となり、溜息(ためいき)すると風となる〉


 さらに関連する和歌を引用(本書の特色のひとつです)。


 〈〔古今〕秋来ぬとめにはさやかに見えねども風の音にぞ驚かれぬる〉


 季節ごとの日の出日の入りの刻や、天気のことわざなどの実用的な記載もあり、〈明治時代に至るまで広く実用された〉のが頷けます。

 本書は、〈和漢古今の万物を天・地・人三才に分け〉(同「日本国語大辞典」)ているので「三才図会」という題名なのですが、この『和漢三才図会 1』は丸ごと「天」の巻。占いや暦、厄年などの項目も「天」に収録されており、当時の人のスタンスもここから垣間見えます。

 個人的には、「厄年」の説明で、〈根拠はわからない〉とあったのに笑いました。この時からすでに、厄年は根拠なき迷信だったようです。



本を読む

『和漢三才図会 1』(寺島良安著 島田勇雄・竹島淳夫・樋口元巳訳注)
今週のカルテ
ジャンル事典
刊行時期江戸時代中期
読後に一言実はこの連載、これで400回目を超えました。それを勝手に記念して大著を取り上げた次第。今後も不定期で『和漢三才図会』の続刊を紹介していきます。
効用原文は漢文ですが、本書は、わかりやすい現代語に訳されており、読んでも見ても楽しい事典になっています。
印象深い一節

名言
嗚呼(ああ)、文は杜撰(ずさん)、事の目論(もくろみ)も全く不十分なため、人々からそしり笑われるにちがいない。とはいうものの、夜遊登渉の輩に比すればましといえるであろうか(「自叙」)
類書同時代の風俗事典『人倫訓蒙図彙』(東洋文庫519)
本書に影響を受けた南方熊楠の論考・随筆・書簡集『南方熊楠文集(全2巻)』(東洋文庫352、354)
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