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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 710|713

『近世菓子製法書集成1、2』(鈴木晋一、松本仲子編訳注)

2019/07/11
アイコン画像    毎月15日はお菓子の日
「カステラ」を作ってみよう!?

 毎月15日は「お菓子の日」なんだそうです。全日本菓子協会の運営するwebによると、〈その昔、お菓子の神様をまつった例大祭が15日に行われていたことにちなんで、この日がお菓子の日になりました〉(『お菓子ナビ.com』)とのことです。

 スイーツ好きの私としては、15日を目前にしてお菓子に思いを馳せるのも悪くないな、ということで『近世菓子製法書集成(全2巻)』です。

 これが実はすごい本でして、〈明治以前の菓子製法書のすべてを網羅〉しているのです。

 で、中はこんな感じ。


 〈かすてぼうろ 卵一〇個に、砂糖一六〇匁(六〇〇g)、小麦粉一六〇匁を加えて、この三種をこねる。鍋に紙を敷いて粉をふり、こねたものを入れ、鍋の上下に火を置いて焼く。口伝がある〉(2巻「南蛮料理書」)


 〈かすてぼうろ〉とは、あのカステラのことです。

 〈1556年(弘治2)ポルトガルの宣教師が、長崎県の平戸(ひらど)に医療とともに伝えたといわれている〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」)

 本書によるとカステラは、〈江戸時代最も人気のあった高級南蛮菓子だった〉そうです。実際、本書収録の7編の菓子製法書のすべてにカステラが登場します。本書注いわく、〈本書(「南蛮料理書」)以後、日本では、卵、砂糖が増量され、水飴が加わって独自のカステラへと変化し、現在に至っている〉。

 本書ではその「変化」――製法の変遷をたどれます。「南蛮料理書」→「古今名物御前菓子秘伝抄」(1巻)→「古今名物御前菓子図式」(1巻)→「餅菓子即席手製集」(1巻)→「菓子話船橋」(1巻)→「鼎左秘録」(2巻)……といった具合です。「鼎左秘録」や「古今新製名菓秘録」(2巻)には、専用の〈かすてら鍋(カステイラ鍋)〉も登場します。

 〈400年にわたる長い時を経て、日本人独特の製菓感覚と技術が開発され、和菓子として今日のカステラが創造された〉(同前「ニッポニカ」)

 つまり本書は、「カステラ創造の歴史」としても捉え直すことができるというわけです(もちろん、カステラ以外の製法の変遷もわかります)。

 レシピも載っていることですし、さあカステラ作りにチャレンジしよう! ……というわけには、いきませんが、歴史を感じながら、これからはカステラを味わうこととします。



本を読む

『近世菓子製法書集成1、2』(鈴木晋一、松本仲子編訳注)
今週のカルテ
ジャンルフード
時代・舞台江戸時代の日本
読後に一言本書解説によると、カステラを伝えたとされるイエズス会宣教師は、〈日本での布教には権力者層への接近が最重要事であり、そうした人びととの社交には茶の湯が不可欠であることを知っていた〉そうです。カステラは布教のツールでもあったのです。
効用和菓子の歴史がここにあります。
印象深い一節

名言
和菓子の造型性や菓名・菓銘の文学性が外国の菓子と違ったムードと味覚を創り出している(第二巻、「解説」)
類書江戸の“食”事典『本朝食鑑(5巻)』(東洋文庫296ほか)
中華料理のレシピ『中国の食譜』(東洋文庫594)
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