日本国語大辞典 凡例

編集方針

  1. この辞典は、わが国の文献に用いられた語・約五十万項目に見出しを付けて五十音順に配列し、その一々について、意味用法を解説し、極力、実際の用例を示すとともに、必要な注記を加えるものである。
  2. 採録した項目は、古来、国民の日常生活に用いられて、文献上に証拠を残すところの一般語彙のほか、方言、隠語、また、法律・経済・生物・医学・化学・物理等、各分野における専門用語、地名・人名・書名などの固有名詞を含んでいる。
  3. 項目の記述は、次に掲げる要素から成り立ち、各項目ごとに、必要な要素をこの順に示す。
  4. 見出しのかたち、および解説文は現代仮名遣いによるなど、現代の視点に立って引きやすく読みやすいように配慮する。
  5. 語義説明は、ほぼ時代を追って記述し、その実際の使用例を、書名とその成立年または刊行年とともに示す。
  6. 用例文は、文学作品やいわゆる国語資料のみに限らず、広くさまざまな分野の歴史的な文献からも採録する。用例総数は約百万に及ぶ。
  7. 文献は、上代から明治・大正・昭和に及ぶ。また、漢語やことわざなどについては、中国の文献をも用いる。
  8. 文献は、それぞれ信頼すべき一本を選び、異本から採録する場合は、その旨を表示する。
  9. 用例文の出所は、できるだけ詳細にする。また、一見してその分野や時代がわかるように、分野名や作者名を付記するものもある。
  10. 語釈・用例文以外に、必要に応じて補助注記を施し、語誌・方言・語源説・発音・上代特殊仮名遣い・辞書・表記・同訓異字の欄を設けてそれぞれの分野の解説を収める。

見出しについて

[1] 見出しの種類

  1. かたちの上で、親見出しと子見出しの二段階があって、およそ次のように区別する。
    親見出し …… 自立語・付属語・接辞などの、いわゆる単語の類
    子見出し …… 慣用句・ことわざなどの類
  2. 記述の内容から、“本見出し”と“から見出し”があって、およそ次のように区別する。
    本見出し …… 解説・用例など、すべてを記述する項目
    から見出し …… 別に本見出しがあって、それををもって指示する項目

[2] 見出しの文字

  1. 和語・漢語はひらがなで示し、外来語はかたかなで示す。
  2. 和語・漢語については、古語・現代語の別なく、「現代仮名遣い」(昭和六十一年七月内閣告示)に準ずる。方言は、必ずしも現代仮名遣いには準じない。
  3. 外来語については、「外来語の表記」(平成三年六月内閣告示)に準ずる。本見出しに統合した見出しと異なるかたちは、見出しの下の《  》内に示す。また、必要に応じて別に見出しを立てて参照させる。

[3] 見出しの中に示すかな以外の記号

  1. 見出しの語の構成を考えて、最後の結合点がはっきりするものには、結合箇所に ‐ (ハイフン)を入れる。ただし、姓名等を除いた固有名詞・方言などには入れない場合が多い。
  2. 活用することばには、活用語尾の前に「・」を入れる。シク活用形容詞は、口語における語幹がそのまま終止形であるが、語尾の「し」の前に特に「」を入れる。

[4] 活用語の見出し

  1. 動  詞
    (イ) 文語形と口語形とが存在するものは、口語形を本見出しとして、文語形を……のかたちで示し、統合する。その場合、文語形については必要に応じてから見出しを立てる。
    (ロ) 原則として、終止形を見出しとする。
  2. 形 容 詞
    (イ) 文語形と口語形とが存在するものは、口語形を本見出しとする。
    (ロ) 原則として、終止形を見出しとするが、語幹を別項に立てるものもある。
  3. 形 容 動 詞
    (イ) 文語・口語ともに語幹を見出しとする。
    (ロ) 形容動詞の語幹と名詞とが同じかたちで存在する語については、原則として、その名詞の項目に統合する。
  4. 助 動 詞
    文語・口語ともに、原則として終止形を見出しとするが、他の活用形で語頭から終止形と一致しないものなどは、必要に応じてその活用形も別に見出しに立てる。

歴史的仮名遣いについて

  1. 歴史的仮名遣いが見出しの仮名遣いと異なるものについては、見出しのあとの[ ]の中に、その歴史的仮名遣いを示す。
  2. 見出しの-および「・」「 」は、歴史的仮名遣いの中では省略する。
  3. 見出しに-のはいるものは、その前後を分けて考え、見出しと歴史的仮名遣いが一致する部分は、「‥」によって省略して示す。
  4. 和語はひらがな、漢語(字音語)はかたかなで示す。ただし、その区別の決めにくい語のうち、漢字の慣用的表記のあるものは、その漢字の歴史的仮名遣いに従う場合もある。
  5. 字音語のうち、音変化をきたして今日のかたちになっている語、「観音(クヮンオン→クヮンノン→カンノン)」の類、「天皇(テンワウ→テンノウ)」の類、および、「学校(ガクカウ→ガッコウ)」の類は、便宜上それぞれもとのかたちの「クヮンオン・テンワウ・ガクカウ」を、歴史的仮名遣いとして示す。
  6. 方言・固有名詞などでは、歴史的仮名遣いの注記を省略するものもある。

漢字欄について

  1. 見出しの語に当てられる慣用的な漢字表記のうち主なものを【 】の中に示す。
  2. 慣用的な漢字表記が二つ以上考えられる場合、それらを併記するが、その配列は、主として現代の慣用を優先する。その判断を下しがたいものは画数順に従う。
  3. 見出しの語の構成上、漢字を当てる慣用のない部分を含むものについては、原則としてその見出しを-の前後に分けて考え、その部分に─を当てて示す。ただし、その要素が外来語である場合は、語構成にかかわらず外来語の部分に─を当てて示す。
  4. いわゆる当て字の類もできるだけ示し、植物などで漢名を当てる慣用のあるものについては、その漢字をも示す。ただし、万葉集等での万葉がな書きは示さない。また、当てる漢字の読みの歴史的仮名遣いが見出し語のあとに示したものと異なる場合は、適宜それを示した。
  5. 字体は常用漢字表に従い、構成のいちじるしく異なるものなどについては必要に応じて、いわゆる旧字体をも示す。複合語で、かたかな・ひらがな、またはローマ字で書く慣用が固定していて、漢字と熟合するものについては、それらをも含めて示す。
  6. 送りがなは一切省略する。
  7. 固有名詞の項目では、書名等の原題表記を漢字欄に示すこともある。

品詞欄について

  1. 見出し語について、次の品詞表示を設ける。
    名詞 〔名〕
    代名詞 〔代名〕
    動詞 〔自カ四〕 …… 自動詞カ行四段活用
    自動詞・他動詞の区別を、自・他で示し、活用する行とともに活用の種類を次の略号で示す。
     
    四段活用   四 (現代語は便宜上 五 と示す)
    上一段活用  上一
    上二段活用  上二
    下一段活用  下一
    下二段活用  下二
    カ行変格活用 カ変
    サ行変格活用 サ変
    ナ行変格活用 ナ変
    ラ行変格活用 ラ変
    形容詞 〔形ク〕 …… 形容詞ク活用
    〔形シク〕 …… 形容詞シク活用
    〔形口〕 …… 形容詞口語形活用
    形容動詞 〔形動〕 …… 形容動詞ナリ活用
    〔形動タリ〕 …… 形容動詞タリ活用
    〔形動ナリ・タリ〕 …… ナリ活用・タリ活用両様あるもの
    副詞 〔副〕
    連体詞 〔連体〕
    接続詞 〔接続〕
    感動詞 〔感動〕
    助詞 〔格助〕 …… 格助詞
    〔副助〕 …… 副助詞
    〔係助〕 …… 係助詞
    〔接助〕 …… 接続助詞
    〔終助〕 …… 終助詞
    〔間投助〕 …… 間投助詞
    助動詞 〔助動〕
    接頭語 〔接頭〕
    接尾語 〔接尾〕 …… 助数詞を含む。
    造語要素 〔語素〕 …… 造語要素としてのはたらきのある和語・外来語
    漢字語素 〔字音語素〕 …… 造語要素に準ずる漢字音の要素
    連語 〔連語〕 …… 親見出しに立てられても単語とみなされないもの
    枕詞 〔枕〕 …… 品詞に準じて示す。
    以上のほか、方言の動詞・形容詞・形容動詞・助詞については、それぞれ、細かい分類注記を省略して、〔動〕〔形〕〔形動〕〔助〕と示す。
  2. 品詞欄に準ずるものとして、次の注記を、語釈の冒頭に加える。

    (─する) …… それに続く語釈に関して、サ変としての用法も存在することを示す。ただし、その見出しの語の語釈すべてについてサ変の用法が認められるものについては、いちいち注記しない。

    (形動)(形動タリ) …… その語、ないし、それに続く語釈に関して、形容動詞としての用法も存在することを示す。

  3. 固有名詞は、特に品詞名を示さないで、普通名詞と区別する。

見出しの配列について

[1] 親見出しの配列

親見出しは、1かな表記、2無活用語・活用語の別、3漢字表記、4品詞、の順にそれぞれ一定の配列法に照らして配列する。
  1. かな表記による順
    (イ) 五十音順
    一字めが同じかなのものは二字めのかなの五十音順。二字めのかなも同じものは三字めのかなの五十音順。以下これに従う。この場合、長音符号「ー」は、直前のかなの母音と同じとして考える。
    (ロ) 清音→濁音→半濁音の順
    (ハ) 小文字が先、大文字が後。すなわち、拗音→直音の順、または促音→直音の順
  2. 活用の有無による順
    (イ) 無活用語が先、活用語が後。
    (ロ) 字音語素は同音語の先頭に置く。
    (ハ) ひらがなで書かれた語が先、かたかなで書かれた語が後。
  3. 漢字表記による順
    (イ) 漢字欄に、漢字が当てられるものが先、漢字が当てられないものが後。
    (ロ) 漢字が当てられる場合、その漢字が一字のものが先、二字のものが後。以下これに従う。
    (ハ) 同数の漢字が当てられる場合、第一字めの漢字の画数が少ないものが先、その画数が多いものが後。第一字めの画数が同じものは康熙字典の配列に準ずる。また、同一漢字の場合は、二字めの画数が少ないものが先、画数の多いものが後。以下これに従う。
  4. 品詞による順
    (イ) 名詞→代名詞→形容動詞→副詞→連体詞→接続詞→感動詞→助詞→接頭語→接尾語(無活用)→造語要素→連語(無活用)→枕詞→動詞→形容詞→助動詞→接尾語(活用)→連語(活用)の順
    (ロ) 名詞の中では、普通名詞→固有名詞の順
  5. 外来語で、同じかなの見出しは、その語のもとのローマ字つづりのアルファベット順による。

[2] 子見出しの配列

  1. 親見出しの語を先頭にもった慣用句・ことわざの類は、その親見出しの直後に置く。
  2. 子見出しが二つ以上ある場合は、その五十音順による。その場合、漢字は、それをかなに置きかえてみたときの五十音順による。

語釈について

[1] 語釈の記述

  1. 一般的な国語項目については、原則として、用例の示すところに従って時代を追ってその意味・用法を記述する。
  2. 基本的な用言などは、原則として根本的な語義を概括してから、細分化して記述する。
  3. 専門用語・事物名などは、語義の解説を主とするが、必要に応じて事柄の説明にも及ぶ。

[2] 語釈に用いる分類記号

語義・用法を分ける場合、説明に応じて次の分類記号を段階的に用いる。

【一】【二】 …… 品詞または動詞の自・他の別、活用の種類の別などによって分けるとき

〔一〕〔二〕 …… 根本的な語義が大きく展開するとき、漢字の慣用がいちじるしく異なるとき、または、一項にまとめた固有名詞を区別するとき

(1)(2) …… 一般的に語釈を分けるとき

(イ)(ロ) …… 同一語釈の中で、特に位相・用法の違いなどによってさらに分けるとき

[3] 語釈冒頭の注記

語釈の冒頭に、必要に応じて次のような注記を(   )内に示す。

  1. 和語・漢語について
    (イ) 語の成り立ちの説明および故事・ことわざの由来など
    (ロ) 仮名遣い・清濁・活用・漢字表記などの問題点
    (ハ) 用法の説明、または品詞に準ずる注記
  2. 外来語について
    (イ) その原語名と、ローマ字での原つづり、または原つづりのローマ字化つづり、および必要に応じてその原義をも示す。
    (ロ) 原語名は、次のような略号を用いる。
    {英}…英語 {ドイツ}…ドイツ語 {フランス}…フランス語 など
    ただし、英語のうち米国語を区別する必要のあるときは{アメリカ}と示す。
    (ハ) 外国語に擬して日本でつくられた語には{洋語}と示し、その語の成り立ちが推測できるものについては、その該当する原語名・原つづりをも注記する。
  3. 固有名詞について
    (イ) 書名・地名などの原表記。外国の書名はその原つづりをローマ字化したつづり
    (ロ) 外国人名の原つづりをローマ字化したつづり

[4] 語釈の末尾に示すもの

語釈の末尾に、必要に応じて次のようなものを示す。

  1. 語釈のあとにつづけて同義語を示す。
  2. 同義語の後に反対語・対語などをを付して注記する。
  3. 参照項目は、前項につづいて→を付して注記する。
  4. 季語として用いられるものは、語釈の最後に《 》でくくって、新年・春・夏・秋・冬の別を示す。なお、見出し語から派生する季語は、語釈の最後に▼を付してその語と季を示すこともある。

[5] 語釈の文章および用字

常用漢字表、現代仮名遣い等にのっとり、できるだけ現代通用の文章で記述する。

出典・用例について

[1] 採用する出典・用例

  1. 用例を採用する文献は、上代から現代まで各時代にわたるが、選択の基準は、概略次の通り。
    (イ) その語、または語釈を分けた場合は、その意味・用法について、もっとも古いと思われるもの
    (ロ) 語釈のたすけとなるわかりやすいもの
    (ハ) 和文・漢文、あるいは、散文・韻文など使われる分野の異なるもの
    (ニ) 用法の違うもの、文字づかいの違うもの
    なお、文献からの用例が添えられなかった場合、用法を明らかにするために、新たに前後の文脈を構成して作った用例(作例)を「 」に入れて補うこともある。
  2. 用例の並べ方は、概略次の通りとする。
    (イ) 時代の古いものから新しいものへと順次並べる。
    (ロ) 漢籍および漢訳仏典の用例は、末尾へ入れる。

[2] 典拠の示し方

  1. 各出典についておのおの一本を決め、それ以外から採る必要のあるときは、異本の名を冠して示す。ただし、狂言など、すべてについて伝本の名を表示するものもある。
  2. 底本は、できるだけ信頼できるものを選ぶように心がけたが、検索の便などを考え、流布している活字本から採用したものもある。近・現代の作品では原本も用いたが、文庫本や全集本から採用するものもある。
  3. いくつかの名称をもつ出典名は一つに統一して示す。ただし、「物語」「日記」「和歌集」等を省略したものもある。
  4. 出典の成立年、または刊行年をできるだけ示す。正確な年次のわからないものについては、大まかな時代区分で示したものもある。また、成立年に関して諸説あるものについては、一般に通用しているものを一つだけ示す。
  5. 巻数・部立・章題・説話番号・歌番号など、必要に応じてできるだけ詳しく示す。
  6. 作者名を、それぞれ〈 〉の中へ付記したものもある。
    (イ) 和歌・連歌・俳諧のうち類纂形態のものについては、用例文の末尾に作者の姓名を付記する。
    (ロ) 近・現代の作品には、その作者の姓名を付記する。
  7. 作品のジャンルを示したものもある。
    (イ) 幸若・謡曲・狂言・御伽草子などの類。
    (ロ) 近世の作品には、なるべく仮名草子・浮世草子・咄本・談義本・俳諧・雑俳・浄瑠璃・歌舞伎・随筆・洒落本・滑稽本・人情本等のジャンルを冠する。
  8. 以上の出典のうち、主要なものについては付録に掲げる「主要出典一覧」に概略を示す。

用例文について

用例文は、語釈のあとに*印をつけて示す。
用例文は「 」でくくり、適宜句読点を加えるなど、できるだけ読みやすくする。ただし、見出しに当たる部分は、なるべく原本のかたちに従う。

  1. 見出しに当たる部分の扱い
    (イ) 原則として原本のかたちを尊重するが、漢字の字体については次項「3. 漢字の字体について」による。
    (ロ) 万葉がな・ローマ字等はそのまま表記し、適宜( )内に読みをかたかなで付記する。ただし、万葉がなのうち、訓がなの場合はひらがなで示したものもある。
    (ハ) 見出し部分の漢字について、その読みが原本につけられているものは( )内にかたかなで示す。原本の読みが不確実な場合は、その部分をひらがなで補う場合もある。訓点資料なども、この原則に従う。
    (ニ) 原本の行の左右に付された訓注的なものを〈注〉のかたちで示す場合もある。
    (ホ) 拗音・促音は、確実なものに限って小字とする。
  2. 見出しに当たる部分以外の扱い
    〈表記〉
    (イ) 和文は、原則として漢字ひらがな混り文とする。ただし、ローマ字資料や辞書については、かたかなを使う場合がある。
    (ロ) 万葉集・古事記・日本書紀・風土記・古語拾遺・日本霊異記・祝詞・宣命、および訓点資料は、原則として読み下し文で示す。
    (ハ) 漢文体、およびそれに準ずるものは、できるだけ返り点を付ける。
    (ニ) 原本がかな書きでも、読みやすくするために、原文の意味をそこなわない範囲で漢字を当てるものもある。
    〈仮名遣い〉
    (イ) 上代から中世に至る、書写されて受け継がれた作品群は、歴史的仮名遣いで統一する。ただし、中世の和文の記録(「御湯殿上日記」など)や狂言・幸若・御伽草子の類は、拠ったテキストの仮名遣いに従う。
    (ロ) 近世から現代に至る、主として印刷されて受け継がれた作品群は、テキストの仮名遣いに従う。
    (ハ) 漢字の読みをたすけるふりがなも前述の原則に従う。
    (ニ) 拗音・促音は、拗音・促音であることが確実なものに限って小字とする。
  3. 漢字の字体について
    (イ) 原則として常用漢字表の字体に従う。ただし、二つ以上の字体があって整理されたものや、芸=藝・欠=缺など別字と混乱するおそれのあるものについては、必要に応じて旧字体を残すこともある。
    (ロ) 常用漢字表外の漢字については、原則として拠ったテキストの字体を尊重するが、極端な異体字や、成り立ちが同じで、かたちの類似しているものについては、なるべく普通のかたちを採用する。
  4. その他

    原本ないしテキストにおける、文字の大小の使い分け、割注のかたちなどは、一行書きとする。この場合、〈 〉( )〔 〕などを適宜用いて、もとのかたちに準じて区別する場合もある。

補助注記について

語釈およびそれに伴う解説では十分に述べられない記述や、諸説のある問題点、用字や用例に関する注などの補助的注記を【補注】として示す。

語誌欄について

語の由来や位相、語形の変化、語義・用法の変遷、類義語との差異などを特に説明できるものについては、それらを【語誌】として示す。

方言欄について

[1] 収録する方言とその収め方など

  1. 近代の方言集・地誌の類、千余点から、約四万五千の方言を収録する。ただし、近世の方言集をも合わせ記載する場合もある。
  2. 一般語で扱う見出しと語の成り立ちが同じものは、その見出しにまとめて、末尾に【方言】と示して解説する。
  3. 一般語に該当する見出しがないものは、単独の見出しを立てて、語釈の冒頭に【方言】と示して方言独自の解説をする。
  4. 方言として独立する見出しは、方言の特殊性から次の扱いをするが、それ以外は一般語の扱い方に準ずる。
    (イ) 発音に近いかたちを見出しとする。
    (ロ) 用言については、終止形にこだわらないで、慣用の多いかたちを見出しとする場合もあり、活用語尾を示す・は省略する。
    (ハ) かたちの類似する同語源の方言のうち、一項にまとめたほうが理解しやすいものは、主たるかたちを定めて見出しとし、その見出しのもとに類似するかたちを集める。その際、類似するかたちは《  》の中に示す。
    うざねはく
    【方言】
    《うざねをはく》 …… 《おざねはく》 …… 《うじゃねはく》 …… 《うざにはく》 …… 《うんざにはく》 …… 《うさねこく》
    (ニ) 歴史的仮名遣いの欄は設けない。
    (ホ) 意味の上から漢字を当てて漢字欄に示したものもある。
    (ヘ) 品詞欄のうち、動詞・形容詞・形容動詞・助詞は、それぞれ〔動〕〔形〕〔形動〕〔助〕とし、その活用の種類や分類は示さない。

[2] 解説

方言欄の解説は、語釈、例文、地域名、出典番号から成り、その順に記述する。

  1. 語釈
    (イ) 一般語でいいかえられるものは、それに置きかえるなど、簡潔を旨とするが、方言集などの記述をそのまま残すものもある。
    (ロ) 一般語と意味が重なる場合は、一般語の解説にゆだねる。一般語の意味が多岐にわたる場合は、重複して記述する。
    (ハ) 動植物については、一般的な名称をあげるにとどめる。まぎらわしいものについては、適宜、動物・鳥・魚・貝、あるいは植物などと注記する。
  2. 例文
    語釈をたすける意味で適宜作例を補うこともある。
  3. 地域名
    (イ) 各方言集などに示される地域名をそのまま掲げる。従って、その地域名は現在の行政区画とは必ずしも一致しない。
    (ロ) それぞれの語釈の中で複数の地域名を示す場合、その順は、おおむね北から南へ並べる。
  4. 出典番号
    (イ) 典拠とした千余点の方言集その他の資料を番号化して、地域名のあとに示す。
    (ロ) 出典番号は、三桁の数字ないし記号で示す。
      ○  近世の資料には†を付し、†001~†139の番号で示す。
      ○  全国的な規模で収集されている資料は、001~064の番号で示す。
      ○  その他の出典番号は065以降の数字とし、地域を大別できるようにする。
    以上の出典番号と資料名は、付録に掲げる 「方言資料および方言出典番号一覧」 に示す。

語源説欄について

  1. 文献に記載された語源的説明を集め、【語源説】の欄に、その趣旨を要約して、出典名を〔 〕内に付して示す。
  2. 一つの見出しについて二つ以上の語源説が存在するものは、(1)(2) …… と分けて示す。その順は必ずしも時代順や、その評価によらず、要旨の関連性によって整理する場合が多い。
  3. およその趣旨を同じくするものは、共通の要旨でまとめて、〔 〕内にその出典名を、ほぼ時代順に併記する。
  4. 要約は極力原文の趣旨をそこなわないようにつとめるが、次のような処理をする。
    (イ) もとになる語を示す場合や、音変化を示す記述では、その語はかたかなで示し、当てられる漢字を( )内に付記する。ただし、仮名遣いは原文を尊重する。
    (ロ) 言い伝えや、推測によるものは「…という」とか「…か」という表現で示す。
  5. 出典名はなるべく略称を用いないこととし、近代のものには作者名を書名のあとに=を付して注記する。

発音欄について

発音に関する注記を、【発音】の欄に次のような順序で示す。

◆語音について

[1] 標準語音

ここに注記する語は、現代語を中心として、その標準語音が見出しと異なるものである。ただし、現代語でなくても、現代語として発音できるものについては、必要に応じて加える。

  1. ーは引く音を表わす。
    こうり【行李】  【発音】コーリ
    こおり【氷】  【発音】コーリ
  2. のようなものは、それぞれ「イ」「ウ」のようにも、前の拍の母音をひいて、引く音「ー」のようにも、発音されることを表わす。
    ていねい【丁寧】  【発音】(テイネイともテーネーとも)
    かなしい【悲】  【発音】カナシ(カナシイともカナシーとも)
    くう【食】  【発音】(クウともクーとも)
  3. は、ウとも[m]とも発音されることを表わす。
    うめ【梅】  【発音】メ (ウメとも[mme]とも)
  4. はガ行鼻音[‐]を表わす。
    とげ【刺】  【発音】
    ガ行[‐]・行[‐]両様に発音されるものは両形を示す。
    がが【峨峨】  【発音】(ガ)
    あまごぜ【尼御前】  【発音】アマゴ()ゼ
  5. ヂ、ヅはそれぞれジ、ズにあらためる。ただし、ヂ、ヅだけが見出しと異なるものについては、いちいち注記しない。
    ちぢみあがる【縮上】  【発音】チジミア
    つづみ【鼓】  発音注記なし
  6. 動詞終止形の文語の発音は次のように示す。
    おもう【思】  【発音】オモーとも
    はらう【払】  【発音】ハローとも
  7. 外来語でガ行鼻音になるものでも、見出しとそれだけが異なるものについては、いちいち注記しない。
    イギリス  発音注記なし
    イギリスご【─語】  【発音】リス

[2] 語音史

  1. 発音の変遷を、個別的な変化をとげた語について解説する。原則として、規則的な変化をとげた語は除く。たとえば、語中語尾のハ行の音節は、同じ時期に一斉に変化したと考えられるので、いちいち発音の変遷についてはふれない。
  2. 現代語を除いては文献に記載された資料をもとに解説するが、文献の名をいちいち記さず、それらの推定される時代を次のように表記する。
  3. 上代 平安 中世(あるいは、鎌倉、室町のようにも) 近世 現代
    資料からはっきり時代を推定できないものについては、「古くは」「後世」という表現を使うこともある。
    いちじるし【著】
    平安頃までいちしるしと清音らしい。中世・近世はいちしるしいちじるしの両様か。
  4. 現代語については、主として東京を中心とする標準的発音について述べる。

[3] なまり

近代諸方言において、いわゆる標準語と発音のかたちは違っていても、もとは同じものから出たと見られる語をなまりとしてとりあげ、そのなまりと地域を示す出典とを、その標準語のの欄に記す。
かしこい【賢】
【発音】 カシカイ〔南伊勢・紀州・和歌山県〕 カシクイ〔NHK(宮崎)〕 カシケ〔千葉・鳥取・鹿児島方言〕 カシケー〔岩手・福島・鳥取〕 カシッケー〔埼玉方言・神奈川〕 カスケ〔岩手・秋田・鳥取〕 カスケェ・カッケ〔岩手〕 カッコイ〔大阪・伊予〕
なお、標準語は現代標準語の場合だけでなく、過去の標準語の場合もある。また、諸方言の中に琉球諸方言までは含めない。
  1. なまりは原則として個別的な変化語形を中心にして、東京方言におけるヒ→シのような音韻法則的なものは除く。ただし、音韻法則的なものでも、一般にあまり知られていないものや、行なわれている地域が狭いものは、便宜上とりあげる場合がある。
  2. とりあげるなまりの資料名と略号は、付録に掲げる 「なまりの注記に用いる資料および略号一覧」 に示す。

◆アクセントについて

[4] 標準アクセント

  1. 現代使われる語を中心として、[  ]の中に現代の標準的なアクセントを注記する。付属語、東京以外の方言、特殊な古語などのように一定したアクセントを考えがたいものには注記をしない。また、見出しが二つ以上の構成要素から成り立っていて、それぞれの要素のアクセントから全体が類推できるものも原則として注記をひかえる。
  2. 注記のしかた
    (イ) [ ]の中のかたかなは、〔 〕の上に示すように、その音節が高いことを表わす。
    この場合、名詞については、助詞の部分まで含めて示す。
     
    そら【空】 [ソ] 高低低
    〔ソラ
    のはら【野原】 [ノ] 高低低低
    〔ノハラ
    やま【山】 [マ] 低高低
    〔ヤマ
    かきね【垣根】 [キ] 低高低低
    〔カキネ
    (ロ) [ ]内のかたかなが第三拍以後にあるものは、第一拍が低く、第二拍からそのかたかなまで高いことを表わす。
     
    おもて【表】 [テ] 低高高低
    〔オモテ
    みずうみ【湖】 [ウ] 低高高低低
    〔ミズウミ
    わたしぶね【渡船】 [ブ] 低高高高低低
    〔ワタシブネ
    (ハ) [0]は、第一拍が低く、第二拍から最後まで高いことを表わす。
     
    かぜ【風】 [0] 低高高
    〔カゼ
    やなぎ【柳】 [0] 低高高高
    〔ヤナ
  3. アクセントを注記する拍と同音の拍が別にある場合は、番号をつけて示す。
    こころ【心】 [コ]<2>
    低高低
    〔ココロ〕
  4. [ ]内のかたかなは標準語音で示す。ただし、見出しと異なるかたちを[ ]内に示す場合でも標準語音を注記しないこともある。
    かげえ【影絵】 【発音】エ [ケ゜]
    うまうま【旨旨】 【発音】マ [ウx]<1>
    ゆのみぢゃわん【湯呑茶碗】 【発音】[ジャ]
    オルゴール 【発音】[コ゜]
  5. 一語について、二種以上のアクセントがある場合は、標準的アクセントと思われる型を先に示す。
    あかとんぼ【赤蜻蛉】 【発音】[ト][ア]
  6. 一語について、二種以上のアクセントがあり、それぞれの標準語音が異なる場合は次のように示す。
    おおい【多】 【発音】オオイ[オ]<2> オーイ[オ]
  7. アクセントによる切れ目のあるものは=で前後をつなぐ。この場合、アクセントは=で切ったそれぞれのアクセント単位内で数える。なお、標準語音のある場合は、その場所に=を入れて示す。また見出しの語構成ハイフンと一致しない場合、または見出しにハイフンの注記がないなど、切れめがわかりにくい場合に限り、あらためて標準語音に=を入れて示す。
    ななころび‐やおき【七転八起】
    【発音】 [ナ]<2>=[ヤ] [コ]=[ヤ]
    いろは‐しじゅうはちもじ【以呂波四十八文字】
    【発音】イロハ=シジューハチモジ[ロ]=[チ]
    さんじゅうさん‐かいき【三十三回忌】
    【発音】サンジュー=サンカイキ[サ]=[カ] ([サ]<1>=[カ]とはしない)
    あまのはしだて‐まつり【天橋立祭】
    【発音】アマノ=ハシダテマツリ[ア]=[マ]
    いちのたにふたばぐんき【一谷嫩軍記】
    【発音】イチノタニ=フタバグンキ[ノ]=[グ]
  8. 動詞文語形の発音で見出しと異なるかたちが示してある場合、アクセントを次のように( )内に入れて示す。
    はらう【払】 【発音】ハローとも [ラ]([ロ])
  9. 外来語に限り、異形欄《 》のアクセントも次のように《 》内に入れて示す。
    ウォーター(英water)《ウオーター》  [ウォ]《[オ]》

[5] アクセント史

  1. 文献の記載をもとにして推定された京都アクセントにおける歴史的変化を注記する。
  2. 過去の文献の名をいちいち記さず、それらのアクセントから推定される時代を次のように示す。
    平安 鎌倉 室町 江戸
  3. 注記のしかた
    (イ) アクセントは次のような記号を用いて示す。はそれぞれ一拍を表わす。
     
     高く平らな拍
     低く平らな拍
     高から低にくだる拍
     低から高にのぼる拍

    かぜ【風】  平安来
    こと【事】  平安・鎌倉 室町来
    あめ【雨】  平安来
    いぬ【往】  平安
    にじ【虹】  平安の両様 鎌倉
    はぎ【脛】  平安 鎌倉
    (ロ) 一拍語はすべて二拍に発音されたと推定されるので、二個分の記号を用いて示す。この場合、語音表記をの次に示す。
     
    【子】  コー 平安来
    【木】  キー 平安・鎌倉 室町来
    【毛】  ケー 平安・鎌倉か江戸
  4. 活用形などを示す必要のあるものは次のようにする。

    あかい【赤】  あかし  平安 鎌倉あかき 江戸あかき

    あける【開】  あく   平安 鎌倉・江戸あくる

    〈注意〉
    いわゆる四段活用、上・下一段活用の動詞にあっては、語音の前に終止形と連体形の区別がないが、平安時代は終止形のアクセントを、鎌倉時代以後は連体形のアクセントを示す。
    かく【書】  平安 鎌倉来
  5. アクセント史の記述のために用いた資料の主なものは、付録に掲げる 「アクセント史の資料」 に示す。

[6] 現代京都アクセント

  1. 現在、日常生活でふつうに使われる語について、現代京都におけるアクセントを( )[ ]の中に、かたかなまたは0を入れたかたちで注記する。現代京都アクセントはアクセント史を考える上に重要な意味をもつばかりでなく、標準語と対蹠的な性格をもち、かつ、西日本の方言では今なお大きな勢力があると考えて注記するものである。
  2. 初版に記載されている京都アクセントが現在の京都の老年層ではあまり使われていないものである場合、または現在複数のアクセントが老年層では行なわれているにもかかわらず、初版ではその一方しか記載していない場合、初版で示したアクセントはそのまま残し、今回新たに調査を行なった京都アクセントを/のあとに示す。調査は明治三〇~四〇年代から大正初年生まれの数名の話者に対して行なったものである。
    いたわさ【板山葵】  [0]/(0)
  3. 注記のしかた
    (イ) ( )の中のかたかなは、その拍だけが高いことを表わす。
     
    たまご【卵】 (マ) 低高低低
    〔タマ
    ふぞくご【付属語】 (ク) 低低高低低
    〔フゾク
      ( )の中のかたかながその語の最後の拍であるものは、例外として、その拍が高から低にくだることを表わす。
     
    あめ【雨】 (メ) 低高低低
    〔アメェ
    マッチ (チ) 低低高低低
    〔マッチィ
      (0)は最後の拍だけ高く、それ以外は低いことを表わす。なお、一般の助詞がついた場合は、高い部分が助詞に移る。
     
    そら【空】 (0) 低高 低低高
    〔ソラ ソラ
    すずめ【雀】 (0) 低低高 低低低高
    〔スズメ スズメ
    (ロ) [ ]の中のかたかなは、第一拍からその拍まで高いことを表わす。
     
    はな【花】 [ハ] 高低低
    〔ハナ
    ひとり【一人】 [ト] 高高低低
    〔ヒトリ
    かいたくしゃ【開拓者】 [ク] 高高高高低低
    〔カイタクシャ
      [0]は、すべての拍が高いことを表わす。
     
    はな【鼻】 [0] 高高高
    〔ハナ
    さくら【桜】 [0] 高高高高
    〔サクラ
  4. 京都語音が見出しの語形と異なる場合には、必要に応じてのあとに京音を示す。
    とい【樋】 トユ(ユ) 低高低低
    〔トユゥ
    あゆ【鮎】 アイ(イ) 低高低低
    〔アイィ
    しち【質】 ヒチ[ヒ] 高低低
    〔ヒチ
    ろじ【露地】 ロージ[ー]/(ー) 低高低低
    〔ロージ
  5. 京都語音では、一拍語は原則として二拍に発音されるので、のあとに京音を特に示す。
    【碑】 ヒー[0] 高高高
    〔ヒー
    【日】 ヒー[ヒ] 高低低
    〔ヒー
    【火】 ヒー(0) 低高 低低高
    〔ヒー ヒー
  6. ガ行音と行音とは音韻的に区別がなく、同じ条件の場合にも交替しうるから、アクセントは「ガギグゲゴ」で示す。
    かげ【陰】 (ゲ) 低高低低
    〔カゲェ
  7. アクセントを注記する拍と同音の拍が語中にある場合は、番号をつけて示す。
    いろいろ【色色】 (ロ)<1>/(0) 低高低低
    〔イロイロ〕
    いよいよ【彌】 [イ]<1> 高低低低
    〔イヨイヨ〕
    ほお【頬】 ホホ(ホ)<2> 低高低低
    〔ホホォ

上代特殊仮名遣いについて

  1. いわゆる上代特殊仮名遣いに関係する仮名で、甲乙の区別のあるものは、【上代特殊仮名遣い】の欄に上代語の語形をあげ、着色をしてその別を示す。仮名が青色のものは甲類に属することを、仮名が赤色のものは乙類に属することを示す。
    おとめ 【少女・乙女】   【上代特殊仮名遣い】
  2. 単独語の場合のみ示し、複合語の場合は原則として示さない。また、固有名詞の場合も示さない。
  3. 確実な表記例が甲乙両類にわたってある場合は両形を示す。また、甲乙の認定に問題がある場合は、そのことについて簡単に解説を加える。

辞書欄について

  1. 平安時代から明治中期までに編まれた辞書のなかから代表的なものを選んで、本辞典の各見出しと対照し、その辞書に記載がある場合には、【辞書】の欄にそれぞれの略称を示す。
  2. 扱った辞書およびその略称は次の通り。該当するものが二つ以上ある場合は、次にあげる順に従って示す。
    新撰字鏡〔京都大学文学部国語学国文学研究室編「新撰字鏡─本文篇・索引篇」による〕字鏡
    和名類聚抄〔京都大学文学部国語学国文学研究室編「諸本集成和名類聚抄─本文篇・索引篇」による〕和名
    色葉字類抄〔中田祝夫・峯岸明編「色葉字類抄研究並びに索引─本文索引編」による〕色葉
    類聚名義抄〔正宗敦夫編「類聚名義抄─第壹巻・第貮巻仮名索引」による〕名義
    下学集〔亀井孝校「元和本下学集」森田武編「元和本下学集索引」による〕下学
    和玉篇〔中田祝夫・北恭昭編「倭玉篇研究並びに索引」による〕和玉
    文明本節用集〔中田祝夫著「文明本節用集研究並びに索引─影印篇・索引篇」による〕文明
    伊京集〔中田祝夫他編「改訂新版古本節用集六種研究並びに総合索引─影印篇・索引篇」による〕伊京
    明応五年本節用集〔伊京集に同じ〕明応
    天正十八年本節用集〔東洋文庫監修「天正十八年本節用集」〕天正
    饅頭屋本節用集〔伊京集に同じ〕饅頭
    黒本本節用集〔伊京集に同じ〕黒本
    易林本節用集〔伊京集に同じ〕易林
    日葡辞書〔イエズス会宣教師編による〕日葡
    和漢音釈書言字考合類大節用集〔中田祝夫・小林祥次郎著「書言字考節用集研究並びに索引─影引篇・索引篇」による〕書言
    和英語林集成(再版)〔東洋文庫複製本による〕 ヘボン
    言海〔大槻文彦著の明治二四年刊初版による〕言海
  3. 対象とした語は、それぞれの辞書に訓みが付されているものに限る。ただし、訓みが不完全でもはっきり推定できるものは対象として扱う。
  4. 辞書に連語の形で記載されているものは、適宜分析してそれぞれの単語の項に収めるが、この「日本国語大辞典」が親見出し及び子見出しとして立てている複合語・派生語についてはその扱いをしない。
  5. 活用語の場合、転成名詞と考えられるものは名詞の見出しに、それ以外はその終止形を推定して、それぞれの見出しに収める。
  6. 先に掲げた索引類の性格をそのまま踏襲する部分と、適宜勘案する部分とがある。その主な点は次の通り。
    (イ) 「新撰字鏡」は天治本と享和本とを一括して扱う。ただし、万葉がなで記されたもの、ないしそれに準ずるものを採る。
    (ロ) 「和名類聚抄」は、箋注本(十巻本)と元和本(二十巻本)とを一括して扱う。ただし、採否については、「新撰字鏡」の場合に同じ。
    (ハ) 「色葉字類抄」は、前田本と黒川本とを一括して扱う。ただし、上巻・下巻において、前田本と黒川本で掲げる語形に違いがある場合は、前田本のみを対象とする。一字漢語については単語と確定できるものは採るが、字音語素と考えられるものは採らない。
    (ニ) 「類聚名義抄」は観智院本名義抄によるが、高山寺本・蓮成院本等によって誤字が訂正される場合はそのかたちを採る。
    (ホ) 「下学集」は、元和三年版により、本文左右の訓をはじめ、注の部分にある語も訓のある限り対象とする。
    (ヘ) 「和玉篇」は、慶長十五年版和玉篇により、和訓のみを対象とする。
    (ト) 「文明本節用集」は、「下学集」の扱いに準ずる。
    (チ) 「伊京集」はじめ六種の節用集は、「下学集」の扱いに準ずるが、「天正十八年本節用集」にみられる後筆による書き込みは一切対象としない。
    (リ) 日葡辞書は、見出し語を対象とする。
    (ヌ) 「書言字考節用集」は、享保二年版本の見出し語について、左右の付訓すべてと、注部分の語も訓のある限り対象とする。

表記欄について

前項の「辞書」に挙げられている漢字表記を【表記】の欄に典拠の略号とともに示す。

  1. 略号は「辞書欄について」の2に示した通り。
  2. 典拠の数が多いものの順に並べる。
  3. 典拠の数が同じときは、おおむね古いものから並べる。
  4. 同一の典拠で表記が複数ある場合は併記するが、典拠が一つしかなく、しかも漢字表記が多種ある場合は確実なものを優先して適宜取捨選択する。
  5. 字体は、原則として、常用漢字表にあるものはそれを用い、必要に応じて旧字体で示す場合もある。異体字については通行の活字体で示す。

同訓異字欄について

  1. 主要な和語で、同じ見出しの語に異なる漢字を当てることがある場合には、末尾にそれらの漢字を集め、【同訓異字】の欄に字義と用法を解説する。
  2. 取り上げた漢字については、見出し漢字欄に示してある順に並べ、その後に漢字欄にないものを画数順に並べる。
  3. 漢字の次に代表音を( )で括って示し、字義と、必要に応じて熟語例を示す。
  4. 末尾に、《古…》の形で、その漢字の古訓を示す。古訓は、「類聚名義抄」「和玉篇」など、「辞書欄について」の2に挙げたものによる。

その他

[1] 見出し相互の関連について

見出しを立てても、その解説をそれぞれ別の見出しにゆだねる場合、次のようなかたちで示す。

  1. 解説をゆだねる項目が親見出しの場合
    あずまおり【東折】 「あずまからげ(東紮)」に同じ。
    あいず【会津】 あいづ(会津)
    いい事(こと) 親見出し
  2. 解説をゆだねる項目が子見出しの場合
    いいこうい【以夷攻夷】 「い(夷)を以て夷を制す」に同じ。
    あかき心(こころ) 「あかい(明)」の子見出し

[2] 字音語素について

  1. 漢語を構成する字音の要素について、漢字ごとに簡単にその意味を示し、その漢字が構成する熟語を掲げる。
  2. とりあげる漢字は、日本の文献に用いられてきたものを中心にするが、熟語の例は、漢籍に用いられるものにも及ぶ。
  3. 同音の漢字を一つの親見出しのもとに集め、それぞれの漢字を【 】で括って子見出しとする。
  4. 親見出しの〔字音語素〕の表示の下に、収載する同音の漢字の一覧を掲げる。
  5. 同音の漢字は、主として、字形構成上の表音部分によって分類し、表音部分を共通にするものを類として、表音部分の画数によって配列する。共通の表音部分をもたない漢字は、最後に一括して一類とする。
  6. 表音部分を共通にする漢字の類の中では、画数順に配列する。
  7. 共通表音部分をもたない漢字の類の中では、総画数によって配列する。
  8. 漢字ごとにその意味を区分して熟語をあげる。さらにその熟語の構成上の役割から、重畳、対義・類義結合、後部結合、前部結合等を/で区分けして列記する。
  9. 漢字欄には、常用漢字については、新字体を示し、そのあとに=を付して旧字体をも示す。
  10. 漢字欄の横に、その見出しとした音の呉音・漢音・唐音・慣用音の別をそれぞれの略号で示す。ただし、呉音・漢音が同音のものについては省略する。
  11. 漢字欄の下に、歴史的仮名遣いを示す。
  12. その漢字の別音を別の字音語素として掲げるときは〔→……〕のように、また、一般語に、その字音が独立して語をなすものを名詞等として掲げるものがあるときは、それぞれ、を用いて参照すべきことを示す。

[3] 五十音の仮名字体表について

  1. 五十音のひらがな、かたかなの字体表を音ごとに掲げる。
  2. 字源となるものの楷書を表示し、以下省略の順序をあげて、現今の字形の起源が理解できるように示す。
  3. 異体仮名、変体仮名を、主要な写本から選んで、その出典とともに掲げる。
  4. 古事記・日本書紀・万葉集に見られる主要な万葉がなを付記する
    (初版の際に中田祝夫博士の指導を得た)

[4] 図版について

  1. 風俗・服飾・有職・調度・図像・仏具などについて、絵巻物・図誌あるいは作品のさしえなどから模写し、その出典を明記して掲げる。
  2. 動物・植物・文様・紋所・構造等、語釈のみではわかりにくいものについて、それを図示する。

[5] 用例の扱いについて

  1. 『日本国語大辞典』は、上代から現代に至るおびただしい数の文献を拠り所として、日本語の意味・用法を明らかにすることを目的とした辞典である。本書に用例として掲げた文の中には、過去における社会状況やひとびとの認識の実態を反映して、今日の視点からすれば差別的であると思われる語句や内容を含んだものが存在している。もとより差別は許されるべきではなく、編集部では用例の選択や解説文中において十分配慮したが、日本語の総体と日本人の思考・感情のすがたを、歴史的かつ客観的に把握するための資料としての重要性にかんがみ、原文のまま引用・掲載したものもある。

オンライン化にあたって

「日本国語大辞典」のオンライン化にあたって次のような事象が発生します。


表示上の事象

  • JIS規格の文字について

    検索性能の向上をはかるため、可能なかぎり置き換えられるものについてはJIS規格の文字を採用しました。その結果、書籍と字形が異なる場合があります。

検索上の事象

  • 歴史的仮名遣い

    見出し語は、歴史的仮名遣いによる検索はできません。歴史的仮名遣いの検索は、詳細検索の範囲を指定して行ってください。