第146回
「ルビ」は英語だが、英語に「ルビ」はない

 小学生向けの国語辞典は現在10社ほどの出版社から刊行されているのだが、そのほとんどが総ルビになっている。総ルビというのはすべての漢字に振り仮名が付いているということである。なぜ小学生向けの辞典がそのようになっているのかというと、小学生の間に広まっている「辞書引き学習」に、低学年からも取り組めるようにという配慮なのである。「辞書引き学習」の開発者である深谷圭助氏は、講演会やワークショップなどで必ず「総ルビの辞書を買ってください」と呼びかけている。
 ところがあるとき、会場にいた保護者から「ルビってなんですか?」という質問があった。
 確かに編集に関わっている人間にとっては「ルビ」はふつうに使われる語なのだが、一般の方にはあまり馴染みのない語だったのかもしれない。ましてや、なぜ振り仮名を「ルビ」と言うかなどということをご存じの方は、あまりいらっしゃらないであろう。
 「ルビ」は元来は印刷用語で、振り仮名用の活字の名称だったのである。振り仮名の起源は平安時代初期に漢文に付けた訓点(漢文を訓読するための手がかりとして、漢字の上や脇に書き入れる文字や符号)に始まると言われている。後に漢字の読みを示すために脇に付けた平仮名を「振り仮名」と呼ぶようになり、さらに活版印刷が主流になった明治時代になって「ルビ」とも呼ばれるようになったのである。
 この「ルビ」は英語の「ルビー(ruby)」、すなわち宝石のルビーに由来する。英語ではやはり印刷用語として、5.5ポイントの大きさの活字を「ruby」と呼んでいたのである。
 だが、もちろん英文に振り仮名が存在するわけではない。ではなぜ振り仮名=ルビになったのかと言うと、日本で五号活字(「号」は活字の大きさを表す単位。数が多くなるほど小さくなる。現在はほとんど使われない)の振り仮名として用いた七号活字が、欧文活字のルビーとほぼ同じ大きさだったところからこのように呼ばれるようになったというわけである。あくまでも日本での呼び名なのである。
 だが、手許の国語辞典で「ルビ」を引いてみると、「ルビ」の起源に言及せず、単に「ruby」という英語を示すだけのものがある。英語に「ruby」という語は存在しても、振り仮名の意味ではないのだから、日本独特の「ルビ」の起源について触れる必要があるのではないかと思う。

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