第77回
方言だとは気づかなかった「はぐる」

 本当は方言なのに話し手が共通語だと思い込んで使っていることばを、方言研究者は「気づかない方言」と呼んでいる。筆者は千葉県の出身であるが、東京に近い土地で生まれ育ったため、自分が使っていることばは共通語だと長い間思い込んでいた。
 ところがあるとき新宿出身の知人に、「それ、方言じゃないですか」と言われすっかり自信を無くしてしまった。それが「~はぐる」という言い方である。
 共通語の「~はぐる」は「~しそこなう」の意味で、「食べはぐる」「見はぐる」は、食べたり見たりする機会を失うの意味になる。
 ところが、筆者が「遅刻しはぐった」とか「死にはぐった」とか言うと、それは遅刻しそうになる、死にそうになるという、「あやうく~しそうになる」という意味なのである。
 筆者の方言を指摘した知人は筑波大学の出身で、大学のある茨城の人がやたら「はぐる」を使うのでかなり違和感をもったらしい。この「~しそうになる」の意味の「~はぐる」は茨城だけでなく栃木県にも分布しているそうだ。
 思い当たるのは筆者の両親の親が、それぞれ父方か母方の一方が茨城の出身者だったことだ。文字通り気づかないうちに受け継がれてきたらしい。
 編集部ではこのような「気づかない方言」を、編集部の「Web日本語」というホームページで毎月紹介している。ひとつは東京女子大学篠崎晃一教授の連載コラム『共通語な方言』、もうひとつは篠崎教授とそのゼミ生による『女子大生でも気づかない方言』である。
 後者は方言ネタの4コマ漫画の吹き出しを実際に方言ネイティブの女子大生の声で聞くことができる。アクセスしていただけると幸いである。

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