第8回
的を射てはいないかもしれない
「的を得る」の話

 また「的を得る」は間違いだという話か、とお思いになった方も大勢いらっしゃるかもしれない。確かにそれもあるのだが、ことはそれほど単純ではないという話をしたいのである。
 国語辞典を引くと、「的を射る」が正しく、「的を得る」は「当を得る」との混同で誤用とするものが多い。そういわれれば、はいわかりましたと引き下がるしかないのだが、「的を得る」は本当に「当を得る」との混同なのか、さらには「的を得る」自体が本当に誤用なのかという疑問をどうしてもぬぐい去ることができないのである。
 というのも似たようなことばに「正鵠(せいこく)を得る」があるからである。この語は漢籍の『礼記』に見える「正鵠を失わず」からきている。「正鵠」とは、的の真ん中にある黒点の意で、要所・急所の意となる。「失わず」だから、後に意味の同じ「得る」となったわけだ。とすると、「的を得る」は「正鵠を得る」から生じた言い方で、「正鵠」は的の中心なのだから、その部分が「的」に変わってもあながち間違いとは言い切れない気がする。さらには、「的を得る」の使用例も文学作品などで少しずつ見つかっている。『日国』を見ると、「的を得る」には、高橋和巳の小説『白く塗りたる墓』(1970)の例が引用されている。
 ひょっとすると、誤用だと言い切る表現は、そろそろ見直すべき時期にきているのかもしれない。

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