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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 717

『マナス 青年篇 キルギス英雄叙事詩』(若松寛訳)

2019/12/12
アイコン画像    「少年ジャンプ」より熱い!?
キルギスのヒーローの友情物語

 「棚卸(たなおろし)」という言葉があります。『日本国語大辞典』(ジャパンナレッジ)で調べてみると、文字通りの期末の在庫数量確認のほか、〈(比喩的に)人の現況や過去の行動などをすっかり調べること〉や、〈人や物の欠点を一つ一つ数えあげて指摘すること。旧悪を一つ一つ取りあげてとがめだてること〉という意味もあります。最近のビジネスシーンでは「キャリア(スキル)の棚卸し」「人脈の棚卸し」などという言い方もあり、ようは「自分を見直す」というような意味で使われているようです。

 というわけで、当連載の棚卸しをしてみました。

 今年の7月、ジャパンナレッジの東洋文庫収録作品が増えたのですが、それ以前に取り上げた作品の続編が追加される、ということにもなりました。ようは中途半端なまま紹介し、そのままになっていた、ということです。

 そのひとつが『マナス』。〈キルギスの遊牧民の間に伝わる口承文学〉で、〈遊牧首長のマナス,その子セメテイ,その孫セメテクの3代にわたる〉、〈長大な韻文の叙事詩〉(ジャパンナレッジ「世界文学大事典」)です。で、遊牧首長マナスの物語が「少年篇」「青年篇」「壮年篇」に分けて収録されており、「少年篇」(2015/06/04)だけ紹介していたのでした。

 で、今回は「青年篇」です。これがね、いいんです。物語の柱は、往年の「週刊少年ジャンプ」、あるいは「三国志」の劉備と関羽の関係を彷彿とさせる「仲間(=友情)」。マナスが、アルマムベト(いわば関羽)という右腕を獲得するくだりが、ひとつの山場なのです。アルマムベトというのは、故国を侵略され、諸国を放浪していた人間で、マナス側から見ればよそ者。ところがマナスは、アルマムベトに会った瞬間、狂喜乱舞状態。


 〈友を神がくださったぞ。同志諸君、吉報!〉


 一方で、アルマムベトは自分の境遇に自虐気味。


 〈お願いです、神よ、どこか適当なところで死をお遣わしください。(中略)哀れなわたしは天涯孤独です。乾くことなく流れております、目から涙が〉


 マナスはすでに地域を治めるひとかどの人物です。強制的にアルマムベトを配下に置くこともできます。しかしあくまで、共に戦う友として傍らにいることを望みます。ゆえに、こう口説くのです。


 〈望むならここにいよ。望むなら行け。ぼくに遠慮するな。自分に正直であること、それがぼくの希望だ〉


 この熱さ、いいなあ。



本を読む

『マナス 青年篇 キルギス英雄叙事詩』(若松寛訳)
今週のカルテ
ジャンル詩歌
時代・舞台英雄時代のキルギス(20世紀半ばに採録)
読後に一言マナスとアルマムベトが義兄弟になると、突然、マナスの母親の乳が膨らんだのには笑いました。で、右の乳首をマナスが、左をアルマムベトが吸うという……(名言も参照)。
効用本書の前半(1~5章)は、ほぼ戦いの記録。6章でのアルマムベトの出会いで、物語は大きく動き出します。
印象深い一節

名言
(マナスの母が、息子のマナスに向かって)「三十にもなる大の息子が乳なぞ吸いおって」(第八章「マナスとアルマムベトの盟約」)
類書この物語の前編『マナス 少年篇』(東洋文庫694)
この物語の後編『マナス 壮年篇』(東洋文庫740)
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