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日国を使うにはわけがある!
2007年09月

JKボイス-日国を推挙する理由:ジャパンナレッジ 歴史研究者からみた「日国オンライン」

山本博文さん
東京大学史料編纂所教授

歴史の研究者である私にとっても、『日本国語大辞典』(以下、『日国』)は必須の道具である。歴史系の史料用語に弱い部分もあるが、思いがけない言葉が載っていて、恥をかかずに済んだことも多い。自宅の書斎では、イスの背後に『日国』と『国史大辞典』と『寛政重修諸家譜』を並べ、どれでもすぐに取り出せるようにしているが、大学の研究室では少し離れたところにあって不便だった。しかし、「日国オンライン」があれば、机の上のパソコンで閲覧できる。

書斎の『日国』も、すぐに取り出せるとはいっても、重いし、他の項目を参照するために何冊も机の上に置くと、使いにくい。「日国オンライン」だと、必要な項目をプリントアウトして参照できるので、作業は飛躍的に楽になる。

たとえば江戸幕府の役職名は、基本的に将軍に奉仕するものだから「御」が頭に付く。しかし、辞典を引くときに、御をつけるかどうか迷うことも多い。実際に引いてみると、御があったりなかったりだが、重要な役職だと両方で項目が立っている。

こうしたことを確かめるには、「日国オンライン」に限る。たとえば、「老中」は、「御老中」と呼ばれたはずなのだが、『日国』では御がない。しかし、これは勝手に省略したわけではない。老中の項目の例文に『徳川禁令考』や『新可笑記』があって、当時から「老中」と記されることがあったことがわかる。それなら、自分の著書で御を省略してもよいだろう、と考えることができる。史料を調べればわかることだが、それでは手間がかかりすぎるし、『日国』にはすぐには考えつかない出典も載っている。

一方、「側用人」ならどうだろうか。これは、「側用人」「御側御用人」両方で項目が立っている。「御側御用人」の用例には『職掌録』があげられ、「御側御用人」と出てくる。一方、「側用人」の用例は、『徳川実紀』に「御側用人」、中村真一郎氏の小説『雲のゆき来』に「側用人」がある。江戸時代には、基本的に御がついていたことが推測できるが、「御側用人」だったり、「御側御用人」だったりすることがわかる。決まった呼び方がなかったのだから、これも「側用人」としても問題ないだろう。

細かいことであるが、一般書にこうした役職を書く場合、御を付けるかとるかというのはけっこう気になることである。「日国オンライン」で検索しておけば、悩む必要がなくなる。しかも、「おそば」で検索すれば、「御側」「御側御用取次」「御側御用人」「御側衆」と関連する役職がどれだけ載っているかがすぐわかるので、たいへん重宝する。「側衆」だとどうだろうかとふと思い立って、「そば」を見出しの部分一致で検索してみると、「青蕎麦」から始まって膨大な数が出てきて役に立たなかった。「側衆」なら問題なく出てくる。項目の説明は「御側衆に同じ」というものだが、用例に『東職紀聞』が引いてあって、当時から「側衆」とも言われていたことがわかる。やみくもに検索するのもおもしろいが、それなりにスキルが必要である。

用例が豊富なことが、『日国』の最大の長所である。それにしても、見出し語の御の有無まですべて用例を根拠にしていたことに驚き、『日国』のすごさを再認識した。その用例までがデータベース化されることによって自由自在に参照できることは、何よりもありがたいことである。もう「日国オンライン」を手放せそうにない。