第12回 「親孝行」が商売になった!? |
ジャパンナレッジで『日国』の見出し検索を行うと、検索結果の見出し語のあとにという表示のある項目がある。このマークは、語釈の内容を補うための図版が掲載されていることを表している。その数は約5,000点。
『日国』で図版が掲載されている項目は、大きく2つに分けられる。ひとつは、風俗・服飾・有職・調度・図像・仏具など日本の伝統文化や風習にまつわる絵で、これらは絵巻物・図誌あるいは作品の挿絵など歴史的文献から模写したもの、もうひとつは、動物・植物・文様・紋所・物の構造など、語釈のみではわかりにくいものについて、それを図示したものである。
図版が掲載されている項目を開くと、語釈の脇にサムネール画像(小画像)が配され、クリックすれば拡大表示されるようになっている。
残念ながら「図版」というキーワードで図版が掲載された項目を検索することはできないのだが、何かを検索していてという表示がある項目に寄り道してみるというのも「日国サーフィン」の楽しみのひとつである。
この機会を借りて、筆者お気に入りの図版のうち、江戸の珍商売を2つほどご紹介したい。
先ずは「親孝行」。『日国』によれば、「江戸末期、張り抜きの男の人形を胸に抱き、ちょうど孝行息子が親を背負ったようにみせかけ、『親孝行でござい』と町中を流して、銭をもらい歩いた乞食」がいたのである。『日国』の図版は『東都男女風俗図』という本の挿絵の模写なのだが、この絵のとぼけた味わいが何とも言えないのだ。絵を見ると、ひげ面で固太りの中年男をきゃしゃな若者が負(お)ぶっているように見えるが、実際には若者の方が人形なのである。このようなものが商売になっていた江戸という町は、本当にのどかだったというか、懐が深いと思う。ひょっとすると、皆だまされていることはわかっていて、シャレだと思って銭を与えていたのかもしれない。
もうひとつは「針金売り」。これは、『盲文画話』という本の模写で、かなり疲れたなりの老人が両手に輪にした針金を持ち、さらには首にまでかけている絵である。絵そのものもなんだか鬼気迫るものがあるのだが、『日国』の語釈がなんとも想像をかき立てるのだ。
「針金を売り歩く人。特に、江戸市内に売り歩いた行商人。江戸幕府の隠密で市中の情報を集めていたといわれる」
本当だったのだろうか。もしそうだとしたら、時代小説や時代劇に登場させたいようなキャラクターである。しかし、「隠密」だったといううわさはどの程度広まっていたのであろうか。誰しもが知っていたとしたら、何のために針金を首までかけるような目立つ姿をしていたのだろうか。あれこれ考えると止まらなくなる。
『日国』は"図版サーフィン"も楽しい。