第15回 『日国』で良寛を読む |
「全国良寛会」という団体がある。その名の通り、江戸時代の僧良寛の遺徳を顕彰することを目的とした会で、事務局は新潟市にある。その会員で新潟県にお住まいの吉田福恵さんから、良寛の歌が『日国』のどの項目に全部で何首引用されているのか教えてほしいというお手紙を頂いた。
このようなとき、俄然威力を発揮するのがジャパンナレッジである。『日国』で引用した良寛の作品は和歌と漢詩がある。
和歌は主に「良寛歌」の表示で引用されているので、『日国』を個別検索にして、検索語:「良寛歌」/範囲:「用例(出典情報)」で検索してみる。すると、185件ヒットする。そのほか良寛の和歌は、「良寛書簡」「良寛自筆歌」「はちすの露」の形で引用されており、それらも各1例ずつある。
また、良寛の漢詩は『草堂集』に収録されているのだが、『日国』の用例には「草堂集」という文字を含む書名が他にもあるので、詳細検索で検索語:「草堂集」〔かつ(AND)〕「1816」/範囲:「用例(出典情報)」で検索すると41件見つかる。また、「良寛詩」という表示のものもあるので、それで検索すると13件見つかる。
このことを吉田さんにご報告したところ、『良寛だより』という全国良寛会の会報でインターネット版『日国』のこととあわせて紹介してくださった(2009年10月第126号)。また、最新の良寛研究の成果を踏まえて、『日国』が底本にした東郷豊治編「良寛全集」の不備もお教えいただいた。
良寛の和歌が引用されている項目を見ると、当然のことながら和語の多いことに気づく。
たとえば「あ」だけでも下記のようなものがある。
あがたつかさ【県司】・あからひく【赤引】・あきかた【明方・開方】・あさじ が 宿(やど)・ あさでこぶすま【麻手小衾】・あさなけに【朝日】・あさにけに【朝日】・あしき 気(け)・あだくらべ【徒比・徒競】・あだびと【他人】・あつらいもの【誂物】・あとかた(も)無(な)い・あまのみこと・あまびと【天人】・ありの悉(ことごと)・ありがよう【在通】・ありきぬ【─衣】・ありそみ【荒磯海】
それぞれの項目をのぞいてみると『万葉集』の歌が先行する用例として引用されていることが多いことに気づく。良寛と『万葉集』との関係はよく言われることだが、『日国』の用例からもそれが実証されたことになる。
『日国』で引用している200件以上の良寛の和歌や漢詩が、良寛の作品の中でどのような位置を占めているのかは、門外漢の筆者にはよくわからない。それが数として多いのか少ないのかということも。しかし、辞書を使って、ことばから特定の人の歌を読むというのも「日国サーフィン」ならではの楽しみなのではないだろうか。
たとえば「あ」の最初の「あがたつかさ【県司】」に引用されている良寛歌は、「遠(お)ち近(こ)ちのあがたつかさにもの申すもとの心を忘るるなゆめ」という和歌である。素人が良寛の和歌について述べることは慎むべきなのかもしれないが、「あちらこちらの地方役人に申し上げます、どうぞ民を慈しむ本来の心を忘れないでください」いった意味と思われる。飢饉の多かった時代である。良寛の目線は何よりも弱者に向いていたようだ。今の時代でも良寛と同じ思いを抱いている人は大勢いるであろう。
『日国』で"良寛サーフィン"をぜひおすすめしたい。