第18回 “けっこう毛だらけ”ことば―無駄口― |
相手のことば尻をとってちゃかしたりまぜかえしたりするときや、自分の言おうとしていることばをストレートには言わずにおどけてみせるときに使うことばがある。
映画『男はつらいよ』で、渥美清が演じた「フーテンの寅」が、「けっこう毛だらけ猫灰だらけ」と言っていたあれ、である。
これらのことばは「無駄口」とか、「付け足しことば」とか呼ばれている。「日国サーフィン」をすると、この「無駄口」が数多く見つかるのである。ただ、『日国』所収のすべての「無駄口」が同じ形式にはなっていないので、一度に抽出するのはけっこう難しいのだが。
たとえば、画面を詳細検索にして、
検索語:「しゃれ」、または〈OR〉「ことば遊び」、または〈OR〉「茶化」
範囲:全文
で検索をかけるとこれらのことばが多数ヒットする。その数は1,394件。もちろん必要のないものもヒットしてしまうのだが、順に見ていくとけっこう楽しい。この手のことばは言い回しの発想にさまざまなパターンあるようなので、今後も機会があれば整理して紹介していきたいのだが、今回はちゃかしたりまぜっかえしたりするときのことばを中心に紹介していきたい。
寅さんの「けっこう毛だらけ猫灰だらけ」は『日国』で引用した久保田万太郎の小説『露芝』(1921年)では、「結構毛だらけ灰だらけ」となっており、そういう言い方もあったことがわかる。
映画では寅さんはこの後に「おしりの周りはクソだらけ」と、いくら「だらけ」つながりとはいえあんまりな言い回しを続けていたが、残念ながら(?)そこまで記録した文献例は現時点では確認できていない。寅さん(山田洋次監督)のオリジナルであろうか。
『日国』にはこんな「無駄口」が項目としてある。ほんの一部だが紹介してみよう。
a. いか にも 蛸(たこ)にも
b. おそれいりやのきしもじん(恐入谷鬼子母神)
c. おどろき 桃(もも)の木(き)山椒(さんしょ)の木(き)
d. かたじけなすび(忝茄子)
e. こっち へ きなこ餠(もち)
意味はおわかりであろうか。念のために簡単に解説しておく。
a. 応答のことば「いかにも」を「烏賊(いか)にも」ともじり、イカの縁で「蛸にも」とつづけたしゃれ。
b. 「おそれいる(恐入)」の「入る」を、地名の「入谷」にかけ、同地にある鬼子母神とつづけたしゃれ。
c. これは驚いたという意味を、「おどろき」の「き」に「木」を続けて語呂(ごろ)を合わせたしゃれ。
d. 「かたじけない」の「ない」を「なすび」に置きかえたしゃれ。ありがたいの意。
e. 「こっちへ来な」に「黄粉餠(きなこもち)」を言いかけたしゃれ。
これらの他にも、なるほどと思えるもの、なーんだとちょっとがっかりさせられるものなど、まさに玉石混淆である。だが、それはそれで読んでいるとけっこう楽しい。
ぜひ『日国』を検索して読んでいただけたら"ありがた山のホトトギス"。ところでこんな文章を最後まで読んでくださって、"アリが十匹サル五匹"。
では、"さよなら三角、またきて四角"。