第22回 「根性」があればいいというわけではなかった!? |
この「日国サーフィン」のほかに、ジャパンナレッジでは「日本語、どうでしょう?」というコラムも連載しているのだが、先日そこで「梅根性」ということばについて書いたところ、アクセス数がけっこう多かったということであった。ありがたいことである。
そこで今回は調子に乗って「根性」の話をもう少々してみたい。ただしもともと根性のない人間なので尻切れトンボになっても、そこはお許しいただきたい。
「根性」の語源は、「根」は力があって強いはたらきをもつもの、「性」は性質の意味で、仏教で仏の教えを受ける者としての性質や資質のことをいうことばであった。元来の仏教語としては、好悪いずれのニュアンスも伴っていなかったのだが、中世以降、生まれつきの性質という意味に変化していくと、それが多く好ましくない人の性質についていうようになる。
特に江戸時代になるとそれが顕著となり、単独で使われる場合も「○○根性」の形で使われる場合も、悪い意が主となってしまう。
だから、アニメ「巨人の星」の主題歌に出てくる「ど根性」も江戸時代では、
「いたづら娘のど根性と同じことで、エエあたけたいのわるい(=胸くそが悪い)」
(歌舞伎「隅田川続俤(法界坊)」〔1784〕)
のように、何物にもくじけない強い根性ではなく、根性のずぶとさ、したたかさなどをののしっていう語になってしまったのである。
ちなみに、『日国』を、
検索語:根性/範囲:見出し/条件:後方一致
で検索すると、「○○根性」という語が多数見つかる。
ざっと見ていくと、「盗人根性」「野次馬根性」「島国根性」「悪(わる)根性」など、現在でも悪い意味で使われているものばかりである。コラム「日本語、どうでしょう?」で紹介した「梅根性」も、梅はなかなか酸味を失わないところから、しつこくてなかなか変えがたい性質のことで、いい意味とは言い難い。
動植物の性質というかイメージと結びついた「○○根性」という語も多く、
菊根性:菊は桜と違って散りぎわが悪いところから、離れぎわが悪い、未練がましいことのたとえ。
牛根性:牛のように、無口で根気強い性質。
猫根性:うわべは柔和そうに見えながら、内心は執念深く貪欲(どんよく)であること。
鼠根性:人間がいない時に器物や食品を荒らす鼠のように、こそこそと悪事をはたらくずるい性質。
鳩根性:鳩の含み声の感じから、表面はおとなしく見えながら、不満がちな性質。
などなど、ウシ以外はやはりあまりいい根性とはいえない。
これが、苦しみや困難に耐え、事を成し遂げようとする強い気力という、良い意味へと大きく振れていくのは第二次世界大戦以後のことである。その理由としては、スポーツや教育とのかかわりから、「(悪い)根性を鍛える」という考え方が起こり、その結果として「(鍛えられた良い)根性」が生まれると考えられ、「根性」だけで好ましい意を伴って使われるようになったと考えられる。
好悪の振れ幅が時代によってこれほど大きいことばも珍しいかもしれない。