第24回 「雨」の名前 |
季節の変化の大きい日本には、天気・気象を表すことばが数多くある。そのようなことばを集めたら面白いのではないかと思い、『美しい日本語の辞典』(2006年小学館辞典編集部編)という辞典に、「雨」「風」「雲」「雪」「空」を表すことばを集めて紹介したことがある。
それらのことばをどのように探したのか、タネを明かすといちばん頼りになったのは『日国』とその検索システムであった。
『美しい日本語の辞典』を手がけていた当時、ジャパンナレッジではまだ『日国』検索のサービスは始まっていなかったのだが、編集部内ではすでに『日国』全データの検索が可能だったのでそれを活用した。そのシステムを使って、何か新しい読み物風の辞典を作ってみたいという思いもあったのである。
基本的な検索の仕方は単純である。
『日国』の個別検索を選択して、
検索語:「雨」/範囲:見出し/条件:後方一致
にするだけでよい。
そうすると「~雨」という、「雨」が下につく語が426件見つかるはずだ。ただ、この検索だと残念ながら「夕立」「嵐」「卯花腐(うのはなくたし)」のような雨という漢字を使わない雨のことばは検索には引っかからないのだが……。
検索結果を頭から見ていくと、日本語には実に多彩な雨のことばや名前のあることがわかる。『美しい日本語の辞典』ではこれらを整理し、さらに検索できなかった語も加え392語収録した。『日国』のように各語の用例は多くないが、代表的な和歌、俳句等の用例や、『日国』にはない用例も加えて、それはそれで読みやすい内容になっていると思う。
だが、今は『美しい日本語の辞典』の宣伝ではなく『日国』の検索結果の話である。そこで、この場を借りて筆者の好きな雨のことばをいくつか紹介させていただきたい。
御湿(おしめり):雨を待ち望んでいる時や、望んでいて適度の降雨があった時にいう。
甘雨(かんう):草木をうるおし、生長を助ける雨。
狐(きつね)の嫁入(よめいり):日が照っているのに、小雨の降ること。
紅(くれない)の雨(あめ):花に降りそそぐ雨を美しくいった語。
催花雨(さいかう):植物の開花を促すような雨。これが「菜花雨(さいかう)」に転じ、やがて四月頃の菜種梅雨(なたねづゆ)になったといわれる。
猫毛雨(ねこんけあめ):方言。(1)佐賀県地方で、小雨。(2)宮崎県地方で、霧雨。(3)福岡県地方で、麦作に嫌う雨。
鼠(ねずみ)の嫁入(よめいり):香川県地方で、日が照っているのに雨の降る天気。
書き出したらきりがない。下の2語は方言だが、「猫毛雨」は猫の毛の柔らかさを思わせる雨なのであろう。猫好きだったらすぐにわかることばだ。また、「狐」ではなく「鼠の嫁入り」という言い方があるのも面白い。
なお、「雨」という漢字の入っていない雨のことばの例として挙げた「卯花腐(うのはなくたし)」だが、「くたし」は腐(くさ)らすの意味で、陰暦四月の中・下旬に降り続く長雨が卯の花をくさらすことから、五月雨(さみだれ)に先立って降る長雨のことである。
このような語をひとつずつ見ていくと、日本人がいかに自分たちを取り巻く自然と深い関わりをもって生活してきたかがわかると思う。