第26回 星の和名をサーフィンする |
「ごじゃごじゃ星」「すずなり星」「むらがり星」「こぬか星」「つりがね星」「はごいた星」「いっしょう星」。
何のことだかおわかりであろうか ?
これらはすべて『日国』に見出し語として立項されているある星のことである。名前からすると、いくつかの星が集まっている星だということはすぐに推察できるであろう。
そう、すべて昴(すばる)の異名なのである。
昴はおうし座にあるプレアデスの和名である。プレアデスは恒星が不規則に集まった散開星団で、星の数は約140個あるといわれている。そのうちふつう肉眼で見えるのは6個で、「六連星(むつらぼし)」などともいわれる。だが、「七星(ななつぼし)」「九星(ここのつぼし)」などという異名もあるので、もっと見えた人がいたのであろう。さらに「ごじゃごじゃ星」「 すずなり星」「こぬか星」などという呼び名があるところをみると、もっと多くの星が見えた人もいたのかもしれない。
それにしても「ごじゃごじゃ」「すずなり」「むらがり」「こぬか」なんて、実に愉快な呼び名ではないか。
「ごじゃごじゃ」「すずなり」「むらがり」はひとつにまとまっていっぱいある!という感動というか印象がそのまま名前になってしまったようだ。
「こぬか」は「小糠」で、米を精白するとき、その表皮が細かく砕けてできる粉「ぬか」のことであるが、霧のような細かな雨を小糠雨ともいうように、「こぬか星」は細かな星の集まりという意味であろう。
「つりがね星」「はごいた星」は全体がそのように見えたということなのであろうか。
「いっしょう星」はどういうことなのかよくわからない。「いっしょう」は『日国』では「一升」という字を当てているが、「一緒」すなわち星がひとつにまとまっているという意味なのではないかという気もしないではない。
もともと昴という呼び名自体、統(す)べる星、すなわち多くの星をひとつにまとめるという意味から生じた名前である。
清少納言の『枕草子』に「星は、すばる。ひこぼし。ゆふづつ。よばひ星、すこしをかし」とあるのはあまりにも有名である。「ひこぼし」は七夕で有名な牽牛(けんぎゅう)星、「ゆふづつ」は夕方西の空に見える金星、「よばひ星」は流星のことである。
『日国』には昴以外の星の異名も数多く立項されている。それらの異名は『日国』では方言として扱われているものも多く、それらにはその語が使われている(使われていた)地域名も記載されている。それもあわせて読むことをお勧めしたい。
昴は冬の星なので日本で見えるのはこれからであるが、シーズンが到来したら楽しい異名を思い浮かべながらぜひ夜空を見上げてほしい。