第7回 「天下り」はいつからか? |
実は今回のタイトルには2つの意味をもたせている。
「天下り」ということばはいつから使われるようになったのかということと、「天下り」と書くようになったのはいつからかということである。
『日国』を見ると、官僚がそれまでの仕事と関連のある民間の会社、または団体などの高い地位に再就職するという意味の「天下り」には用例がない。だが、だからといって、「天下り」ということばが使われるようになったのは最近のことではなさそうである。と言うのも、『日国』では現在、「日国友の会」というサイトで広く読者の方々から用例の提供をお願いしているのだが、そこにはちゃんと明治時代の用例が投稿されているからだ(この「日国友の会」については後日稿を改めてご紹介するつもりである)。
『日国』の「天下り」には用例はないのだが、「あまくだる」という動詞形には用例がある。もっとも古いのは内田魯庵の『社会百面相』という小説からの例で、刊行は1902年。つまり、これも明治時代の用例で、天下りという制度(?)が間違いなく明治時代から存在していたことがわかる。
もうひとつ気になったのが「あまくだり」の表記である。
『日国』の「あまくだり」の表記欄には現在ふつうに使われている「天下」がなく、「天降」しか示されていない。なぜそのようなことになったのか。
最初は、現在の「常用漢字表」にもその前の「当用漢字」にも「降」という漢字には「くだり」「くだる」という読みを示されていないので、伝統的な表記の「天降」に対して、「くだり」「くだる」と読める「下」を含む「天下」が書き換えとして比較的最近生まれたものである、と説明しようと考えた。
ところが念のために、『日国』の用例文を「天下」で検索してみると、すべて天上界から地上界に降下するという本来の意味ではあるが、近世例に「天下」例が4例もあるではないか。先に触れた『社会百面相』も、『日国』の底本だけでなく国会図書館のデータベースで初版本を確認したところ、やはり「天下る」であった。
この期におよんではもはや弁解の余地が無く、『日国』の「あまくだり」「あまくだる」の表記欄には「天下」を加えるべきであったと今では思っている。いずれ機会を見つけて追加したい。
とは言うものの、「天下り」の用例がいくらさかのぼれたからといっても、「天下り」そのものを擁護する材料にはならないということは今更言うまでもない。